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数時間後

面会終了時刻が近づいても

優真さんは彼女の手を離そうとしなかった

言葉を発することはなく

ただずっと手を握り

眠る彼女をじっと見つめる

優真さんと警察署で初めて会ってからずっと

優真さんは彼女のことだけを想っていた

自分がどんな罪に問われようと

彼女が幸せならそれでいい

ただ彼女の無事だけを願い

愛する彼女を救いたい

その一心で私に訴え続けていた

その願いも虚しく

発見された彼女は傷だらけで

彼の呼び掛けに答えることもできず

今も言葉を交わせないまま

沢田マリカ

三村さん……

沢田マリカ

もう面会終了だそうです……

三村優真

朝までいてはダメですか!?

沢田マリカ

担当医の先生にも確認したんですけど

沢田マリカ

時間外の面会はできないそうです

芹沢大和

君も疲れたはずだ

芹沢大和

今日はひとまず戻ろう……

優真さんを説得して病棟を後にする

三村優真

あすみ……

三村優真

必ずまた会いに来るから……

優真さんはそう言うと

包帯の巻かれた左手にそっとキスをした

優真さんの想いは怖いくらいに一途で

凄く歪だけどキレイに見えた

彼女と出会い愛することを知った彼は

彼女と共に幸せになりたいと願い

傷つきあった心を共有することでお互いを知り

彼女も同じように愛することを知った

でも、幸せとは程遠い位置に

彼女は再び追いやられてしまい

どんなに家族からの愛を求めても

愛されることはなかった

そんな彼女を唯一愛し求めたのが彼だった

虐待によって傷ついた身体に触れ

自分を汚いと思っていた彼女の心に触れ

愛を知らずにいた彼の心が

彼女の心の美しさを引き出した

自分に向けられた愛を受け止めなければ

そんな義務感が希望に変わり

希望が愛に変わった

二人の過ごした三ヶ月間はきっと

私の想像を遥かに越えるものだったのかもしれない

所長の車で事務所へと向かう

優真さんはずっと俯いたまま

車が事務所に到着してからも

優真さんは悲しそうな表情をしていた

彼女を救出することができたとは言え

彼女はとても危険な状態だった

だから辛い気持ちもわからなくはない

でもそれ以上に気になったのはあすみさんの兄

井川静(じん)さんのことだった

頭の中に浮かぶ静さんの姿

井川静(じん)

お母さんに……

井川静(じん)

お母さんに叱られる……

あの時の静さんの顔が忘れられなかった

とても加害者とは思えない酷く怯えた表情

自分の意思で彼女を傷つけていたのなら

あんな顔はしないはず

やはり母親に命令されていたのか

門のところで兄と母親がすれ違った時

一瞬、静さんの動きが不自然に止まったように見えた

あの時、何かを言われたのか

再び彼女を傷つけるように命令でもされたのか?

静さんの身体にあった傷は母親によるものなのか?

芹沢大和

どうした?

沢田マリカ

あ、いえ……

今は目の前のことに集中しなければいけない

そもそも私は優真さんの担当だったのだから

このまま優真さんのケアもしていかなければ

でも何故だろう?

静さんのことが気になって

静さんが助けを求めているような

そんな気がしてたまらなかった

渇愛と純情ー愛の鎖に繋がれてー

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