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夜の公園でいつものように白乃と会っていると、 突然誰かに声をかけられた

弘樹

あれ、その声は……

弘樹

先輩?

やべぇ、先輩に白乃といるところ見つかっちゃった

昼間にあんなに心配してくれた後で、 恋人と会ってるの見られるの、気まずいな……

先輩

ああ、そうだ

先輩

こんなところで、ひとりで何やってんだ?

弘樹

あ、いや、実は……

弘樹

えっ

弘樹

ひとり?

ふり返ると白乃の姿は見えなかった。驚いて隠れちゃったのかな?

弘樹

ああ、その

弘樹

実はこの公園が彼女との待ち合わせ場所になっていて……

先輩

……そうか

先輩

彼女さんとやらは、まだ来ないのか?

弘樹

いや、さっきまで話していたんですけどね

弘樹

驚いて隠れちゃったのかな?

先輩

そう、なのか……?

先輩

ああ、俺はこの近所に住んでいてな

先輩

今は町内会の夜の見回り中だ

先輩

いつもは親父がやっているんだがな

先輩

今日はぎっくり腰で……

弘樹

ああ、そうだったんですね

先輩

彼女といるときに悪かったな

先輩

また明日、会社で

弘樹

はい

先輩と別れた後、俺は白乃のアパートを訪ねた

白乃

ごめんなさい

白乃

知らない人に話しかけられてびっくりしちゃって……

彼女は恥ずかしそうにそういった

だからといってアパートまで言って逃げる奴があるかと言って、 俺たちは笑いあった

ところが、次の日――

先輩

おい、弘樹

先輩

お前に渡したいものがある

弘樹

ああ、先輩

弘樹

昨日はすいません

弘樹

彼女、なんかびっくりして逃げちゃったみたいで……

弘樹

で、渡したい物って?

先輩

これだ

そういって先輩が取り出したのは、お札のようなものだった

弘樹

…………これは?

先輩

落ち着いてよく聞け

先輩

昨日、俺はお前に話しかける前から様子をうかがっていたんだ

先輩

公園から何やら話し声が聞こえてきたからな

先輩

だがお前は、ずっと公園で、ひとりでしゃべっていた

先輩

お前の言う彼女さんなんて、どこにもいなかったんだ

弘樹

…………えっ?

先輩

最初は、お前の心の病かなんかだとも思ったよ

先輩

だけど、ここのところのお前の弱り具合を考えると

先輩

お前は、死霊に憑りつかれているんじゃないか、って気づいたんだ

先輩

だから、このお札を……

弘樹

いやいやいや

弘樹

おかしいですよ

弘樹

死霊だなんて

弘樹

あいつは

弘樹

白乃はちゃんと、あのあたりのアパートに住んでいて……

先輩

なら、ちょうど明日は仕事が休みだ

先輩

昼間にそのアパートに行って、確かめてみないか?

弘樹

えっ……

先輩

これは俺の勘なんだが、お前は昼間にアパートに行ったことはないんじゃないか?

弘樹

それは……

先輩

もしそれで、俺の勘違いだった、となればそれでいい

先輩

俺も、自分が突拍子もないことを言っている自覚はあるからな……

突然の出来事にとまどっている

正直、先輩の話にはまったく納得できなかった

ただ、先輩の態度は真剣そのものだった

その態度に押されて、俺は先輩と確かめに行くことにした

数日後

俺は今、自分の部屋にいる

白乃が住んでいたはずの部屋は

……もう何年も使われた痕跡がなかった

それを確認すると、先輩は俺に、夜の間は札をはって部屋にこもること

特にあの公園には絶対に近づかないように、と言った

扉には先輩からもらった札がはってある

もう何日も白乃にはあっていない

皮肉なことに、俺の体調は日に日によくなった

白乃はやはり、人間ではなかったのか

だとしたら

弘樹

もしかしたら、あいつは――

コンコン……

弘樹

コンコン……

聞き間違いではない。誰かがドアを叩いている

弘樹

誰?

あの……

白乃

白乃です

白乃

ごめんなさい、部屋まで押しかけちゃって

白乃

でも、ここ数日公園に弘樹が来ないから

白乃

その

白乃

前顔色が悪いって話もしてたし

白乃

何かあったのかなって……

弘樹

白乃

弘樹

……鍵は、開いているよ

弘樹

入ってきたら?

白乃

…………

もし、白乃が人間でないなら、問題になるのは鍵ではなく、お札の方だろう

彼女が、そのまま、何事もなく部屋に入ってきてくれたら……

そう願った

けれど、彼女はずっと扉の外にいた

だから、俺は、彼女の正体について、思い切って聞いてみることにした

弘樹

白乃、君は……

弘樹

…………白花、なのか?

白乃

…………

白乃

…………白花さんって

白乃

弘樹の幼なじみだよね?

白乃

私は……

弘樹

白花

弘樹

ずっと

弘樹

ずっと会いたかったよ

白乃

…………………………………………

白花

……………ずるいよ

白花

そんなこと言われたら

白花

白花

私だって、ずっと……

そういって彼女はずっと扉の前で泣きじゃくっていた

ときどき

白花

弘樹、開けて……

という声が聞こえた

弘樹

俺は、俺は

弘樹

…………どうすればいいんだ

数日後

弘樹

先輩、本当にいろいろ、お世話になりました

先輩

ああ、元気でやれよ

俺は今の会社を辞めることにした。今日で仕事の引き継ぎも終わる

先輩

まあ、お前は優秀だったからな

先輩

課長なんかはどうして辞めるんだって嘆いていたけど

先輩

まあ事情が事情だからなぁ

先輩

この町に長くいない方がいいと、俺も思うよ

先輩

少しでも遠くに行った方がいい

弘樹

ええ

弘樹

いろいろ考えたんですけど

弘樹

……少し遠くに行くことにしました

弘樹

先輩、いろいろありがとうございました

弘樹

それに

弘樹

……ごめんなさい

先輩

ごめんなさいって、仕事のことか?

先輩

まあお前に抜けられると大変だけど、こればっかりは仕方ないだろ

先輩

気にすんな

弘樹

……はい

弘樹

それじゃあ、先輩はお元気で

先輩

ああ。元気でな

数日後

先輩

なんだって!

後日

先輩

弘樹はなぜ、あの公園に近づいてしまったのだろう

先輩

お札がきかなかったのか?

先輩

それとも、死霊に精神を乗っ取られた?

先輩

ただ、弘樹のことをいろいろ調べていくうちに

先輩

弘樹に憑いていた霊は

先輩

あいつの幼なじみだったのではないか、と気づいた

仕事だけの付き合いで、それほど親しかったわけではないけれど、 今日俺は弘樹の墓参りにやってきた

先輩

…………もしかしたら弘樹は

先輩

自分の意志で、公園に行ったのかもしれない

先輩

幼なじみとの再会

先輩

それがたとえ幽霊であったとしても

先輩

そしてその再会が自分の死につながるとしても

先輩

弘樹は

先輩

もう二度と、彼女と離れたくなかったのではないか

先輩

彼女を一人死なせてしまったことをずっと気に病んでいたあいつは

先輩

もう二度と、彼女をひとりにしたくなかったのではないか

先輩

そんな気がした

先輩

この墓地のどこかに、あいつの幼なじみの墓もあるはずだ

先輩

ついでにそっちにも、線香の一本も供えておくかな

そう思いながら弘樹の墓に線香を供えると

煙の臭いにまじって、どこからか梅の花の香りが漂ってきた気がした

終り

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