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第1話 - あ

2023年03月14日

#恋愛

結城真矢

タケシ

あんた、ミキオ？

ミキオ

そうですけど…どなたですか？

タケシ

俺はタケシっていう者だけど

ミキオ

タケシさん…昔の知り合いというわけでもないですよね

ミキオ

どこかでご一緒しましたっけ？

タケシ

いやいや、そんなんじゃないよ

タケシ

あんたの妻、マナで合ってる？

ミキオ

え？はい、夫婦ですけど

ミキオ

どなたですか？

タケシ

さっきお前宛にメールで画像送ったんだけどさ

タケシ

これ、俺とマナね

ミキオ

は？

ミキオ

なんだこれ…

タケシ

旅館の部屋で写真撮ってるだけだよ

ミキオ

いや、いやだってマナとキスしてる…

タケシ

まあそういうことだ

タケシ

旅先の旅館で偶然一緒になって

タケシ

そこからずっとこういう関係だ

タケシ

見ての通りマナはさ、俺の事しか見てないから

タケシ

申し訳ないけど、離婚して

ミキオ

あんた、自分が何言ってるかわかってるんですか

タケシ

離婚してほしいって言ったはずだけど？

ミキオ

俺達には3才になる娘がいるんです

ミキオ

そう簡単に離婚なんてできるわけない

タケシ

はい？それって俺に関係ある？

タケシ

俺とマナとの間には子供いないから

タケシ

勝手に育てれば良いだろ

ミキオ

なんて奴だ…

ミキオ

仮に離婚になったらどうなるか想像できないんですか？

ミキオ

娘から母親を奪うことになるんですよ

タケシ

いや、だから知ったことじゃないって

タケシ

俺とマナが結婚したくてあんたらが邪魔なことに変わりないだろ？

タケシ

だから離婚してもらいたいって言ってるだけだろ

タケシ

こんなこともわからない頭の悪い旦那を持って、マナも哀れだな

ミキオ

初対面とは思えない言い草だな…

ミキオ

というか、それだけじゃない

ミキオ

2人に慰謝料や娘の養育費だって請求できるんです

ミキオ

2人のためにもならないと思ってます

タケシ

何？こんな時の他人の心配か？

ミキオ

いや…お互いにメリットがないと思って…

タケシ

金がかかるなんてこと、もちろん知らないわけないだろ？

タケシ

そんなもんすぐ払えるって、ナメすぎだろ

ミキオ

…ひとまず事実かマナに確認させてもらいます

ミキオ

話はそれからにしましょう

タケシ

ああそうしてくれ

タケシ

ただ来月マナの誕生日だろう？

タケシ

そこでサプライズでプロポーズしたいから

タケシ

それまでには離婚しておいてくれな

ミキオ

また連絡します

～数分後～

ミキオ

マナ、いま連絡して大丈夫か？仕事中？

マナ

急にどうしたのよ？

ミキオ

話がしたいんだけど、いまどこにいる

マナ

仕事はもう終わった

マナ

いまは友達とお茶してるの

マナ

この前の旅行も楽しかったって話したでしょう？

マナ

だから次どこ行くか話してるのよ

ミキオ

お前さ、不倫してない？

マナ

は？

マナ

不倫なんかするわけないじゃない

マナ

一生懸命仕事して、やっと一息ついてるとこなのに

マナ

どうしてそんな酷いことが言えるの？

マナ

冗談でも許せないけど

マナ

妻が信用できないの？

ミキオ

タケシって知ってる？

マナ

え？

ミキオ

知ってるか知らないかで答えて

マナ

…どういうこと？

マナ

そのタケシって人がどうかしたの？

ミキオ

どうかしたとかじゃなくて、知ってるのか？

マナ

いや先にこっちの質問に答えて！

マナ

どうかしたのかって聞いてるの！

マナ

なんか怒ってる？

マナ

いったん、連絡切って良いかしら？友達との話もあるし…

ミキオ

いやちょっと待て

ミキオ

今朝そのタケシって人から連絡があったんだよ

ミキオ

マナと結婚したいから別れてくれって

マナ

…そうなのね

ミキオ

その楽しかった旅行の時に出会ったんだな？

ミキオ

俺と娘を差し置いて、不倫していたわけだ

マナ

いやだから不倫なんてしてないわよ

マナ

何を言ってるの？

マナ

いい加減にしてよ

マナ

友達と話したいからもういい？

ミキオ

お前宛で送った写真を見ても同じこと言えるか？

マナ

…これ、どこで

ミキオ

タケシって奴が自慢げに送って来たよ

ミキオ

来月のマナの誕生日にプロポーズしたいんだとさ

ミキオ

だからそれまでに離婚してくれって言われた

ミキオ

なあ、不倫してないんじゃなかったのか？

マナ

…あーあバレちゃった、仕方ないか

マナ

最初から証拠あるって言ってよ、回りくどい

マナ

絶賛不倫中だけど？

ミキオ

信じてたのに…

ミキオ

金遣いが荒いと思ってたが…ブランド品だけじゃなかったんだな

ミキオ

お前散々俺の金で遊んでいたんだろ！

マナ

そうね、あなたはただの金づる

マナ

ATMとしか思っていないわ

ミキオ

嘘だろ…

マナ

本当よ、相変わらずバカで哀れね

マナ

少し稼ぎが良いからあなたと結婚したのよ

マナ

娘にだってひとつの興味もないわ

ミキオ

ひどすぎる…

ミキオ

タケシとは、先月からなのか

マナ

ええ、先月の旅行先が一緒でね

マナ

価値観も趣味もピッタリで驚いたわ

マナ

それにタケシは本当に優秀でね

マナ

会社の営業で次々に大型の契約を取ったトップ営業マンなのよ

マナ

年収なんてあなたの4倍よ？

マナ

本当、あなたが甲斐性なしとわかってガッカリだわ

マナ

そういうことだから、もう関わらないでちょうだい

ミキオ

…わかった、そんなに言うなら、もう離婚しよう

マナ

ええ、喜んで乗り換えるわ

マナ

その代わり、しっかり財産分与はしてもらうわね

ミキオ

ああ、構わないよ

ミキオ

こちらも慰謝料と養育費はしっかり請求させてもらうよ

マナ

微々たるものでしょう？ｗ

マナ

そんなのタケシがすぐに払ってくれるわ

～1週間後～

タケシ

おい、あんた、俺がマナにプロポーズするって言ったのか！

ミキオ

そういえばそんなことも言った気がしますね

タケシ

あんた本当にバカか！？

ミキオ

はい？

タケシ

あらかじめ言っておいたはずだよな

タケシ

サプライズでプロポーズする計画だってさ

タケシ

あんたのせいで台無しだよ！

タケシ

せっかくクルーズ予約して

タケシ

サプライズケーキとか指輪とか用意したのに

タケシ

おい弁償しろよ

ミキオ

いくらぐらいしたんですか？

タケシ

ざっとキャンセル料20万くらいだよ

タケシ

高かったんだからな！！

ミキオ

僕の年収の4倍だったんじゃ？そんな金額だったら気になりませんよね？

タケシ

んなことはどうでも良いだろ

タケシ

さっさと弁償しろって

ミキオ

ひとまず弁償はしません

ミキオ

そもそも事が事ですし、あなたが勝手に予約しただけですからね

ミキオ

僕が知ったことではないです

タケシ

お前、今に見てろよ

ミキオ

そんなこと言ってる場合ですか？

タケシ

なんだよ

ミキオ

いま弁護士に相談して慰謝料請求の準備をしてもらってます

タケシ

ああそうだろうな、勝手にしろよ

ミキオ

まず継続的な養育費のお支払いはしてもらいますよ

タケシ

だから、勝手にしろって！

タケシ

あんまりイライラさせんなよバカがよ

ミキオ

それから慰謝料もしっかり取ります

ミキオ

まあ大金を持っているあなたには、はした金でしょうけどね

タケシ

ああ、慰謝料なんて払ってやるよ！！

タケシ

どうせ5万くらいだろ？

タケシ

大した金額じゃないな

ミキオ

はい？弁護士によれば慰謝料400万は超えると思いますよ？

タケシ

へ？

ミキオ

慰謝料5万なんて相場最低額の80分の1です

ミキオ

お話にならないですね…

タケシ

な、なに言ってんだよ

タケシ

脅かそうったってそうはいくかよ

タケシ

そんなにマナを取られたのが悔しかったのか！

タケシ

相変わらず浅はかだな！

ミキオ

後であなた宛にURLを送るので見てください

ミキオ

いま相談している法律事務所のHPです

ミキオ

相場が書いてあると思います

ミキオ

というより普通に検索すれば出てくると思いますが…

タケシ

バカな…

ミキオ

バカなのはどちらですか？

タケシ

400万なんてぼったくりだろ！訴えてやるからな！

ミキオ

…本当に話にならないな

ミキオ

そもそも僕の年収600万円に対してあなたはその4倍なんですよね？

ミキオ

2400万円以上の年収ということです

ミキオ

そんなに騒ぐほどの金額じゃないのでは？

タケシ

そんなもんマナと付き合うための方便に決まってんだろ！！

ミキオ

嘘だったってことですか？

タケシ

ああそうだよ、法律には違反してない

タケシ

俺は何も悪くない！！

ミキオ

嘘ついてまで他人の家庭を壊すなんて…

タケシ

はあ？ただのＡＴＭが何言ってんだよｗ

ミキオ

それで…慰謝料は払えそうなんですか？

タケシ

マナも仕事してるし、あんたの財産分与だってある

タケシ

すぐ払ってやるよ

ミキオ

本当に何も知らないんですね

ミキオ

僕ら夫婦の貯金は10万円も満たないです

タケシ

へ？

ミキオ

マナの浪費癖を知らないんですか？

ミキオ

ブランド品やエステでかなりの金額使いますからね

ミキオ

マナはあなたのお金しかアテにしてませんよ

タケシ

ま、まずい、どうしたら

ミキオ

ちなみにマナは自分の給料なんてものの数日で使い切りますよ

ミキオ

そりゃあ出会って1か月やそこらでは見抜けません

ミキオ

あなたからの連絡で、マナには心の底から愛想が尽きましたけどね

ミキオ

今回の件は、別れるにはちょうど良かったのかもしれない

タケシ

ま、待ってくれ！

タケシ

なあ考え直してくれないか？

タケシ

ほら、別れる予定だったんだろ？な？

タケシ

そんなに慰謝料なんて大ごとにしなくたっていいだろ？

ミキオ

それとこれとは話が別です

ミキオ

できるなら、子供のためにも2人で育てたかったんだ…！

タケシ

たった1ヶ月不倫しただけだ！

タケシ

頼むよ！

ミキオ

1ヶ月でもほぼ毎日会っていたとマナが言ってました

ミキオ

子供の世話を放っておいて、悪質という他ない

タケシ

キャンセル料の20万円もあるのに…

タケシ

どうしたら…

ミキオ

哀れなのは僕ではなかったようですね

ミキオ

後は弁護士を交えて処理しますので、もう連絡してこないで下さい

タケシ

待って、待ってくれぇ！

～10分後～

マナ

ねえ、ミキオ？

ミキオ

マナ？どうした

マナ

あの、今までのこと謝るわ

マナ

本当にごめんなさい

マナ

私どうかしていたみたい

マナ

あのタケシって男に騙されて、浮かれていたみたいなの

マナ

アイツ、金があるなんて全部嘘だった

マナ

トップ営業マンどころか、1件も契約取れないような窓際営業マンだったのよ

ミキオ

そうか

マナ

年収もミキオのほうがよっぽど稼いでくれていたの

マナ

甲斐性なしなんて言ってごめんなさい…

マナ

ミキオに相手にされなくて寂しかっただけなの！

マナ

私達、やり直さない…？

マナ

すぐじゃなくて良いの！少しずつで良いから…ね？

ミキオ

もうやり直すことはできないよ

マナ

そんなこと言わないで！

マナ

あんな慰謝料払えないわ！！

ミキオ

微々たるものなんだろう？

マナ

財産分与だってたったの5万円だったのよ

マナ

家計はあなたに任せていたから知らなかったの！

ミキオ

本当にお金のことしか頭にないんだな…

ミキオ

僕は何度も言っていたはずだよ

ミキオ

このままじゃ家計が厳しいってね

ミキオ

それでも散財を続けたのはマナだよね？

マナ

それは謝ったじゃない！！

ミキオ

いずれにしても君とはやり直す気はないよ

ミキオ

お金のことなんていくらでも我慢できるんだ

ミキオ

でも、子供を捨てようとしたことだけは、絶対に許せない

マナ

そ、それは…

ミキオ

これから慰謝料を請求するから

ミキオ

今のうちにブランド品を売る準備をしておくと良いかもしれないね

ミキオ

もし支払えなかったら強制執行なり訴訟を考えてるから

マナ

そんな……

ミキオ

それじゃあ、さようなら

～後日談～

ミキオ

その後、滞りなくタケシとマナに慰謝料を請求することができた

ミキオ

タケシは不倫が会社にバレてしまい退職を余儀なくされ、病んでしまったようだ

ミキオ

それから『慰謝料は5万円にする、俺を陥れた罰だ』などと支離滅裂な連絡をしてくるように

ミキオ

無視していると家にまで押しかけて来たので、警察に連行してもらった

ミキオ

マナも不倫の噂が社内で広まり居づらくなって退職

ミキオ

マナのブランド品は全て売っても大した額にはならなかったようだ

ミキオ

少しでもブランド品の近くにいたいと、買取専門店に転職し借金返済に追われている

ミキオ

一方で、俺には最近、娘を大事にしてくれる彼女ができた

ミキオ

家計をちゃんと考えてくれる優しい人だ

ミキオ

娘も彼女を気に入ってくれているので、今度3人で温泉旅行に行く予定だ

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結城真矢

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