俺は受けた言葉を思い出しながら...
小学1年生の頃から使っている勉強机の一番長い引き出しを開けてみる。
金星(まあず)
中には、''モンスター図鑑''と表紙部分にデカく書かれた焦げ茶色の本が1冊置いてあった。
おかしい...
いつもならここには大学の書類、写真とかノート類とかが入っている筈なのに...!!
金星(まあず)
パサ...(ページを開く音)
表紙の感触はザラザラとしており、古さを感じさせるが...
それとは逆に中のページ自体の感触はツルツルとしていて、新しさを感じさせる。
本の中身
見返し(遊び)部分
これから貴方が家に向かう道中、様々なモンスターに出会うことでしょう。その際、モンスターと対話を試みたい時にこの本をお使いください。
この本には、これから先に存在する全モンスターの名前、出身地、特徴、装備、それと年齢が記載されております。
相手の事を全く知らない状態で話しかけるよりかは、少しは知っておいた方がマシでしょう。
もしかしたら会話のネタになる情報が書かれていたり、貴方とモンスターの共通の趣味が見つかるかもしれませんからね。
これから先、苦難の道を歩む事になる貴方ですが
どうか、お気をつけて。
金星(まあず)
金星(まあず)
金星(まあず)
1ページ目
No.1
[写真]
名前:酸味男 出身地:弁当箱
特徴 ・蘊蓄を言うことが大好き ・明るい奴 ・コイツとは戦うな
装備:無し 年齢:9歳
※写真には全身が黄色で顔がレモンの形をした生き物が写っている。
No.2
[写真]
名前:積み木大好きん坊 出身地:トイザラス
特徴 ・ジャングルジムが大好き ・言語理解能力が著しく低い
装備:おもちゃの剣 年齢:1歳
※写真には、色取り取りおもちゃの積み木しか写っておらず、生き物と見受けられるものは無い。
No.3
[写真]
名前:戌落し 出身地:階段
特徴 ・犬が転げ落ちていく様を見るのが大好き
装備:無し 年齢:3歳
※写真には、黒い靄と空中で浮いている犬一匹が写っている。犬の表情はこの写真からでは読み取れない。
金星(まあず)
2ページ目から最後のページまで流し読みする。
金星(まあず)
他のページには1ページにつき、3体のモンスターが紹介されていたのに
最後のページだけは黒いクレヨンで殴り塗りしたみたいに全部真っ黒だ
金星(まあず)
パタッ(本を閉じる)
シャン
本を閉じた途端、俺の視界は真っ白になった。
金星(まあず)
影は1つも無い。
ここに墨汁をぶちまけたとしても、全部吸収されるんだろうな
少しの淀みすら無いその空間に俺は感動した。
だが、感動しているのも束の間。
光が俺をさっきまでいた自室に解放した。
金星(まあず)
先程の明るい空間から急に低明度の部屋に放り出された為...
目が慣れるのに時間がかかる。
だんだんと目が部屋の明るさに慣れてきて、視界が良好になる。
金星(まあず)
金星(まあず)
部屋を見渡すといつもの部屋じゃないことは床を見てすぐに分かった。
明らかにおかしいのだ。
床にあった筈のゴミが無い。
金星(まあず)
部屋の変化はもう1つあった。
炬燵の上に見知らぬ弁当箱が1つ置かれていた。
紺色の容器、蓋...サイズからして小学低学年の子供が使うような奴だ。
金星(まあず)
困惑した目でしばらく、その弁当箱をじっと見つめていると...
カタカタッ!
突然、弁当箱が動き出したのだ。
金星(まあず)
1歩下がる。
カタカタカタカタカタカタカ!!
カタカタ音はさらに加速し始めた。
ドンッ!
弁当箱が爆発を起こし、煙がたちこめる。
金星(まあず)
煙を吸い込んでしまい、たまらず咳が出てしまう。
金星(まあず)
煙の中に1つの影があった。
金星(まあず)
煙が晴れた。
???
ニョキっと甲高い声とともに、
弁当箱から全身が黄色で、顔面がレモンの化け物が出てきた。
うおっ!
驚きのあまり、ドスッと尻餅をついてしまった。
金星(まあず)
恐怖している俺なんかお構い無しに、そいつは意気揚々と喋りだした。
酸味男
酸味男
酸味男
金星(まあず)
上手く喋れない。舌が動かない。
体も魚籠ついている...。
これが、''戦慄''というやつなのだろう。
酸味男に視線を向けるだけで精一杯だ。
今、鏡で自分の顔を見たら、とんでもない不細工で情けない顔をしているんだろうな。
金星(まあず)
金星(まあず)
一瞬、このモンスターは何なのかと意味不明で分からないと感じていたが...
待てよ...?俺はコイツを知ってる?
その時、頭の中で電球がピッカリーンと光った。
金星(まあず)
金星(まあず)
酸味男
酸味男
酸味男
金星(まあず)
金星(まあず)
ここは...
ずっと無口でいたら、このモンスターを怒らせる可能性がある
キレると何をしてくるか分からない
だから...まずは会話を試みてみよう
金星(まあず)
酸味男
酸味男
酸味男
金星(まあず)
酸味男
酸味男
酸味男
酸味男
酸味男
酸味男
酸味男
酸味男
酸味男
酸味男
ええええ??!
と驚かない俺...。
なぜなら知ってるからだ。
だが、ここで''そんなもん知っとるわ''なんて到底言えない。
ここは嘘でも''知らなかったです''と言うのが賢明だろう。
金星(まあず)
酸味男
先程の勢いのある声とは打って変わって落ち着きのある返事をするモンスター。
酸味男
酸味男
突然、何かを思い出したかのようにモンスターは言った。
酸味男
酸味男
それに対し、コクンと首を縦に振る俺。
酸味男
酸味男
金星(まあず)
相手の次々と繰り出される言葉に押され気味な俺。
俺にアドバイスする為に来た...だって?
こいつ...見た目に反して悪い奴じゃない...?
酸味男
酸味男
酸味男
金星(まあず)
コイツは..大丈夫そうだな
そう判断した訳は...
コイツには肉食動物が獲物に狙いを定めるような目とか攻撃性を持っておらず....
むしろ優しい目をしてるからだ。
それと、もう1つ
コイツのアゲアゲな性格は俺とは正反対なんだけど...
どこか...こう''自''を感じさせるこの気持ちが心の奥底で沸々と沸いているからだ。
この気持ちがどういうものなのかは分からないが。
金星(まあず)
金星(まあず)
酸味男
互いに握手を交わす
酸味男の手の感触はレモンの皮を触るかの様で
握手をした際には、右手に気持ち悪さを覚えた。
手を離した今でもその感触は残り続けている。
さっさと忘れちまおう。