そんな言葉から始まった
きっと恋ではなかったモノ
だけど傷の舐め合いと言うには甘く
幸福と言うには切なすぎた
彼女の指先は細く冷たく
手を繋ぐといつもささくれが触れ
私はよく、彼女の指にバンソツコウを巻いてあげた
それを見る彼女の目は静かで
彼女の唇から落ちる吐息が頬にかかるのが胸を高鳴らせた
口約束の愛でしかなかったけれど
それでも私の中に
彼女への恋慕は静かに育っていた
彼女が泣くようになったのはいつからだったか
はらはらと、桜の花が散るように
ただはらはらと、理由も告げずに涙する
それを私はなにも言えずに見守るだけで
くちづけすら、そっと肩を押されて拒否された
私の言葉に、彼女は泣き笑いで答えた
その意味がわかったのは、彼女が空を駆けてからだった
彼女は夜空に躍り出るように、屋上から身を投げた
遺書にはたった一言
「私はあなたが私を愛してくれるほど あなたを愛してあげられない」
私の愛が、彼女のそれを越えたのだと
彼女はそれに返礼できないことを嘆いていたのだと
つまりは私が彼女を殺したのだと
理解した瞬間、襲いかかる虚無は私の足元を崩した
たった一年足らずの関係
だけど私は彼女を失ってから知ったのだ
私は彼女に恋していたのだと
なぜうまくいかないのだろう
愛することも、愛されることもこんなにむずかしい
ただ幸せになりたいだけなのに
コメント
8件
切ない...めちゃくちゃ綺麗で大好きです...
わ、なんか素敵です… 言葉の一つ一つが丁寧で、綺麗で… 流石ですね🥺
彼女は誰かに愛されたかったけど、その誰かから自分以上に愛を注がれるのは辛かったんですね なんだろう、彼女は自分のことが嫌いだったんでしょうか 凄く素敵で切なくて、最後、途中出てきた桜の描写が浮かびました。 綺麗だけど儚く散っていく、そんな桜が似合う話だな、と感じました