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8月の終わり
夏休みが終わりかけていた
はじめくんは最後の大会への切符を掴むため
夏休みの間もより一層部活に励んでいた
合宿に行ったり
遠征に行ったり
夏休みなのに、会えない日の方が多かった
最初は少し寂しかった
でも、夜になればLINEをしてくれる
『今日めっちゃ疲れた』
『お疲れ様』
『〇〇は何してた?』
そんな何気ないやり取りだけでも
私には十分だった
大人にならなきゃいけない
いつまでも寂しいなんていって
はじめくんを困らせたくない
そう思っているのに
はじめくんはそんな私を甘やかしてくれる
『会えなくて寂しい』
弱気になって送った日もあった
そんな日は
『俺も』
と、短い返信が帰ってくる
それだけで、また頑張れた
新学期が始まる頃には
ある程度進路を決めていた
国公立大学の文学部
北海道大学を目指そうとしていた
小説を書くこと以外に
特別興味のあるものなんてなかった
だからといって、小説家になるつもりもなかった
大学をでて
大卒という資格を取っておけば
就活も困らないだろうと
それくらいの考えだった
私立よりも国公立の方が学費も安い
お母さんにはこれ以上迷惑はかけたくない
それなら
国公立に入れるように勉強をしたらいい
そう思って少しずつ勉強を始めていた
進路のことはお母さんに電話をした
〇〇
お母さん
お母さん
お母さん
それだけだった
電話の向こうからはどこか
忙しそうな声が聞こえる
私が何を話したか、多分ほぼ聞いていない
それでも
『頑張って』と言ってくれた
だから私は『うん』とだけ答えた
お母さんはあの日から上手くいってるらしい
新しい男の人と一緒にいるらしい
前みたいに泣きながら帰ってくることもない
それなら
それでいい
お母さんが幸せなら
私はそう思いながら机に向かった
窓の外ではまだセミが鳴いていた
夏はもうすぐ
終わろうとしている
9月
文化祭は嵐のように過ぎ去った
準備期間はあんなに長く感じたのに
当日になってしまえばあっという間だった
私は、はじめくんと一緒に校内を回った
クラスの出し物を見たり
友達と写真を撮ったり
途中で入ったお化け屋敷では
思っていたより怖くて、はじめくんの服を掴んだ
岩泉一
岩泉一
岩泉は少し笑っている
〇〇
〇〇
〇〇
岩泉一
そう言いながらも
少しだけ嬉しそうだった
そして相変わらず及川くんはうるさかった
私に話しかけてくる度、はじめくんが
岩泉一
と怒っていた
及川
及川
そういいながら私の後ろに隠れる
岩泉一
岩泉一
そんな二人を見て、私は笑った
最後の文化祭
特別なことがあった訳じゃない
でも、楽しかった
高校生でいられる時間が
少しずつ終わっていくことなんて
その時の私はまだ深く考えていなかった
10月
ある日
岩泉一は 春高バレーへの最後の切符を掴むことができず
引退した
私も、最後の試合を見に行った
試合が終わって、体育館を出る
1人で試合会場の外で待っていた
はじめくんは多分最後のミーティングをしてる
そして一時間後
はじめくんが〇〇の元に来る
思ったよりずっと落ち着いていた
岩泉一
〇〇
気づけば、私の方が泣いていた
はじめくんは少し笑って
岩泉一
岩泉一
岩泉一
ふっと笑いながら水を飲む
悔しくない訳じゃない
でも、やりきった
そんな顔をしていた
帰り道
二人で並んで歩く
制服姿で体育館を出るのも
今日が最後だった
岩泉一
はじめくんは軽く伸びをする
岩泉一
岩泉一
〇〇
岩泉一
岩泉一
迷いの無い声だった
〇〇
岩泉一
岩泉一
そういって歩くはじめくんの横顔を見ながら
私は少しだけ羨ましくなった
自分がこれから何をしたいのか
何になりたいのか
彼にはそれがちゃんと見えている
〇〇
岩泉一
〇〇
〇〇
少し間を置いて
はじめくんが私を見る
岩泉一
岩泉一
その言葉に一瞬だけ目を伏せる
〇〇
〇〇
岩泉一
〇〇
〇〇
自分に言い聞かせるように、言葉を続ける
〇〇
はじめくんは何も言わなかった
たぶん
私がどうしてそんなことを言っているのか
わかっていた
でもそれ以上は何も聞かなかった
ただ、いつものように私の隣を歩いていた
11月
大学への出願を済ませ
受験勉強もいよいよ本腰に入っていた
休みの日は、はじめくんと予定が合わない日も増えた
それでも
学校では一緒にお昼ご飯を食べたり
放課後になれば一緒に帰ったり
会える時間はちゃんとあった
それだけで十分だと思っていた
そんなある日の土曜日
私は机に向かって、黙々と勉強をしていた
問題集を開いたまま
シャーペンを走らせていると
ーー突然、スマホがなった
画面を見る
知らない番号だった
普通なら、知らない番号からの電話なんて出ない
でも私のお母さんは時々
知らない男の人の携帯から
電話をかけてくることがあった
もしかしたら、お母さんかもしれない
そう思った
期待している自分がいることにも気づいていた
違ったら切ればいい
そう思って電話に出る
〇〇
男の人の声だった
〇〇
出版社
その言葉を聞いた瞬間、手が止まった
原稿
いつ出したのかも、すぐには思い出せなかった
私は何も言えなかった
机の上には、開きっぱなしの参考書
その隣には、しばらく触っていなかったノート
私はそのノートを、じっと見つめた
#五条悟の妹
IKA
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