カエデ
カエデ
父さん……
カエデ
僕のこの剣に罪はない
カエデ
あるのは僕自身
カエデ
僕の心に巣食う『慢心』という獣のせいなんだ
カエデ
その慢心という罪を僕はこの剣に着せてしまった
カエデ
だけど、今日この瞬間だけはその罪を切り裂く刃と化してくれるよね
そんな感傷に浸るカエデを他所に、数体のゴブリンはカエデの首を狩り取ろうと襲い来る
カエデ
カエデ
君達じゃ僕に傷を付けられない
カエデ
ましてや僕の後ろにいる『仲間』になんてつけられるわけが無い
瞬間近寄ってきていたゴブリンたちが突然動きを止め、数秒後斬り崩れていく
カエデ
絶対にみんなには手を出させないから
カエデ
残るは君だけだよレッドグリズリー
カエデ
フィンさんが言うにはこの後殺気の持ち主が来るみたいだけど
カエデ
その前にお前は殺らせてもらう
以前までのような弱々しいカエデは見えず今見えるのは一言で言えば”鬼人”
鬼のように鋭く冷たさを持つ瞳に本能的に感じられるほどの”圧”
優しさという言葉が似合っていたカエデはそこには居ない
今この場にいるのはカエデの形をした鬼人かそれに準ずるなにかだろう
その証拠に先程まで猛威を奮っていたレッドグリズリーがその場から動かずただ睨みをきかすだけになっていた
レッドグリズリー本人も恐らく気づいたのだろう、本能的に今カエデと殺り合うのは得策ではないと
カエデ
逃がさないよ?
カエデ
僕のせいでこうなった…
カエデ
それは承知してるけど、この怪我をさせたのは君でもある
カエデ
不甲斐ない自分に対しての八つ当たりかもしれないけど
カエデ
ごめんね…僕のために
カエデ
カエデ
死んでくれる?
その笑顔に優しさの笑みはなく、底知れない恐怖だけがレッドグリズリーを襲う
恐怖したレッドグリズリーはあろうことか手負いの人間だと言うのに背を向けこの場を離れようとした
カエデ
逃げれないし、逃がさないよ
その場から1歩も動かず、カエデが剣に触れたと思った束の間斬撃がレッドグリズリーに飛んでいき切り裂かれる
カエデ
カエデ
みんなが頑張ってくれたから僕一人でもレッドグリズリーをやれた
カエデ
ありがとう…
カエデ
本当は僕もこうやって戦ってみんなの役に立ちたいけど…
カエデ
また僕は同じ過ちを犯しそうで怖いんだ…
カエデ
だから今回みたいに僕だけになった時…
カエデ
そんな特殊な状況になったらまた”剣”を抜かせてもらうね…
カエデ
それ以外の時は基本は飾りになって代わりに医療魔法でサポートに回るから……
死屍累々の森の中、剣を鞘に収め亡骸になったレッドグリズリーを前にそう呟く
カエデ
カエデ
!
カエデ
フィンが話してた殺気……
カエデ
複数かと思ったけど一つだけみたい
カエデ
それにこの感じ
カエデ
獣特有のものじゃない
カエデ
変に体にまとわりつくこの気持ちの悪い殺気
カエデ
人にしか出せない独特なもの……
カエデ
一体誰が僕達にこんな殺気を向けて……
クリュナ
クリュナ
アハッ☆
クリュナ
みーつけた♪
カエデ
(殺気の持ち主はこの娘か!?)
カエデ
(見た目で言えば恐らくフィンやシュナと同じくらい……)
カエデ
(けど、同い年が出せる殺気じゃない!)
カエデ
(一体この娘はどんな境遇を………)
クリュナ
ねぇねぇキミ?
カエデ
なに?
クリュナ
その後ろにいる男と女に用があるんだけどぉ
クリュナ
退いてくれる?
カエデ
難しい相談かもしれないね
カエデ
何もしないって言うならともかく…
カエデ
キミ何もしないわけないよね?
クリュナ
んー?
クリュナ
どうかなぁ?
クリュナ
”私的”には遊びのつもりでもその二人にとってはそうじゃない説はあるかもぉ?
カエデ
だとしたらごめんなさい
カエデ
僕はキミをこの二人に近づけることはしたくないかな
クリュナ
そっかぁ……
クリュナ
でも私もこのまま引くわけにはいかないんだよねぇ
クリュナ
なんせ、『ミクモ』と約束しちゃったから
カエデ
ミクモ?
クリュナ
キミには関係ないよ☆
クリュナ
だって今ここで死んじゃうんだもん♪
その言葉の後突然彼女の背後から鎌が現れカエデの首元を狩ろうとする
カエデ
!
意表を突かれたと言うにもかかわらずカエデは落ち着きその鎌の対処をする
クリュナ
あら?
クリュナ
私のコレ初見で防げちゃうの?
クリュナ
面白くないなぁ…
カエデ
ゴメンね面白くなくて
カエデ
今僕はそんなエンタメに体を張れるほど優しくないからさ
クリュナ
みたいだねぇ?
クリュナ
その瞳かなり私に対して殺気立ってるもの
カエデ
出来れば今ので諦めてくれると助かるかな?
クリュナ
んふふ〜♪
クリュナ
絶対やだ☆
クリュナ
初見で防げちゃうのは面白くなかったけど
クリュナ
今まで殺ってきた奴よりは楽しめそうだから
クリュナ
そこにちょっと興味惹かれたかも?
カエデ
なら、僕もちゃんと相手するよ
カエデ
みんなを守るためにこの”剣”を振るうよ
クリュナ
アハッ☆
クリュナ
じゃあ私の攻撃で壊れないでね?
それも複数本扱い襲ってきており、さながらカマキリのような連撃とその巧みな扱い方であった
カエデ
くっ!?
カエデ
(さすがにみんなを守りながらこの手数を防ぐのは難しいか…)
カエデ
(なら、あの娘を一度大きく後ろに飛ばせば………)
止まることない攻撃の嵐に対して冷静に状況を判断し、一瞬の隙を突いてカウンターを一撃入れる
カエデ
カエデ
はぁぁ!
クリュナ
ちょっ!?
カエデ
『青柳流 つむじ風』
連撃の一瞬を突いたその時弾いたと同時に前方に小さな風の渦を作り出し彼女を吹き飛ばす
クリュナ
きゃぁぁ!!?
カエデ
両刃の剣でもいけるものなんだ…
カエデ
けど本来の力は出せないか……
クリュナ
今の攻撃……
クリュナ
クリュナ
よく見ればあの構えに、”青柳流”という流派の会得者……
クリュナ
キミ名前は?
カエデ
カエデ
僕の名前はカエデだ
クリュナ
カエデ……
クリュナ
クリュナ
そうか!キミがあのカエデか!!
カエデ
あの?
クリュナ
そう!『父殺し』という不届き者の!!
カエデ
!!
クリュナ
まさか、あんな名家に生まれた一人息子がこんなしょぼくれた冒険者に…
クリュナ
しかも、流派である青柳流は片刃の剣を使う物なのに両刃で戦うなんて…
クリュナ
もしかしてキミ……
クリュナ
クリュナ
戦うのが怖いの?
カエデ
そんなことない…
カエデ
そんなことは無い!
クリュナ
そんなに強く否定してるとそうですって自白してるのと変わんないよ?
カエデ
なんとでも言えばいい!
カエデ
今の僕は”冒険者”のカエデだ!
カエデ
過去の功績も全て捨てた!
クリュナ
なら何故その流派の技を使うの?
クリュナ
まだキミは過去に囚われてるの
クリュナ
その証拠は今持ってる両刃の剣
クリュナ
過去に囚われてるから片刃を使うのが怖いのよ
クリュナ
また同じ過ちを繰り返すと思ってるからね
カエデ
カエデ
キミは、キミはなんなんだ!?
カエデ
僕の何を……
クリュナ
私の名前はクリュナ
クリュナ
昔キミのお父様に手ほどきを受けたことがある元門下生よ
カエデ
!
カエデ
クリュナ……
カエデ
カエデ
あの問題児か!
クリュナ
失礼ねぇ?
クリュナ
練習相手が手を抜いたことに対してお仕置しただけよ
クリュナ
そのお仕置で両腕はもう剣を握れなくなっちゃっただけ♪
カエデ
外道な奴……
クリュナ
私たち運命的な出会いかもね?
クリュナ
キミのお父様の元門下生とそのお父様の息子
クリュナ
クリュナ
ふふっ…
クリュナ
それなら初撃を防がれたの納得かも☆
クリュナ
ゾクゾクしてきちゃった☆
クリュナ
今からキミをキミが殺したお父様の元に行かせることが出来ると思うと
カエデ
キミに僕は殺せない
カエデ
そして僕はまだ父さんの元には行かない
カエデ
この世界で”正しく”この力を使い、それを成しえた時にそちらに向かうからね
クリュナ
なら、志半ばでくたばって♪
ギルド団員
ギルド団員
そこまでだクリュナ!!
クリュナ
ちっ……
クリュナ
いい所だってのに…………
カエデ
ギルドの皆さん!
ギルド団員
怪我はないな!?
カエデ
は、はい!
クリュナ
今回は何もしないであげるけど
クリュナ
次は無いわよ?
カエデ
それはお互い様だよ…
クリュナ
だといいわね♡
カエデに向けウィンクを送ると高く飛び上がり姿をくらました
ギルド団員
クソ!また逃がしたか……
ギルド団員
ギルド団員
いや、それよりカエデくん無事か!?
カエデ
ぼ、僕は大丈夫ですけどみんなが!
ギルド団員
よし!直ぐにギルドに戻るぞ!
カエデ
ぼ、僕も協力します!
カエデ
カエデ
(クリュナ…君の名前はしっかりと覚えたよ)