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うるさく響く雨音に

吹き荒れる風の音。

それに加えて

この暑さ。

横になったものの

なかなか寝付けないでいた。

士条(しじょう)

(マイクロバスの助手席に落ちていた)

士条(しじょう)

(あの、意味深な文章)

士条(しじょう)

(遺書のようにも見えなくもないが)

士条(しじょう)

(筆跡も少し違うような気がするし)

士条(しじょう)

(それに何より……)

士条(しじょう)

(なんで死体を共用スペースに放置したんだろうか)

士条(しじょう)

(あんなところに置いておけば)

士条(しじょう)

(すぐに見つかるのに)

士条(しじょう)

(この天候なんだから)

士条(しじょう)

(川にでも捨てれば……)

そう考えて士条は起き上がる。

士条(しじょう)

(私は何を考えているんだ…)

額に滲んだ汗を拭い

部屋を出ると、

士条(しじょう)

……

護関(ごせき)

あ…士条さん

階段を下りてきた護関と遭遇した。

士条(しじょう)

護関……

護関(ごせき)

士条さんも気になることが?

士条(しじょう)

ん?…ああ…

二人は並んで共用スペースに向かう。

そこには先程と変わらない光景があった。

士条(しじょう)

あまり見て楽しいものじゃないが…

そう言って、

白いシーツを捲った。

護関は一瞬目を逸らし、

ゆっくりと

十川咲の遺体に目を向けた。

護関(ごせき)

気になることって

護関(ごせき)

なんですか?

士条(しじょう)

……

士条(しじょう)

彼女の手と首…

士条(しじょう)

それから

士条(しじょう)

足に拘束された痕があるんだ

護関(ごせき)

え?

護関は自身のスマホの明かりを

首元、手、足と向ける。

そこには確かに

赤みがあり、

手首に関しては

擦り傷のようなものもあった。

護関(ごせき)

どこかに拘束されてた…

護関(ごせき)

ってことかしら?

士条(しじょう)

だとしても

士条(しじょう)

どうしてここにいるのか…

士条(しじょう)

大声を出して助けを求めるとか

士条(しじょう)

大きな音を立てるとか

士条(しじょう)

そういうことは出来たはずだ

護関(ごせき)

……

護関(ごせき)

この雨音だもの

護関(ごせき)

かなり大きな声を出さないと……

大粒の雨が雨戸にぶつかる音は、

光間が少し前に言ったように

銃声のようにうるさく

些細な音なら

容易に掻き消してしまう。

士条(しじょう)

それか

士条(しじょう)

声を出す前に殺されてしまったか…

護関(ごせき)

……

光間(みつま)

あ!

光間(みつま)

士条さん、護関さん

奥から光間が現れた。

士条(しじょう)

佳…

光間(みつま)

こっち来てくださいよ

光間(みつま)

凄いの見つけちゃったんです

しかし、

そう言う光間の目は

楽しそうにキラキラと輝いていた。

光間が二人を連れてきたのは、

オーナーの部屋だった。

光間(みつま)

これ、見てよ

そう言って見せてきたのは、

一冊のノートだった。

表紙には汚い字で

”評価”と書かれている。

護関(ごせき)

佳くん勝手に見たの?

光間(みつま)

まぁまぁ

光間(みつま)

細かいことはいいから

光間(みつま)

ここ見てよ!

二人は開かれたノートを見る。

護関(ごせき)

え…なに、これ…

そこに書かれている内容を見て、

護関は絶句した。

仁神 絢(にかみ あや)

何度も俺の誘いを断るクソガキ

口も悪いし色気も無い

いっそ寝てるところを犯してやろうか

そうすれば少しは大人しくなるだろう

光間 佳(みつま けい)

何もできないクソガキ

仕事の覚えも悪いし要領も悪い

いつもヘラヘラ笑ってて気持ちが悪い

バカな宿泊客にはウケがいいのも腹立つ

士条 輝(しじょう てる)

クール男子を装ってるのが笑える

女子にモテたいんだろうがそれじゃあダメだ

仕事はできるがそれだけ

面白味が無い

話すだけ時間の無駄

護関 澪(ごせき みお)

良い尻の女

胸もでかけりゃ申し分ないが愛想が無い

そういう女が乱れる姿を見たいって思う

マジで思う

泣きながらよがってる姿も見たいな

いつ犯そう

衣色 誠(いしき まこと)

こいつのおかげでうちのボロ旅館が立ち直ったのはいいが

女性従業員にモテるのが気に入らない

あんな何考えてんだか一ミリもわからない作り笑顔に

なんでどいつもこいつも騙されるんだ

士条(しじょう)

これは…酷いな…

光間(みつま)

でも

光間(みつま)

オレらだけじゃないんだなぁ、これが

さらにページをめくる。

最近あいつが色気づいてきた

外に男でもできたのか

あんな五十過ぎたババアのどこがいいんだよ

尻も胸もたるんできて皺まみれの顔なんか

俺は一秒もみたくないけどな

スーパーの総菜ばかり食卓に並べやがって

料理をしない女に価値なんかねぇんだよ

士条(しじょう)

これはオーナーの奥さんのことかな?

光間(みつま)

たぶんね

優香は良い感じだな

尻も胸も肉付きが良い

口が悪いのはあいつの教育が悪いせいだな

クソジジイだの臭いだの

誰のおかげで飯食えてると思ってんだ

お前のスマホ代も学費も払ってんのは俺だぞ

あいつが教育できないなら俺が教育するまでだ

どうせなら性教育までちゃんとやってやるか

なんてな

護関(ごせき)

最っ低……

護関はそう吐き捨てた。

護関(ごせき)

死んでよかったって

護関(ごせき)

思っちゃいけないんでしょうけど

光間(みつま)

いや、オレも同感

光間(みつま)

これはさすがにまずいよね

光間(みつま)

人としてどうかと思うよ

士条がさらにページをめくる。

士条(しじょう)

……これ

光間(みつま)

何?

そこには、

どうせバカな男から巻き上げた金だ

一千万ぐらいすぐ用意できるだろ

あとは勘の良い衣色に気付かれないようにしないとな

護関(ごせき)

どういう……

護関(ごせき)

意味でしょう?

士条(しじょう)

…さぁ?

光間(みつま)

オーナーは何かを隠してて

光間(みつま)

誠さんに気付かないようにしてた

光間(みつま)

ってこと?

士条(しじょう)

おそらく…

護関(ごせき)

衣色さんは人をよく見てますよね

護関(ごせき)

髪型とか髪色とか

護関(ごせき)

変えたらすぐ気が付いてくれて

士条(しじょう)

そうだな…

光間(みつま)

じゃあ、誠さん

光間(みつま)

何か気付いてたのかな?

士条(しじょう)

さぁ…

士条(しじょう)

どうだろうな…

黙り込んだ三人の間に、

なんとも言えない沈黙が流れた。

あなたも、共犯です。

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