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アルストリア戦記　―ゲームに侵略されるセカイ―

第1話 - プロローグ　ＶＳブルーゼリー【１】

2025年02月11日

#第4回テノコン

#ミステリー

#ホラー

#バトル

日比野響

彼女は目の前の事実に困惑していた。

シエル

え、これどういうことなの？

彼女の記憶が正しければ、ついさっき日勤の仕事を終えて、今まさに帰宅しようとしていたところ。

それこそ、帰りにコンビニに寄って、酒とツマミでも買い込んで帰ってやろうとは思っていたが、しかし気がついたらコンビニにいるとはどういうことか。

ミラ

おう、シェルン。
久しぶりやな。

コンビニには、どういうわけだか、遠い知り合い――かつて流行ったＭＭＯゲームで知り合った男の姿があった。

最後に会ったのは、確かそのＭＭＯゲームが当然のサービス終了を宣言する少し前だから、実に10年ぶりの再会だ。

当時、同じギルドに所属し、何度かオフ会で会ったこともある。

あの時は医師の卵だった彼であるが、その格好からして、どうやら医師になったらしい。

シエル

久しぶりって……どうしてミラさんがここに？

シエル

それに、ここはどこのコンビニ？

ミラ

歌舞伎町やな。
割りかし俺が使ってる。

シエル

え、ちょっと待って……理解が追いつかない。

そもそもハンドルネーム、シエルの現在は、栃木県の看護師である。

それなのに、どうして歌舞伎町のコンビニなどにいるのだろう。

ミラ

あー、細かい説明は後やな。

ミラ

というか、俺にもよく分からんことが多い。

ミラ

ただな、シエルン。
あいつに見覚えあるやろ？

ミラはそう言うと、コンビニの天井を指差す。

そこには、青色の物体が貼り付いていた。

大きさは頭の大きさくらいで、青いそれの向こう側が見えることから、透き通っているらしい。

シエル

あれって……アルストリア戦記のチュートリアルで出てくる【ゼリー】じゃないの？

ミラ

ご名答。
多分やけど、アルストリア戦記に出てくる【ゼリー】のうち、一番の雑魚やった【ブルーゼリー】やと思う。

ミラ

それはそうとな、最近になって、歌舞伎町に限らず、全国で謎の集団窒息死事件が起きてるの知ってるか？

シエル

え？
そうなの？

ミラ

あぁ、ネットじゃお祭り騒ぎや。

ミラ

その犯人が、今俺らの目の前にいるわけよ。

２人の目の前にいるのは、透き通った青色の、わけの分からない存在。

シエル

まさか、あのゼリーが？

ミラ

そうやと思う。

ミラ

それでもって、あいつを倒せなければ、俺達もきっと同じ末路をたどる。

シエル

待って、でもあいつって、チュートリアルに出てくる程度の雑魚でしょ？

シエル

なんとかなるんじゃないの？

ミラ

シエルン、あいつが雑魚なのは、アルストリア戦記の中だけや。

ミラ

そもそも、あいつがなんのためのチュートリアルに出てきたか覚えてるか？

シエル

確か、魔法属性が弱点の敵を紹介する際のチュートリアルだった気がする。

シエル

私、それに気づかずに、１時間くらい物理で殴った結果、死んだ気がする。

ミラ

……マジでシエルンは期待を裏切らんな。

ミラ

さすがはへっぽこプレイヤー筆頭やで。

ミラ

さて、そんなシエルンに問題や。

ミラ

当たり前やが、ここには剣もなければ魔法もない。
でも、魔法攻撃しか効かない魔物が目の前にいる。

ミラ

こう言う時、どうしたらいいと思う？

シエル

どうするもなにも、やれることをやるしかないでしょう？

ミラ

あー、その適当な上に、後でいくらでも言い訳できるような言い回し、いかにもシエルンっぽいわ。

ミラ

さて、実際問題どうしたらいいと思う？

ミラ

さっき試してみたけど、コンビニから外には出られない仕様みたいや。

ミラ

くわえて、もう一度言うけど、ここには剣も魔法もないんや。

ミラ

そんな状態で、魔法しか効かん相手にどうやって勝つのか。

シエル

いや、そんなことを言われても知らないよ。

ミラ

……これが俺達の直面している危機や。

ミラ

あのアルストリア戦記では雑魚だったゼリーやけど、現実世界ではどう処理したらいいものか。

ミラ

幸い、あいつは動きがトロイし、ワンパターンやから、そう簡単に殺られたりはせんと思う。

ミラ

ただ、覚えとるか？

ミラ

アルストリア戦記の戦闘には時間制限が設けられとる。

ミラ

どんなに粘ったとしても60分。

ミラ

60分が経過した時点で決着がついていなかった場合、どれだけこっちが優勢であっても負け扱い。全員仲良くワイプアウト。

シエル

確かに、そんなルールあったね。

ミラ

懐かしんどる場合か。

ミラ

いいか？

ミラ

俺達に残されている時間は、すでに60分をきっている。

ミラ

しかも、目の前におるモンスターは、どういうわけか、あのアルストリア戦記に出てきた【ブルーゼリー】や。

ミラ

【ブルーゼリー】は確か水属性やったから、火属性の魔法があれば簡単に倒せる。

ミラ

ただし、ここは歌舞伎町のコンビニ。

ミラ

しかも、俺は単なる外科医。

シエル

私は看護師。

ミラ

当然ながら、どっちも魔法は使えんよな？

ミラ

剣も魔法もない世界で、どうやって【ブルーゼリー】を倒せばいいのか？

シエル

あの、それも問題だけど、そもそもの問題があると思わない？

ミラ

どうして、アルストリア戦記の雑魚が、こうして俺達の目の前におるのか？

ミラ

そして、はるか遠方で暮らしているはずのシエルンが、どうして歌舞伎町のコンビニにおるのか？

ミラ

これはな、もう閉鎖されたはずのアルストリア戦記攻略サイト【串カツ】の板に残されていたコメントやけどな。

そこで言葉を区切ると、ミラはこう続けた。

ミラ

アルストリア戦記が現実世界に侵食し始めとるらしい。

これは、サービスが終了したはずのゲーム【アルストリア戦記】を巡る物語。

かつてそれをプレイしていたアラサー達が、その運命に抗う物語である。

アルストリア戦記　―ゲームに侵略されるセカイ―

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日比野響

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