唯夏
瀧を救うには、まず、記憶をなくさせなきゃならなかった
唯夏
辛い記憶がある限り、瀧は報われない。1人で苦しんでしまうだけだって、家族みんなで考えた
唯夏
お母さんもお父さんも、必死だった。
唯夏
インターネットで調べたら、辛い記憶を消すには、それよりも悲しい過去を与えればいいって書いてあったから
唯夏
お母さんは瀧にひどいことをしてどん底に貶めた。
唯夏
そうすれば、お母さんの辛い過去は残っても、人に心を開くことができるようになるんじゃないかって考えたからね。
唯夏
まぁ、結局無駄だったんだけど。
唯夏
その次の手段として、私は自分だけで考えた方法をやることにした。
唯夏
瀧のことが好きだったのもあったから考えた方法だった。
唯夏
心を開くことができない瀧に近付いて、告白をして…
唯夏
それから、人を愛せるように、信じて頼れるように、いろいろなことをした。
唯夏
そして、最後はね、病気で一部の記憶をなくすことを利用して、すべての記憶を忘れてしまうと瀧に伝えて、お母さんと同じことをしようとしてた
唯夏
…馬鹿だよね、私
唯夏
瀧を助けたかったのに、こんなに変なことしかできなくて。
唯夏
逆に瀧を傷付けて。
唯夏
ごめん、ごめんね…
瀧
…いいよ、別に。
瀧
それにさ、俺のために家族みんなでそこまでしてくれたんだろ?
瀧
嬉しいよ
瀧
俺のせいもあるし。
瀧
…どうしても引っ越すのか?
唯夏
あ、うん…
瀧
なんで?
唯夏
…お母さんが、決めたから
瀧
…え?
瀧
いや、母さんはとっくに…
唯夏
生きてるの。
唯夏
私と住んでるの。
唯夏
瀧を助ける方法の一つとして、引っ越すって前から決めてたの。
唯夏
時期が早まっただけ。
唯夏
でもね、病気の治療はこっちでするから、一週間に一回くらいは来るんだけどね
瀧
…行くなよ
瀧
行かないでさ、その母さんと父さんと唯夏と俺で暮らそうよ
瀧
俺たち家族なんだろ?なら…
唯夏
ごめんね
唯夏
それはできない
瀧
…どうしてだよ⁈
唯夏
私、瀧とは恋人同士でいたいの。
唯夏
家族になったら、カレカノにはなれないし、大人になってから結婚することもできないでしょ?
唯夏
だから、嫌だ
瀧
何言ってんだよ⁈
瀧
家族なんだろ⁈
瀧
なら離れてても俺らは結ばれちゃいけないだろ?
唯夏
…!
唯夏
酷いよ…瀧…
唯夏
瀧は私のこと好きじゃないからそう言うことが言えるんでしょ⁈
唯夏
瀧は…瀧は家族になりたいのね⁈
瀧
…
唯夏
本当ならお前とまたデートしたいよ
だけど家族なら…
瀧
ああ。家族になった方絶対にいいだろ
唯夏
…そう
唯夏
好きなのは私だけなんだね
唯夏
ごめん。
唯夏
私、やっぱり引っ越すよ
唯夏
もう瀧のこと見てたくない…
瀧
え?
見てたくないって…どういうことだ…?
唯夏
バイバイ、瀧
唯夏
今までありがとう、お兄ちゃん…
瀧
お、おい!
瀧
待てよ、どういうことだ⁈
瀧
なんで俺のこと見てたくないんだよ⁈
瀧
なぁ!待てって!
唯夏は振り向かずに行ってしまった
俺の目から大粒の涙が瀧のように出てきた
唯夏
ただいまお母さん
蘭華
おかえり
蘭華
そろそろトラック来るけど、準備整ってるわよね?
唯夏
うん
悠河
瀧にはちゃんと伝えたか?
唯夏
あ、お父さん、来てたんだ
唯夏
瀧には、伝えたよ
唯夏
そしたら瀧、家族になりたいって言ったんだ
唯夏
…それで、逃げてきた
悠河
…瀧が
悠河
瀧が弱いのはわかってるだろ?
悠河
瀧は、家族になりたいと言いながらも裏では…前みたいな関係になりたいと思ってるだろうな
唯夏
思ってるわけない!
唯夏
だって…だって…
蘭華
唯夏
蘭華
あなたは本当に瀧と付き合っていたの?
唯夏
う、うん…
蘭華
なのになんでそんなに瀧のことをわかってないの?
唯夏
わ、わかってるよ瀧のことは!
蘭華
嘘おっしゃい!
蘭華
今瀧がどんな気持ちか、あなたには想像ができる?
蘭華
できないでしょう
唯夏
…
蘭華
ほら。何も言い返せない
私
瀧のことちゃんとわかってなかったのかな
瀧は、今どんな気持ちなのかわからない…
蘭華
瀧が再起不能になったらあなたのせいよ
悠河
…立ち直れないかもしれないな、瀧は。
唯夏
な、なんでそんなに私のこと責めるのよ⁈
唯夏
酷い!
蘭華
あのねぇ、私は…
私たちの会話を遮るかのようにトラックがやってきた
唯夏
あ、トラック…
蘭華
やっときたわ。悠河も手伝って頂戴
悠河
あぁ。
外は大雨が降っていて、空もどんよりと曇っていた