プロローグ
夜空にオリオン座が光るあの時から
私は…
小学生にあがる頃には
これは当たり前になっていた
私の一家は毎年冬休みに
T市のペンションに泊まりに行く
母と
お兄ちゃんと
お姉ちゃんと
私で
ただいま お父さん
私はついそう言う
お母さんが無言で私を抱いてくれた
もう六年生だけど 恥ずかしくはなかった
私が幼稚園の頃
父は 雪崩に巻き込まれて亡くなった
迷子になった私を探しに
幸いにも私はすぐに見つかったけど
私のせいだ…って 思ってしまう
だからここにくると
自責の念に押し潰されてしまう
お花を置いてくると言って
私は父が巻き込まれた場所を訪れた
空に星が浮かぶ時間帯だったけど
お母さんは何も言わなかった
お父さんが雪崩に巻き込まれたのが 夜だったからなのか
それとも私のことなんて どうでもいいのか
わからなかったけど ありがたかった
場所に着くと
涙が溢れて止まらなかった
私のせいで…お父さんは…
いっそここで死んでしまいたい と毎年毎年思ってしまう
夜なんてこないといい
冬なんてくるな
いや,いっそのこと 私自身が…
その時だった
「君…ここのひと?」
突然男の子が話しかけてきた
肌がとても白く
まるで雪のようだ
赤いセーターを着た彼は
私よりも少し年上に見える
違うよ,と答えて 私は彼に名前を尋ねた
司と彼は答えた
作家の父が使っていた ペンネームだった
「君の名前は?」
咲と私は答えた
私の目の前にいる人は誰…?
「あなたは…お父さんなの?」
つい尋ねてしまった
「お父さん…?」
彼は不思議そうに答えた
突然そんなことを言われて 戸惑ったのか
それとも本当に 父なのかはわからないが
妙に懐かしい感じがした
長い沈黙…
一緒に遊ばない?
沈黙に包まれた空気に ひびを入れたのは司くんだった
うんと私は答えて 二人で雪うさぎを作った
目は私が持っていた 桃色のチョコボールを
耳は彼が持っていた 笹の葉を使った
「どうして笹の葉 なんか持ってるの?」
「秘密!」
彼はいたずらっ子のように ほくそ笑んだ
「咲ー!」
お姉ちゃんの声が聞こえてくる
「また明日来てくれるかな?」
司くんはそう言って私の手を握った
とても温かい手だった
うん,と答えて私は姉の方へ急ぐ
「あら,熱でもあるの?」 と聞かれて
私の頬がものすごく熱を帯びて 赤く染まっていることに気づいた
それから私たちは
明くる日も明くる日も
一緒に遊んだ
雪だるまを作ったり
雪合戦もした
これが恋だと気がつくのに
たいして時間はかからなかった
でも本当にいいんだろうか
もしかしたら彼は父で
父は私のことを恨んでいて
私に復讐するために 近づいているのかもしれない
私は悪い子だから…
何日か経って 帰る日はもう前日にまで迫っていた
「明日帰らなきゃいけないんだ」
オリオン座が夜空に浮かぶ中 私はそう言った
オリオン座は父が大好きな星だ
そうなんだと残念そうに彼は答える
昼間,兄や姉と遊んでも 全く面白くなかった
ずっと彼のことを考えてしまう
これって… やっぱり恋なんだ…
「咲と会えて嬉しかったよ」
最初は司くん,咲ちゃん と言い合っていたのに
今ではすっかり呼び捨てだ
「私…司のこと…好き…かな…」
自分でもわかるほど すごい小さな声だったと思う
でもいい
返事をくれ と言おうとした時だった
「俺も」
彼は少し照れた様子でそう言った
その時だった
私の腹部に激痛がはしった
ごめんねと彼が言う
全く感情のない声だ
ああ…
そうなんだ
この人
今日のテレビで言ってた
連続殺人犯なんだ…
その時だった
急に地面が揺れ始めた
一瞬地震かと思ったが違った
雪崩だった
雪崩が目前まで迫ったところで
私の意識は消えた
あれからもう10年が経つ
私が目を覚ました時には
病院のベッドの中だった
警察からいろんなことを聞かれた
しかし
司という人間は この辺りにおらず
連続殺人犯は自宅で 自殺していたそうだ
一体どういうことなんだろう
あれからペンションに 行くことはなくなった
しかし20を過ぎ 病弱の母から
お父さんに報告に行ったら? と言われた
それもそうだったし それを口実に 行かせてもらうことにした
なぜなら
私に新たな命が生まれたからだ
真冬の夜
オリオン座が光り輝く時じゃないと
父は来てくれないと思い
母の愚痴を無視してやってきた
「お父さん」
つい口に出してしまう
あの時無事に帰れたのは お父さんのおかげなの…?
その時
風が吹いて
雪が私の周りを舞った
うんと言うことだろうか
私にはわからない
ただの風なのかもしれない
でも…
お父さんだよね… きっと…
エピローグ
咲は大きくなって
立派な赤ちゃんを産みました
まだ… 気づいていないみたいですけどね
私が司さん… いや
良彦さんを殺してしまったって事を
真冬の夜に
良彦さんは温かい手で私の冷たい手を包み込んでくれましたね
愛ってこんなことなんだと 感じました
でも…
偽りの愛でしたね
私は浮気をしていました
それで咲が生まれました
それに気づいたあなたは 私を尋問するために
プロポーズを受けた 場所と時間帯に呼び出してくれました
でも私はあなたを
殺してしまいました
偶然,咲に見られてしまいましたが
雪崩が起こったので
そこにあなたを置いて 咲と一緒に逃げました
そして咲が幼いのをいいことに
雪崩だと言って誤魔化していました
そのせいで咲は自分に 責任を感じてしまったみたいです
そうだ
咲は小学六年生の時に 司と名乗る人に襲われた と言っています
あれってあなたですよね?
復讐をするために… 殺そうとしたんですよね?
しかし殺せなかった
あなたは優しいから…
今私は病におかされています
もうすぐ死んでしまうでしょう
だから私が死んでしまった時に
咲は悪くなかったんだ,と 教えてあげるために
今遺書を書いています
白い息を吐いて ふと空を見上げると
オリオン座が こちらをみているようにみえました
コメント
2件
オリオン座が、見守ってくれているのですね…😳 お父さんは実は☆☆☆れていて、犯人はまさかのお母さん…!(と言う解釈でよろしいでしょうか😳?)やられた!と思いました。心情描写も くどく なくて読みやすかったです。参加してくださりありがとうございました❗