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春は来ない。
もう、私の知っている
「春」 は居ない。
「春」とは、幼なじみだった。
保育園から、高校生まで
クラスは違っても、ずっと仲が良かった。
長い付き合いのせいで
お互いに飽きたり
喧嘩したりしても
いつの間にか、笑いあっている。
そんな仲だった。
ずっと、続いていくと思っていた。
───だから。
目の前で轢かれても
すぐには理解できなかった。
…冬のことだった。
スリップした車が、突っ込んできたのだ。
薄く積もった雪に
差し色の様な紅が
じわり、じわりと
広がっていった。
何も解らずに
立ち尽くしていたら
いつの間にか、救急車のサイレンが聞こえてきた。
その後、どうやって家に帰ったかは解らない。
でも、一つ言えることがあるとすれば
春の顔は、雪よりも白く
皮肉にも、美しかった。
解っていた。
春がもうこの世に居ないことを。
解りたくなかった。
心の支えが崩れ落ちていった。
このまま終わるなんて嫌だった。
──だから、私は。
あの日。
遺体を持ち出して。
春は。
しっかり者だ。
そう言って左手の腕時計に目をやる。
春は、左利きだ。
そう言って走り出す。
春の足には
「あの日」の傷がある。
彼女は、何も知らない。
「自分が作り物」という事に。
何も知る必要は無い。
貴女は貴女で
私は私なのだから。
──「春」
桜が舞う日和。
春は来ない。
もう、私の知っている「春」は居ない。
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