???
今の、プロポーズ?
マスター
そう
マスター
カクテル使ってプロポーズなんざ
ギザなことするねぇ
ギザなことするねぇ
???
そう言いながら嬉しそうにしてたじゃん
???
お前そういうの好きだろ?
マスター
バレた?
マスター
そ、ああいうロマンチックなの好きよ、俺
先程の二人の客のやり取りを見ていた俺は
バーのマスターとその話題で盛り上がる。
マスター
お前は?
マスター
そういうのないの?
???
は?
マスター
浮いた話はねぇのかって
???
俺…別にないけど…
???
うっしーがよく知ってるでしょ、そういうの
『BAR COW』
ここのマスターの牛沢(うっしー)とは高校時代からの友人だ。
牛沢
キヨさぁ、俺らもいい歳じゃん
牛沢
そういうの考えないの?
呆れた顔で俺の方をじっと見つめる。
キヨ。
いい人いたら紹介してほしいよ
牛沢
そんなこと言って付き合う気もないくせに
牛沢
モテんだからもったいねぇよ?
キヨ。
はいはい…
店に入って最初に頼んだカクテルを ちびちびと飲み続けている。
もう氷も解けてしまったグラスを見て マスターは溜息をつく。
牛沢
ああいうさ、幸せいっぱいってのを見ると
牛沢
焦ったり少しは触発されるもんだと思うけど
牛沢
キヨは違うみたいだね
先程の客のグラスを洗いながら 俺に話しかける。
キヨ。
俺は気長にやるよ
キヨ。
でもさっきの人…少し好みだった
牛沢
どっち?
キヨ。
男の方
牛沢
可愛けりゃどっちもいけるって
牛沢
ほんと器用な
二人の雰囲気はとても良かった。
ただ、少し引っかかるところがある。
キヨ。
女の方さ、プロポーズの反応にしてはちょっと薄くなかったか?
牛沢
は?
キヨ。
いやほら、好きな人からされたら泣いて喜んだりするんじゃねぇ?
キヨ。
普通はさ
牛沢
あー…確かに…
牛沢
笑ってただけだったな
キヨ。
俺、そこがなんか変だと思って…
牛沢
何かあるんかな
キヨ。
胡散臭かったよな…
先程のやり取りを見て 胸騒ぎがしたような気がする。
所詮他人のことなのだから 気にしても仕方ないが。
牛沢
あの人フリーだったら狙ってた?
キヨ。
かもね笑
キヨ。
顔見た?
キヨ。
めっちゃ可愛くない?
牛沢
綺麗な人だよな
牛沢
顔のパーツが
キヨ。
わかる!?
キヨ。
はぁ…
牛沢
今度は何よ
牛沢
好きになっちゃった?
キヨ。
いや違うけど
キヨ。
俺ならもっといい返事できたなぁって
牛沢
恋してんじゃん
牛沢
ヒュウ!
キヨ。
うざ…
牛沢
てかお前…
牛沢
その一杯でいつまで居座る気?
牛沢
頼むか帰るかしろよ
キヨ。
えー
キヨ。
ケチ
牛沢
そろそろ別の予約客来る時間なんだから
牛沢
お前と喋ってる暇ねぇよ
キヨ。
いいじゃん
キヨ。
じゃあ頼むからまだ居させて
牛沢
あーあー独り身の男はこれだから…
そう言ってカウンターに置かれたのは ハイボール。
牛沢
お前はこれでも飲んどけ
キヨ。
奢り?
牛沢
んなわけねーだろ
カラン…
牛沢
いらっしゃいませ
牛沢
ご予約の方ですね、どうぞこちらへ
マスターは客を案内し また俺のところに戻ってきた。
牛沢
それ飲んだら帰れよ?いいな?
キヨ。
へいへい
接客中の友人を見ながら ちょっとした劣等感に苛まれる。
自立して自分で店を持って 所帯を持っている。
キヨ。
(何かいいことないかな…)
俺は出された酒を一気に飲み干し、お札だけカウンターに置いて足早に店を出た。
TO BE CONTINUED…