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第一話:いつも通りの朝に、少しだけ違う光 「……透、朝だぞー。起きないと遅刻する」 その声で、まぶたがじわりと持ち上がる。カーテンの隙間から差し込む朝の光は、まだ柔らかい。玄関に向かう足音、キッチンから漂う味噌汁の香り——どれも“いつも通り”の朝の風景。 「……ん、んー……おはよ、陽翔……」 「ほら、起きた。よしよし」 陽翔の手が、俺の髪を軽くぐしゃっと撫でた。 こいつはこういうのが自然にできる。俺が大学の頃から好きだった部分であり、嫌いな部分でもある。だって、他の誰にでもやってる。彼女がいたときだって、女の子に同じようにしてた。……だから、俺はそれを羨ましがる資格すらない。 「朝飯できてる。急げー」 「……うん」 ベッドから起き上がり、Tシャツの裾をぐいと引っ張る。陽翔が作った朝ごはんは、卵焼き、鮭、味噌汁に、炊きたてのご飯。……完璧すぎて、逆にイラつくくらいだ。 「今日の卵焼き、ちょっと甘め?」 「お、わかった? 透の好みに寄せた」 そうやって、当たり前みたいに笑ってくる。 おまえ、ほんと、俺の心臓に悪いって。 「……ありがと」 それだけを返して、箸を口に運ぶ。 焦がれすぎて、味なんて、もうよくわかんない。 *** 俺たちは大学の同級生で、卒業してから2年目の春。社会人になってからもお互い独り暮らしの寂しさに負けて、なんとなく「一緒に住んじゃう?」という軽いノリでシェアハウスを始めた。 2LDK、家賃は折半。掃除当番も分担。 一緒に住んで一年、ケンカもせず、わりと上手くやってると思う。 でも。 最近、たまに思うんだ。 「これ、友達のままでいられるのか?」って。 *** 帰宅は陽翔の方が遅かった。夜10時過ぎ、玄関の鍵が回る音。ソファでゴロゴロしてた俺は、テレビの音量を下げて振り向いた。 「ただいまー……あー、疲れた」 「おつかれ。ビール、冷蔵庫入ってる」 「神か。マジで結婚してくれ」 それ、冗談でも言わないでくれ。 「じゃあ……籍入れる?」 一瞬、俺の口から出た言葉に、自分でもびっくりした。 陽翔が目を丸くする。 「……今の、冗談か?」 「……どう思う?」 その問いには、返事はなかった。 でも笑ってごまかす陽翔の顔を見て、俺は自分の言葉を飲み込むしかなかった。 「いや、なんでもない。風呂、先入るわ」 俺は立ち上がり、足早にバスルームへ向かった。 心臓が、バカみたいにうるさい。 俺はたぶん、本気で陽翔が好きだ。 でも、それを言ったら、今の関係が壊れてしまいそうで——、、。 ずっと言えないままだ。
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コメント
1件
これ文字数オーバーしてて見れないので、明日一話ずつ分けて乗っけていきますね! 本当すみません🙏