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いつも
僕に吠えてくる向かいの家の犬が
今日は静かだ
いつも
僕の帰って来るタイミングを 知ってるかのように
馴れ馴れしくする隣の家のおばさんが
話しかけて来ない
そこにいるのに
ズキン
少し頭痛がした
街に出てみた
そんな気分だった
寂れた家電量販店で
"音のならない"テレビがあった
ニュースをやっていた
見出しにはこう書いてあった
二十一世紀最大の 飛行機事故から五日
飛行機事故…?
ズキン
唐突に思い出した
僕はその飛行機に乗っていた
今日は空が綺麗すぎる
そう思うくらいに
なんの音もしなかった
飛行機事故
どうやら僕は
それで耳が聞こえなくなって しまったらしい
あと、軽い記憶障害に なっているようだ
この五日の記憶がない
事故に合うまでのことは
思い出した
僕には、人生で初の、 そして最後になろうとしている
彼女がいた
十月二十日
彼女の誕生日
今日だ
僕が出張から帰ってきたらデートをしようと言っていた
耳が聞こえなくなってしまったことを報告しないと…
嫌われるだろうか
いや、ともかく、 心配しているだろう
あの飛行機事故から 生きて帰っただけでも奇跡だ
無事を伝えないと
黄土色の椅子に
彼女は座っていた
顔を伏せ、体は僅かに震えている
泣いている…?
和樹……グスッ
彼女は僕の名前を呼んで泣いていた
僕が死んだと思っているのか
大丈夫。僕は生きてるよ
そう言って僕は
彼女の肩に手を置こうとした
…………あれ?
右手が…ない
右手まで、失ったのか
反射的に左手を見た
左手も……ない
手を、無くしてしまった…
声を掛けようとした
声が………出ない
声帯までも……
少し、疲れた
今、彼女と向かい合っても
ちゃんと話せない
嫌われるに決まっている
今日は、帰ろう
目の前が真っ黒になった
目まで、見えなくなったのか
ごめん
僕、もう、生きたくない
ビルの屋上を目指した
暗闇の中、ゴールを見つけるように
少しでも残っている体で
ゴールは白かった
見えないけれど
とても眩しい天気だと分かった
いつも、周りとズレていた僕には、
死は、白の方が似合う
飛んだ
何も見えないから
何も怖くない
何も変わらなかった
落ちたのに、さっきと同じ感覚だ
そっか、僕は………
十月二十日
二十一世紀最大の 飛行機事故から五日
ほぼ全滅 生存者、捜索中
十月二十一日
二十一世紀最大の 飛行機事故から六日
乗客、乗組員……
全滅