架恋
……
七限目は山名先生の 受け持つ、英語の 授業だった。
いつもなら、張り切って 授業を受けている。
――だけど今は……
架恋
(……割れちゃった。
クッキー……)
クッキー……)
架恋
(先生のお誕生日は今日なのに……)
架恋
(今日、告白するって決めてたのに――)
ノートを取る 振りさえできず、
私は教科書をぼうっと 見つめ、俯いていた。
背の低い私は 一番前の席だから、
きっとそんな様子は、 先生にも見えてしまって いるだろう。
山名先生に、嫌われて しまう……。
山名
佐々
架恋
っ
私はびくりと肩を震わせた。
――顔を、上げることが できない……。
山名
佐々!
架恋
っ、先生……
恐る恐る上を向いて、 先生を伺い見る。
そのクールな双眸から、 感情を読み取ることは できなかった。
山名
あとで、職員室へ来なさい
架恋
……!
架恋
(先生に、叱られる……!?)
架恋
……はい……
放課後、私は重い足取りで 職員室のドアを叩いた。
架恋
失礼します
一礼してから、室内に 足を踏み入れる。
山名先生の机は、 入り口からまっすぐ、 数歩進んだ先だ。
架恋
山名、先生……
山名
佐々。今日はいったいどうしたんだ?
架恋
すみません、先生……
山名
そうじゃない
山名
ずいぶんと気が沈んでいるようだが……
山名
どこか悪いところでもあるのか?
架恋
……っ
架恋
(先生……心配してくれてる――?)
架恋
い、いいえ……っ、
大丈夫です
大丈夫です
山名
……そうか?
ならいいが……
ならいいが……
先生が表情を伺っている 気がしたけれど、
私は目線を逸らして ごまかした。
山名
佐々。苑原はあれから何か言ってきたか?
架恋
えっ?
突然話を変えられ、 私は瞳をしばたかせた。
架恋
(苑原先輩のこと?)
架恋
(……割れたクッキーは先輩に渡しちゃったけど……)
架恋
(そういうことじゃないよね)
架恋
いいえ
山名
……そうか
山名先生はそう言うと、 私から目線を外して 前を向いた。
架恋
……あ、あの……、
先生?
先生?
山名
……佐々
再び私へと向き直った 先生に見つめられ、 私は背筋を伸ばす。
山名
私はまだ仕事があるが……
山名
良かったら、終わるまで待っていてほしい
架恋
は、はいっ
架恋
……え?
思わず流れで返事をして しまったものの、
耳を疑うような言葉に、 私は先生に訊き返した。
だけど、先生は。
山名
裏門で待っていてくれれば、車を回す
架恋
え……先生?
架恋
……それは、どういう……
山名
今日は私の誕生日なんだ
山名
誕生日をお前と一緒に過ごしたい――
山名
そういう理由では、
……駄目か?
……駄目か?