二ツ木
いまだに【北風と太陽】と【白雪姫】の行方は分からず。
九条
まぁ、誰かが持ち主を物理的に殺して回っているみたいだから、本屋に戻ったのでしょう。
九条
あそこは少し特殊で、基本的に絵本の所有者の前に現れることはありませんから。
九条
こうしている今も、新たな持ち主が生まれようとしているのかもしれません。
二ツ木
問題なのは【桃太郎】【金太郎】【人魚姫】【オオカミ少年】【浦島太郎】があちらの手に渡ってしまったこと。
二ツ木
伍代、馬鹿なやつだとは思ってたけど、私が思っていた以上に馬鹿だった。
九条
随分と言うようになりましたね。僕から見れば、実力は伍代とあなたで五分五分だと思いますが?
二ツ木
は?
二ツ木
その気なら、ここでやってもいいけど。
九条
冗談ですよ、冗談。
九条
それに、どうやら内輪揉めをしている場合ではないようですから。
二ツ木
【ストーリーテラー】はなんて言ってるの?
九条
とりあえず、新たな【北風と太陽】と【白雪姫】の持ち主を探しているみたいです。
二ツ木
絵本を持ったばかりの初心者を狩るわけね。
九条
絵本を手に入れるのであれば、それがもっとも簡単で安全ですからね。
二ツ木
いよいよ、私の【赤ずきん】と、九条の【シンデレラ】だけじゃ厳しくなってきたかも。
九条
絵本を用いた勝負は、どうしても手札の多いほうが有利になりますから。
九条
しかも、どうやらあちらさんは徒党を組んでいる模様ですね。
二ツ木
いつ仲間に寝首をかかれるか分からないのに、よく仲良くなんてできるね。
九条
僕達とは感覚が違うのでしょう。
九条
悪い言い方をしてしまえば、甘いんです。
二ツ木
私、基本的に人間は1人だと思ってる。
二ツ木
どんな言葉で飾っても、本心が分かるのは本人だけ。
九条
そうですね。
九条
でも、せめて僕達は内輪で揉めたりしないように努力しましょう。
二ツ木
うん。
時を見計らっていたかのごとく、二ツ木のスマホにメールが入る。
二ツ木
あいつ、どこかで私達のこと見張ってるのかな?
二ツ木
このタイミングで【ストーリーテラー】から連絡が来たんだけど。
九条
僕にも見せて下さいよ。
二ツ木
あちらさんの面子は、一宮、四ツ谷って男と、七星って女みたい。
二ツ木
で、まずは手始めに四ツ谷とかいう男から、絵本を奪えって。
九条
どうします?
僕が行きましょうか?
二ツ木
えー、私も行きたい。
二ツ木
だって、しばらく私の絵本――魂を喰ってないから。
九条
そういうことならお譲りしましょうかね。
九条
僕、美味しいものは最後に取っておくタイプなんです。
二ツ木
それにしても【ストーリーテラー】って、どうやってこういうの調べてるんだろうね。
九条
さぁ、どこの誰なのかさえ明かさない方ですからね。
九条
どうやって情報を収集しているのかは不明ですね。
二ツ木
まぁ、私は絵本に定期的に食事をさせてあげられれば、それで構わないんだけど。
九条
いや、その――絵本は別にお腹を空かせたりしないでしょうよ。
二ツ木
えー、お腹空かせるよ。
二ツ木
それにね、勝負の場じゃなければ絵本に会えないから。
二ツ木
あの子、しばらく私と会えていないから、寂しい思いしていると思う。
二ツ木
結構、可愛いところあるんだよ。
九条
え、絵本が可愛い――ですか。
九条
すいません、ちょっと僕には理解できません。
二ツ木
ふふふふっ……楽しみだねぇ。
二ツ木
お腹いっぱい、食べさせてあげるから。
九条
あの、なぜ鼻唄が、スーパーでよく聞く呼び込み君のやつなのか、僕にも分かるように説明してもらえませんか?
二ツ木は九条に一瞥(いちべつ)をくれると、しかし鼻唄を再開する。
また、新たな脅威が一宮達の前に立ちはだかろうとしていた。