〜Vampire side〜
大雨の中、路地裏にドサリと座り込む
どうしてこうなったのか、 自分でも分からない
……何一つ、憶えていない
でも、今はただひたすらに……
真冬
人間の物を食べても、ボクのお腹は 満たされない、満たされるはずがない
自分が今生きていることに、 若干の不信感すら抱く程の空腹だった
……こんな状態のままでも生きて いられるのは、ボクが不老不死だから
永遠の命を願い、前世で人間を捨て、 ボクは生物の血を啜る吸血鬼になった
真冬
なのに、どうして今、ボクは 飢えなんてものに苦しんでいるのか
どうしてこんな暗い裏路地で、 1人蹲らなければならないのか
……どうして、こんな化け物の 身体になることを願ったのか
何十年も経った今となっては、 もう分からなくなってしまった
──辛い
ただ毎日、この一言では 済まされない様な、 孤独と絶望に苛まれている
真冬
空虚の様な日々を過ごす中、 “何か”が足りない感覚に 見舞われることがある
それは人なのか、物なのか、 果たしてそれ以外のものなのか
具体的には分からない曖昧なソレが、 荒み切ったボクの心を、僅かながら 癒やしてくれていた
真冬
前世でも、今世でも…… どうしてこうも上手くいかないのか
真冬
真冬
???
しばらく蹲っていると、不意に 雨が止んで、代わりに頭上から 男の人の声が降ってきた
真冬
ゆっくりと、その声の主を辿る
……あぁ、雨は止んだんじゃない、 この人の傘で、遮られていたんだ
???
???
真冬
ずっと人と会話をしてこなかった せいか、上手く言葉を発せられない
僅かに残っている力を振り絞って、 途切れ途切れに言葉を紡ぐ
真冬
それから、この人の前から去ろうと、 地面から立ち上がった
真冬
折角食糧の方から寄って来て くれたのに、どうしてボクが 逃げようとするんだろう
真冬
人間が嫌いなのか何なのか、毎回 近寄られる度にボクから逃げてしまう
どれだけ空腹でも、 甘い血の匂いがしていても
真冬
???
突然背後から、驚いた様な あの人の声が聞こえて来た
真冬
あっちの大通りで、 何かあったんだろうか
……何にしろ、ボクには 無関係のことだ
後ろは一切振り向かず、 真っ直ぐ路地を歩いていく
真冬
真冬
ドサッ
何故か視界が揺らいで、 気づいた時には、地面に倒れていた
真冬
???
暗くなる視界の中、あの声がボクに 近づいてくる音が聞こえる
……彼は、ボクの髪と眼を 恐れないんだろうか
そんな純粋な疑問が、脳裏を過った
元は白銀だったはずの燻んだ髪に、 自分でも恐怖を覚える様な赫い両眼
明らかに、人間が持つ物ではないのに
真冬
曖昧なソレと似た何かを、 この人から感じる
???
真冬
真冬
その彼の言葉を最後に、 ボクの意識は、プツリと途切れた
数時間前
〜Human side〜
打ち合わせの為、久しぶりに外に出た
……かと思えば、この土砂降りの大雨
彼方
湿気で気が落ちる中、この雨では少々 心許ないビニール傘を持って出かけた
無事打ち合わせは終わって、帰り道
相変わらずの大雨で、自然と いつもより早く足が家へと向かう
彼方
そんな中、偶然視線をやった 路地裏に、1人の男性を見つけた
燻んだ白髪に、整った顔 ……ホストか?
いや、けどこの辺りは、 そんな街ではないはず
彼方
激しい雨音の中、しばらく彼を 見つめながら、その場で立ち止まる
けど次の瞬間に、体は動いていた
……そうして今、その彼は、俺の家の ベッドでぐっすりと眠っている
彼方
自分の行動に少々頭を抱えつつ、 静かに寝ている彼を見つめる
白髪だけではなく、さっき 話しかけた時は、赤い眼をしていた
そして、同じ人間とは到底思えない 程の、この整った顔立ち
いつもの俺ならこんなことは しないのに、何故かこの人に、 強く心を惹かれてしまった
???
あ、起きたか……?
???
目を覚ましたらしく、寝た体勢のまま キョロキョロと辺りを見回す彼
彼方
???
答えを返すと、異様に驚いて 俺の方を見た彼
彼方
???
俺を認識したのか、段々と 落ち着きを取り戻して来たらしい
???
俯き気味にお礼を言われた
彼方
彼方
今の時刻は、 すっかり日が沈んだ20時
世間一般なら夕飯を食べている時間だ
???
ぐぎゅるるる……
???
聞き間違えようのないお腹の音と、 少し恥ずかしそうに俯くこの人
彼方
そう言って、スマホを出して出前の アプリを開いて、よく頼んでいる 唐揚げ弁当を2人分注文した
ここで自炊ができたら格好良かったの かもしれないけど、生憎俺はそんなに ハイスペックじゃない
冷蔵庫には食材だってないし、 料理のスキルは以ての外
これが俺にできる最大限だから、 少し多めに見て欲しい
彼方
頼んだものが届く間、 色々この人のことを聞いてみよう
真冬
相川さんか
彼方
彼方
真冬
……あ、しくった
いつもの調子で、またデリカシーの カケラもなく聞いてしまった事に、 言ってから気づく
真冬
彼方
発言を後悔していたけれど、 少し間を空けてから、ポツポツと 話し始めてくれた相川さん
けど、帰る場所が無い……?
真冬
彼方
真冬
何故か、キョトンとした顔をされる
彼方
怪訝に思いつつ、説明してあげた
真冬
真冬
彼方
真冬
彼方
元から……家族がいない?
彼方
真冬
真冬
真冬
コメント
6件
ついに1話!!投稿ありがとうございます! 確かに白髪で整った顔立ちは最初ホストか何かと考えてしまうw 吸血鬼と自ら言ったまふくん。そして家族が”元々いない“ これはどう言うことなんでしょうかね? なんだか辛そうな過去を持っているまふくん。そして助けたそらるさん。 2人はこれからどうなっていくのでしょうか? 続き楽しみにしてます‼頑張って下さい!
待ってましたー! まふくんが吸血鬼なのか! そらるさんめっちゃ優しい… 困ってたり辛そうな人がいたら 手を差し伸べるのそらるさんらしいね! そして自ら自分が吸血鬼なことを そらるさんに明かした。 どんな反応するのかな?。 続き楽しみにしています!
ついにきましたね!『遠く離れた世界の君へ』第一話!! 本当に楽しみにしていたので、すごく嬉しいです😆 彼方さん、初対面の真冬さんのことを自宅に運ぶだなんて、なんて優しいのでしょうか…… 吸血鬼であることを自分から言った真冬さんに、彼方さんはどんな言葉を返すのか、気になります…!👀 続き楽しみにしております♪