〜真冬 side〜
……やってしまった、と思った
血を飲んだ後の“記憶”に あてられたのか、無性に彼の事が 愛おしく見えて
それで、気づいた時には……
真冬
つい数分前の出来事を思い出して、 恥ずかしさを掻き消す様に頭を振る
真冬
恐らくあの記憶の持ち主は、 僕であってボクでは無い
“今”には到底関係の無いモノなのに
真冬
真冬
わざと言葉を口にして、頭を切り替える
今は目の前の事に集中しなくちゃ
真冬
何かで気を逸らしていないと、 あの“懐かしい”感触が、 頭を離れそうに無かった
コンコンッ……ガチャッ
真冬
彼方
出会って間も無い頃よりも、 一番ぎこちなくて、気まずい会話
料理を机に配膳していると、 すぐに彼方さんがリビングに来た
彼方
真冬
彼方
真冬
彼方
彼方
……そう言うけど、 視線は合わせてくれないんだ
真冬
今の言葉は、自分が忘れたいから、 何も無かった事にしてくれって 言われているみたいだ
真冬
ただの同居人、況してや自分と同じ 男からのキスなんて、気持ち悪いはず
真冬
……だけど、何故か心の奥底で、 “そんなに拒まなくたって良いのに” なんて考えている“僕”がいた
さっきのは、完全にボクが悪いのに
真冬
数ヶ月後
ボクは歌い手の“まふまふ”として 活動を始めて、それなりに 軌道に乗り始めていた
“そらるさん”や、翔太さんこと “天月さん”ともコラボをしたり、 歌以外にも生放送をしたりしている
最初は彼方さんに頼っていたMIXも、 手取り足取り教えて貰って、 今では自分で出来る様になっていた
後は、自分でオリジナル曲を 作る様にもなった
自分なりに勉強をして、ソフトで それらしい曲を作って、VOCALOIDに 歌わせたり、自分で歌ったり……
意外にも色んな人に聴いて貰えて、 お陰で本来の目的であるお金も 少しずつ貯まる様になった
そうして忙しくする中で、 あの事はお互い気にしなくなって、 今ではまた普通に接する様になって
だけど血を飲む度蘇る記憶に、 この現状は“寂しい”んだと思わされる
真冬
相手を思うなら、きっと今が正解だ
例え記憶の中の“僕”が 誰かを好きでいたんだとしても、 今世のボクには関係無い
真冬
そんな事を考える一方、 その記憶の事で、ボクには一つ、 思う事があった
──このまま血を飲み続けていれば、 前世の自分が吸血鬼に成りたがった 理由を知る事が出来るのではないか?
長い時の中で忘れていたのか、 或いはそもそも知らなかったのか
今となっては知り得ないけど、実際に 過去の記憶を取り戻している現状を 見ると、そんな欲が出てきてしまう
何故僕は吸血鬼に成りたかったのか、 ボクの中にある喪失感は一体何なのか
ただ、そうして血を飲み続ける中で、 “ボク”の相手への思いが次第に 大きくなっている事も事実で
真冬
吸血鬼と人間、生物という大きな 観点から見て、ボクらは違っている
それに、もし結ばれる事があったと して、彼方さんはいずれ死んでも、 ボクは不老不死だから永遠に独り
誰かといる事に小さな幸せを見出して しまっている今、ボクが、そんな 無限の孤独に耐えられる訳が無い
血を飲めば過去の僕を知れる、だけど それと同時に、今のボクが知っては いけない感情も取り戻してしまう
……空腹を満たす度、 それが怖くて堪らなかった
真冬
記憶の中、誰かと笑っている 人間の僕は、とても幸せそうで
きっとその誰かの事が、 愛おしくて仕方無かったんだろう
その想いは、永遠に共に居たいと 思う程大きかったのかもしれない
でもそれは、ボクが永遠の命を 欲する理由にはならない筈
もしも永遠に生きられたとして、 そこに自分の想う相手が居なければ、 その命は何の意味も為さないから
……自分が想いを寄せた相手が、 もう二度と帰る事の無い世界
きっと、そんな地獄みたいな場所で、 ボクは今生きている
……でもだからこそ今のボクは、 側にいる彼方さんに、前世で出会った 相手の姿を重ねてしまっているんだ
真冬
真冬
相手が誰かも分からない、 今世には居ないかもしれないし、 死んでしまっているかもしれない
もし今後、前世を全て知って、 その事実が目の前に現れたら…… ボクは、どうすれば良いんだろう
真冬
真冬
真冬
真冬
……少し、これまで思い出した記憶を 整理してみよう
無意識にそんな考えに至って、 パソコンでメモ帳を立ち上げる
当時は曖昧だった部分も、 血を飲み続けて鮮明になることがあった
真冬
まず最初に思い出したのは、 誰かが自分の血を吸っている場面
この人物は、まず吸血鬼で間違い無い
そして次は、 その人が誰かの血を吸っている場面
そこで血を吸われている人間らしき 人物は、“まふまふ”と呼ばれていた
真冬
以前そらるさんにそう名付けられた時、 無意識に泣いたのは、前世でも誰かから 同じように呼ばれていたからなんだろう
……そして相手は、 “そらるさん”と呼ばれている
この記憶を見た直後、ボクが無意識に 彼方さんに対して呼んでしまった名前だ
真冬
その次は、倒れた時に見た夢
僕らしき人間と、もう一人誰か…… これまでの記憶にいた吸血鬼とは 違う人間が、何かの事件の話をしていた
そこで片方の人物は、 “天ちゃん”と呼ばれていて……
真冬
そして次が……あの時だ
真冬
あの時ボクが思い出したのは、 とある感情だった
──吸血鬼の相手への、恋心
恐らくあの時のボクは、 突然思い出した事で 気が動転していたんだと思う
真冬
それ以降に思い出した記憶は、 全てそれと似た様なモノだった
真冬
前世の僕は、とある吸血鬼に 想いを寄せていて、その人からは “まふまふ”と呼ばれていた
そして、前世にも“そらるさん”はいて、 少なくとも僕は関わりがあった
真冬
そしてその結果、 来世の今にボクが生まれ落ちた
少し前までボクが無意識に人間らしい 事をしていたのは、前世が人間で、 その時の習慣や癖が出ていたから
今まで吸血鬼らしい事…… 血を吸う事が無かったから、意識は 吸血鬼に成り切っていなかっただけ
真冬
記憶は、まだ少しモヤが掛かった様に 曖昧で、声も辛うじて聞き取る事が 出来るものの、ノイズが走っていて、 誰かは判別出来ない
真冬
ここまで来たら、その吸血鬼に ついてはっきり思い出せたって良い筈
なのにこんなにも不確実なのは、きっと ボクに決定的な記憶が足りないから
真冬
誰の物でも、血を飲めば必ず 戻るのか……或いは、特定の誰かの 血でないといけないのか
真冬
今まで逃げ隠れの日々を送っていて、 ボクは世間に疎かった
だからこそ、自分を知る機会も 無かったし、吸血鬼について 知る事なんて尚更無かったんだ
真冬
折角今、ネットって言う 手段を手に入れたんだ
真冬
コメント
4件
あの時、まふくんがそらるさんの血を 吸った時に思い出したのは相手の吸血鬼に 対する恋心だったからキスしたんだ… でも今までの記憶からすると…まさかとは 思うけどそらるさんはただ記憶が無い… もしくは隠してるだけで実はまふくんと 同じなんじゃ?だから一緒にいたくて まふくんは吸血鬼になったんじゃ…? でも…天ちゃんが出てきたのが謎… 天ちゃんはまふくんを警戒してるしな… 続き楽しみにしてます!!
マジで本当にひっさびさです() 絶対これまでの内容分からないと思うので、前話辺りを読み返していただければと思います() 実は結構書き溜めてて、実はそれなりに佳境に入り始めてるという… 気が変わらない限り、これからちょっとだけ遠君更新していくつもりです( ˙꒳˙ )