秋斗
瞬き
墓石は畦道に至っている
秋斗
瞬き
墓石は田の中に佇んでいる
秋斗
秋斗
距離が詰められたとき
あの墓石が目前に迫ったとき
一体
俺はどうなってしまうんだ?
秋斗
殺される
墓石に?
秋斗
秋斗
俺の脳裏にある単語が光った
それは……
"じいちゃん"
秋斗
秋斗
秋斗
そうこうしている内に 既に、墓石は50メートル前ほどに 迫っていた
秋斗
急いで寝室に向かった
じいちゃんのもとへ駆け寄ると
じいちゃんは暗い部屋のなか 一人、正座していた
何もない壁を見つめているが そこに何かを探し出すように
目だけは忙しなく動いていた
俺は、なりふり構わず じいちゃんの体を揺すった
秋斗
じいちゃん
秋斗
じいちゃん
じいちゃん
秋斗
じいちゃん
じいちゃんは 不思議そうに俺の顔を見つめた
そこに何か 差し迫った面相を察したのか
「熊でも出たか」 と、深刻そうに述べた
秋斗
秋斗
じいちゃん
じいちゃん
秋斗
秋斗
じいちゃん
そこで俺は後悔した
いくら危機的な状況でも 辛い事を思い出させてしまったことに 罪悪感を覚えたのだ
優里とは 俺のおばあちゃんだった人
小さい頃に亡くなってしまったから もう顔も朧げにしか覚えてない
それでも 優しい人だったと記憶している
そんな人のことを いま言う必要なんてない
秋斗
じいちゃん
秋斗
じいちゃん
秋斗
じいちゃん
秋斗
秋斗
じいちゃん
秋斗
じいちゃん
それだけ言うと じいちゃんはさっさと行ってしまう
秋斗
止めるために 俺も庭へと駆け出した
庭に着くと じいちゃんが一人、空を見上げていた
どこにも墓石なんてない
秋斗
秋斗
秋斗
じいちゃん
秋斗
じいちゃん
じいちゃん
じいちゃん
秋斗
じいちゃん
じいちゃん
じいちゃん
じいちゃんはうんと伸びをした
そして 空をまた仰いだ
何が何だかわからず 俺も空を見てみる
そこには
幾万もの星々が信号を送っていた
夜明け
秋斗
じいちゃん
秋斗
じいちゃん
じいちゃん
秋斗
顔を上げると 草木が開けていた
そこから じいちゃんの古い家は見える
そうだ、ここが……
じいちゃん
秋斗
初めて あの墓石を確認した
山の中の開けた地点に着いた
じいちゃんはショベルを持ち 辺りの地面を掘り始める
秋斗
じいちゃん
じいちゃん
話している最中 ショベルは ゴツッ という 鈍い音を出した
何かに当たったのだ
秋斗
じいちゃん
せっせと地面を掘り起こす
そして
そこに現れたものは……
秋斗
じいちゃん
じいちゃん
秋斗
そう 人間の白骨死体だった
じいちゃん
秋斗
じいちゃん
秋斗
昨日の夜
俺はすぐに じいちゃんに体験したことを伝えた
墓石が視界から消えるたびに 近づいてくること
見間違えでもなく 本当に山を降りてきていたこと
その恐ろしい体験を伝えると じいちゃんは頷いて
「そこに何かがあるに違いない」
そう断言した
俺がじいちゃん家に着いたとき 初めてあの墓石を発見した
そこで無念に死んだ霊が 俺に何かを伝えようとしたのだと
じいちゃんは推測した
そうと決まれば 日が明けてから山に入る事になり
その問題の地を調べることにしたのだ
正直
俺は日が明けるまで とてもじゃないが、眠ることは出来なかった
秋斗
じいちゃん
じいちゃん
秋斗
じいちゃん
じいちゃん
じいちゃん
秋斗
この開けた地点にくるまでも 俺は幾度もじいちゃんと はぐれそうになった
もし、はぐれていたら 俺もこの骸骨みたいになっていたのかもしれない
鳥肌が立った
秋斗
秋斗
じいちゃん
じいちゃん
じいちゃん
秋斗
じいちゃんと簡単に この白骨の魂を鎮めるためにも 祠を建てた
俺とじいちゃんは手を合わせ 成仏してくれることを願った
俺は開けた地点から じいちゃんの家を望んだ
そこにふと ばあちゃんの幻を見た
あの家から 微笑んでいてくれたような……
そんな気がした
秋斗
じいちゃん
秋斗
秋斗
じいちゃん
「家に帰ろう」
じいちゃんは快活にそう言って 元気に山を降りだした
俺は慌ててその後を追い 最後に後ろを振り返った
"ありがとう"
そんな風に 祠から伝わったような気がした
俺は二度目の幻に
"どういたしまして"
別れの挨拶をした
Happy end