架恋
私を乗せた山名先生の車は、
先日入ったレストラン のある繁華街を、ほぼ 通り過ぎようとしていた。
架恋
先生はただ薄い笑みを 浮かべて、ハンドルを 握っている。
そしてそのまま、 裏道っぽいところへ 車を進めてゆく。
架恋
初めて来た場所だけど、 ――ここは……。
架恋
架恋
私は愕然として先生を 見つめた。
先生はその頬に 薄い笑みを貼り付けた まま、私に目線を寄越す。
山名
山名
架恋
名前を呼ばれて 背筋に走ったのは、
もはや嫌悪感と 表現すべきものだった。
山名
架恋
架恋
今度ははっきりと、 山名先生の嘘を 見抜くことができた。
私はひそかに、 シートベルトの ストッパーを握りしめる。
そうしている間にも、 車はある建物の駐車場に 入ろうとしていた。
架恋
手のひらで隠しながら、 シートベルトを外す。
しかし、カチャリと 音が出てしまった。
山名
山名
架恋
減速していた車の ドアを開け、必死に 飛びだそうとする。
幸いロックはかかって なかったけれど、 半身を乗り出したところで、
架恋
先生に肩を掴まれ、 引きずり戻される。
山名
山名
架恋
山名
架恋
大きな声で叫ぼうと したけれど、
先生の手のひらで 口を塞がれてしまう。
腕を掴まれ、ポケットの 中の防犯ブザーに手を 伸ばすこともままならない。
架恋
架恋
女の子
その時、自分とは 違う女の子の声が、 先生を呼んだ。
架恋
女の子
ドアの外から車内を 覗き込むその女の子は、 私と同じ年頃で、
苑原先輩が見せてくれた 写真の子に似ている。
山名
先生の力が緩む。
加菜美と呼ばれた女の子が
私の左腕に自らの 腕を絡ませ、車から 降ろそうとしてくれる。
山名
女の子
女の子
山名
山名先生は加菜美さんを 怒鳴りつけ、半ドアのまま 車を急発進させた。
架恋
架恋
私は渾身の力を込め、 左腕を加菜美さんの 両腕から引き抜いた。
架恋
振り返ると、 加菜美さんはその場で 尻餅をついている。
けれど、大した怪我には ならなさそうだ。
山名
山名先生は口汚く 罵りながら、入ろうと していた駐車場を取り過ぎ、
そのまま車を走らせた。
山名
先生が手元で操作し、 自動で助手席の ドアが閉じる。
私は寸でのところで 左手を引っ込めた。
架恋
架恋
先ほど揉み合ったときに ポケットから飛び出した のだろう、
防犯ブザーは座席の 足元に落ちていた。
先生に肩を強く 掴まれていて、拾う ことができそうにない。
架恋
だが、先生はなかなか 車を停めようとしない。
そのまま繁華街を抜け、 さらに隣の市街地も 通り抜けて、やがて……
隣の市の、小さなホテル街 までやってきた。
――ここにはラブホテルと ビジネスホテル、両方が あるみたいだけど……
架恋
車は駐車場ではなく、 小さな建物のガレージに そのまま駐められた。
そして、先生は 助手席のドアを開ける ことなく、
自分が出た後の 運転席側から、私を強引に 引きずり下ろしたのだ。
架恋
山名
口を片手で塞がれ、 もう片方の腕で 体ごと引きずられる。
架恋
架恋
私は首を振って抗議 したけれど、まったく 顧みられることはなく、
ガレージから続く ドアの中に、引きずり 込まれてしまった。
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ひどいです先生