商店街の文房具店は、雨のせいでいつもより薄暗かった。
ユイ
インクの匂いがする
隣に立つユイが、悟りを開いたような顔で言う。
俺
そりゃ文房具店だしな
ユイ
違う。今日は“正直”の匂いよ
俺
ますます意味わからん
俺は目当てのシャーペンを探して、棚を眺めていた。
ユイ
それ、買い替えるの?
俺
ああ。急に芯が出なくなった。壊れたっぽい
ユイ
筆圧が強すぎるのよ。迷いがある高校生特有の癖ね
俺
癖ってなんだよ……
ユイは迷いのない手つきで、棚から一本のペンを抜き出した。
ユイ
ユイ
これにしなさい
俺
なんで。
これ、安いやつだろ
これ、安いやつだろ
ユイ
軽いから。余計な主張がない。あなたの手に馴染むわ
俺
……ユイみたいだな
ユイ
今の、半分だけ褒めてる。あとの半分は、不敬よ
店主のおばあちゃんが、カウンターから柔らかい声をかけてきた。
文房具屋さん
学生さん、試し書きしてみるかい?
俺
あ、はい
紙の上を、ペン先が滑る。
さらさら。
俺
……確かに。驚くほど書きやすいな
ユイ
でしょ
ユイは腕を組み、満足そうにうなずいた。
ユイ
文房具ってね、嘘をつかないのよ
俺
どういう意味?
ユイ
ちゃんと使った分だけ、ちゃんと減る。サボれば減らない。それだけ
俺
当たり前だろ
ユイ
だから安心するのよ。裏切らないから
ふと外を見ると、雨脚が少し強くなっていた。
会計を済ませて店を出ると、湿ったアスファルトの匂いが鼻をつく。
ユイ
ねえ
俺
ん?
ユイ
高校生って、たまに自分に嘘をつくの?
少しだけ、雨音に混ざる声が低くなった。
俺
……まあ、つくよ。
つかなきゃやってられない時もあるし
つかなきゃやってられない時もあるし
ユイ
即、減点
俺
厳しいな
ユイ
でもね
ユイはランドセルの肩ベルトをぐっと掴んだ。
ユイ
自分が嘘をついてるってことに、ちゃんと気づけるのは……加点よ
雨の商店街は、いつもより静かだった。
さっき試し書きした、さらりと書きやすい感触がまだ手に残っている。
俺
今日の点数は?
ユイ
プラマイゼロ
俺
結局、そこか
ユイ
ゼロはね、正直なの。
何もないってことは、これから何でも書けるってことよ
何もないってことは、これから何でも書けるってことよ
そう言って、ユイは水たまりを避けるように軽やかに歩き出した。
俺
……正直、ね
お店の庇に響く雨音が、今日は少しだけ、やさしく聞こえた。






