TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

前回バーに行ってから一週間が過ぎた。

キヨ。

はぁ…寒い…

俺は仕事帰りにタクシーでバーまで向かう。

金曜日。

早く家に帰ろうと急ぐ人の波をかき分けて 友人の所へ来た。

独り身の俺は特に予定もなく

とことん飲んで帰ろうなんて思って 店の扉に手をかけた。

CLOSED

キヨ。

閉まってる…?

中を覗くと、しっかり明かりはついている。

店は閉じているけれど マスターはいるはず…

そう思って店に入る。

カラン…

牛沢

誰…

キヨ。

よっ

牛沢

閉店の看板見えなかった?

キヨ。

見えたけど、電気付いてるから入っちゃったよ

牛沢

悪いけど、今日お前の相手してる暇ないからな

キヨ。

え?

そう言ってうっしーは店の隅に 首をくいっと振った。

そこにいたのは

鼻を啜りなが酒を飲む男が カウンターに座っていた。

キヨ。

閉めてんじゃねーの?

牛沢

いやぁ…

牛沢

あの人、泣きながら入ってきて

牛沢

他の客にも悪いと思ったから閉店にしちゃったんだよ

牛沢

なにか事情があるんだろ

キヨ。

粋なことするじゃん

牛沢

マスターですからね

反対の隅に座った俺の前に ウイスキーが置かれる。

こちらを全く見る様子がないその男性は ずっと下を向いていた。

牛沢

すみませんお客様、あれ、私の友人でして…

牛沢

静かにさせていますのでごゆっくりどうぞ

泣いている客に耳打ちするように 俺のことを話している。

その男性がちらっと俺の顔を見た。

キヨ。

(あれ…あの人…)

覚えている。

確か一週間前にプロポーズをした男性だ。

俺が違和感を覚えたあのシーンだ―

キヨ。

なぁ、なぁって

牛沢

んだよ

キヨ。

あの人、プロポーズの人だよな!?

小声でうっしーに聞いてみた。

あの切れ長の目とふわふわな髪。

間違いない。

牛沢

そうだよ

キヨ。

なんで泣いてんの?

牛沢

そういうの聞くのはご法度よ

牛沢

俺は知らん

とても気になる…

キヨ。

俺…聞いてみていいかな…

牛沢

やめろよ

牛沢

今落ち込んでんだぞ?

キヨ。

そういう時って誰かに話聞いてもらいたいじゃん?

牛沢

まぁそうだけど…

俺は自分の酒を持って その男性の隣へ座る。

キヨ。

こんばんは

俺が近くに来たのに気づき 軽く会釈してくれる。

牛沢

はぁ…

うっしーはまた溜息をつき、 店の奥へと消えた。

キヨ。

最近寒いっすよね…

キヨ。

俺雪国出身だけど寒いのはだめですよ

一方的に話をしているのはわかっている。

目も合わせなければ相槌もしない。

ただ、俯いて酒を啜っているだけの男。

キヨ。

ここの店の人、俺の同級生なんですよね

キヨ。

だからよく来るんです

会話と呼ぶにはお粗末な 俺の独り言のようだった。

レトルト

あの…

10分くらい過ぎた頃だ。

その男性が口を開く。

キヨ。

あ、やっと声が聞けたわ

ずっと泣いていたのか とてつもなく鼻声で

少し聞き取りづらいかな…なんて思った。

レトルト

なんで俺に話しかけてきたんです?

口は開けどこちらは見ずに 感情のない声でそう言った。

キヨ。

俺、一週間前にも来てるんです

キヨ。

その時、あなたを見かけまして

キヨ。

あれだけ幸せそうにしていたのに
今日は泣いてるから…

キヨ。

あっ、別に言いたくないならいいですけど…

キヨ。

知らない人なら相談しやすいと思ったんですよね…はは…

先週プロポーズをして 幸せの絶頂だったはずのこの人が

その一週間後にはこうして泣いてるなんて

気にならないはずがない。

レトルト

あ…そのこと…

ふぅ…と一息つき、残っていた酒を飲みながらその男は語りだした。

レトルト

俺…あの人と別れたんです

衝撃だった。

プロポーズしてたのに。

彼女も笑顔になっていたのに。

キヨ。

えっ…

キヨ。

なんで…

レトルト

俺よりもいい人がいるって

レトルト

浮気…みたいな…

レトルト

別れ話されちゃって…理由も教えてくれないんですよ

グラスをぼーっと眺めながら話すうち 声が掠れてくるのがわかった。

キヨ。

(また泣いてる…)

レトルト

だからもう…嫌になっちゃって…

レトルト

住んでた家も飛び出してきたんです

レトルト

元々彼女の家なので荷物は後で実家に送りますけど…

レトルト

うっ…なんで…

俺はポケットからティッシュを取り出し 彼に渡した。

キヨ。

そっか…

キヨ。

実家に戻るんですか?

レトルト

うん…だってここにいられない…

レトルト

かなり遠いけどここよりマシだ…

鼻をかみながら、俺の方を見る。

目が真っ赤だ。

キヨ。

仕事は大丈夫なんですか?

キヨ。

実家はどこ?

レトルト

…京都

キヨ。

え!?

キヨ。

遠いじゃないですか

レトルト

そうですね…

レトルト

まぁすぐにじゃないですよ

レトルト

そりゃもちろん、新しい仕事を探さなきゃいけないので大変ですけど…

キヨ。

そう…

彼の話に耳を傾けていると

カウンターの奥からうっしーが戻ってきた。

キヨ。

あ、おかえり〜

牛沢

キヨ、変なこと言ってないだろうな?

キヨ。

いや言ってないよ?

キヨ。

俺は真面目に聞いてただけ

レトルト

マスター…お友達だったんですね…

牛沢

そうですよ

牛沢

腐れ縁です

レトルト

楽しそうでいいですね…

キヨ。

それよりさ

キヨ。

いつ頃出ていくつもり?

キヨ。

まだ荷物残ってるんでしょ?

レトルト

実家に送るなら一ヶ月くらい先になりそうですけど

レトルト

出ていくならすぐのほうがいいですね

レトルト

…しばらくはホテル暮らしになりそうです

そう言って悲壮感たっぷりに笑ってみせる。

その顔を見ているのがつらくて…

俺は彼の目をじっと見つめた。

TO BE CONTINUED…

恋愛なんてしたくないのに。

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

341

コメント

3

ユーザー

レトさんに浮気をするなど、最低な同じ女ですね( *`ω´) キヨの最初の相談方法草。 二人とも大好き😘 作者さん頑張ってください!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚