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名護 迅
真冬
あたしが入ってもまだ広い。 驚いて、感心しながら、あたしはキョロキョロと辺りを見回していた。
すると名護くんは、 「ちょっと待っててください」 と一言言って、 どこかの部屋に行ってしまった。
真冬
そんな疑問が生まれた。 だが、ふと足下の靴箱を見て 不思議に思う。
数足しかない靴の中に 婦人靴が一つもないこと。
出てないだけかもしれないけれど……紳士靴も見当たらない。
なんとなく少し、不自然に思えた。
名護 迅
真冬
戻ってきた彼の手にはタオルがある。
真冬
真冬
言いかけて、バサッ!と一瞬 視界が暗くなった。
あたしは、すぐにそれが タオルだと気づく。
でも名護くんの手は離れるどころか、あたしの髪を拭いていて……。
髪を覗き込まれて、 緊張で体が硬直する。
真冬
視線に耐えきれなくなったあたしは、バッ!とタオルを押さえた。
真冬
真冬
真冬
タオルを押さえる手に力がこもる。
名護 迅
真冬
だが、ほぉっ、と安心したのも束の間。「あの」と呼びかけられる。
ジッと真っ直ぐに見つめられ、 心臓が跳ねた。
早く返事をしようとしたあまり、あたしの声は「ひゃいっ!?」と裏返った。
名護 迅
真冬
真冬
真冬
ドクドクと鼓動が速くなってく。
真冬
そんな切なそうな視線を向けられても。
名護 迅
名護 迅
名護 迅
真冬
ハッと我に返る。
そこで、漸く意味を理解する。 押さえつけたのはタオル、 ではなく名護くんの手だった。
真冬
慌てて手を離すと、 プッと笑われてしまう。
恥ずかしすぎて、 穴があったら入りたい。 5年前に名護くんと 初めて会った時も、思ったっけ。
でも今回は、穴(湖)に入った(落ちた)結果が今なんだった……。
名護 迅
真冬
名護 迅
名護 迅
「今日は遅いですから、」 と言ってくれたけれど、素直に喜べない。
真冬
この時代に3年前のあたしがいるとして、それだと帰れないし、
もしくは入れ替わってたりするのだろうか?
真冬
真冬
そうだ。家に電話してみるのはどうだろうか。
真冬
慌ててポケットからスマートフォンを出す。
──が。
真冬
お金が入ってた鞄も落としちゃった。これじゃホテルにも泊まれない。
真冬
真冬
目の前に現れた彼だ。 ほんとは、ただ彼に 会いたかっただけなんだ。
この機会、無駄にしたくない。
真冬
何が正しい判断なのかなんて、 この際わからない。
だけど、──…。
名護 迅
あたしは思い切って、 床に正座した。 立ってる名護くんを見上げて。
真冬
真冬
名護くんは目を見開いて、 あたしを見た。
真冬
正気じゃないと思われるだろうか。
真冬
真冬
その時のあたしは、 ただ必死だった。
真冬
いつの間にか土下座の形に なってしまっていた。 こんなのされたら誰だって 普通驚くし、困ると思う。
真冬
名護 迅
名護 迅
立っていた彼は少し考えるようにして、首の後ろに手を置いた。
と、思うと。
正座するあたしの目線に 合うように、しゃがむ彼。
バッチリと目が合い、ジッと至近距離で見つめられて。
今度はあたしが目を見開いた。 多分あたしは。
真冬
息が止まるくらい、真っ赤な顔をしていたと思う。
名護 迅
名護 迅
真冬
あっさりと承諾してくれたことに、驚き…。
名護 迅
あたしはパァっと顔を輝かせた。
それを見て彼は 「で、」と言葉を続ける。 次に出た言葉はあまりにも意外だった。
名護 迅
顔が強ばる。 「え…?」と小さく漏らすあたしには、お構いなしの様子。
それから、追い討ちを掛けるように。彼はあたしの横に手をつく。
──刹那、 視界から消えた彼は。
真冬
彼はあたしの耳元に、 ぴとり…と唇をつけていた。
ゾクゾクと全身が粟立つ感覚と熱が走る。
それよりも突然の出来事に、 あたしは口をパクパクさせた。
完全にパニック状態に陥っていた。
それを余所に当の本人は、ゆっくりとあたしから離れる。 恐ろしいほど冷静な表情だった。
─パチンッ。
真冬
名護 迅
名護 迅
真冬
デコピンをくらった額を押さえながら唖然と、あたしは考えた。
真冬
彼が変わったのだろうか。 もしくは、素からこうだったの…?
名護 迅
名護 迅
真冬
真冬
いろんな意味で大丈夫だろうか…不安しかない。
それに、どうして3年前にタイムスリップしてしまったのか。
真冬
真冬
何にせよ、これから。
真冬
真冬
名護くんに会えた理由を探す、ってことだけ。
名護 迅
真冬
それだけは確かだったのだけど、 あたしはまだ、彼のことを 何もわかっていなかった。
episode.05…3年前の彼について