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あおいが施設に送られてから、しばらく後。桜が満開になった、4月のある日。

真新しいブレザーのスカートを風に遊ばせて、美紅は1人、校門前で友人を待っていた。

美紅

吉岡さんだけじゃなくて、あおちゃんまでいきなり居なくなっちゃった

美紅

突然2人も転校するなんて、おかしいっしょ

美紅

なにより、あおちゃんが私に何も言わずにどこかへ行くなんて、マジでありえない!

美紅

吉岡さんは、何か親の事情があったんだって分かるけど……さ

美紅

美紅

まさか、なりすましがバレたからって、いじめられると思ってるのかな

美紅

そんな事、皆がする訳ないのに

美紅

むしろ、いじめられるとしたら……

美紅の友人

美紅、お待たせー!

美紅の友人

かーえろ!

美紅

美紅

私の方なのに

美紅の友人

あれ?どしたの?

美紅

ううん!?なんでもない!ごめんごめん!

口ではそう言いつつも、美紅の思考は徐々(じょじょ)に、数ヶ月前へと遡る――

時は遡(さかのぼ)り、あおいがなりすましをしていた頃。

――望岡きなこのなりすまし被害の表明に合わせて、自らもなりすましをされたとウソを着いた、その日の事である。

美紅は誰もいない空き教室の中、ある人物と向かい合っていた。

美紅

……吉岡さん

美紅

話って、何?

黄実花

立花さんの事よ

黄実花

あの子、自分こそが望岡きなこだって、吹聴(ふいちょう)して回ってるでしょ

美紅

吹聴、かあ

美紅

吉岡さんの方から見れば、そう映るかもね

美紅

てか、その言い方だとさ、まるで吉岡さんが望岡きなこみたい

美紅

美紅

……え?まさか、本当に?

黄実花

まさか?

美紅

あ、いや、こっちの話

美紅

それよりも本題に入ろ?

黄実花

そうね、あの子に見つかったら……色々問題だわ

黄実花

黄実花

話したいことっていうのは、貴方の想像に近いわね

黄実花

立花さん、望岡きなこの……私のなりすましをしているの

黄実花

貴方がさっき言った『まさか』の後って、『吉岡黄実花が望岡きなこだったなんて』って続いたんじゃないかしら

美紅

おー、ご明察!探偵みたい!

美紅

美紅

でも、本当にそうなの?

黄実花

本当よ、私のスマホを改めてもらっても構わないわ

美紅

いや、それはいいよ

美紅

おかしいと思ってたんだよね

美紅

急に絵柄が変わるんだもん、ちょっと前から疑ってたよ

美紅

でもまさか、本当だなんて……

黄実花

ショックを受けているところ悪いのだけれど、本題はここからよ

黄実花

貴方には、立花さんに内緒で、なりすましの証拠集めを手伝って欲しいの

美紅

はっ……はぁ!?

美紅

そんな、そんな事!

黄実花

裏切りだ、って?

美紅は絶句した。 今まさに、そう続けようとしたのだ。それを見透かされたのだから、驚くのも無理はない。

黄実花

そうでしょうね、当然そうなる

黄実花

私は今、貴方のお友達を裏切ることを頼み込んでいるのだから

黄実花

けれど、それは立花さんが真のクリエイターになるには、必要な事なのよ

美紅

……どうしてそう思うの?

黄実花

今の立花さんは、自分を捨てて、望岡きなこになりきっている

黄実花

当然よね?自分を捨てなくては、なりすましなんて出来ないもの

黄実花

でも、彼女個人としては、それっていけないことなの

美紅

……え?どうして?

黄実花

彼女のしていることは、緩やかな自殺よ

黄実花

自分の可能性を潰してまで、誰かの興味の的(まと)に躍り出ようとする

黄実花

そして、誰かの体験を……人生をなぞろうとするの

黄実花

それは果たして、立花さんが、本当になりたかった姿かしら?

黄実花

何より、貴方が応援しているのは誰?

美紅

あ……!

黄実花

貴方は立花さんの味方で、私の味方ではない

黄実花

でも貴方は、他でもない立花さんに騙される形で、私の味方になってしまっている

美紅

それは……!

黄実花

立花さんに利用されている現状を、今の貴方は納得できるの?

黄実花

貴方が応援したいのは、『誰』なの?

美紅はすぐに、あおいだとは答えられなかった。

黄実花が言う事は、決して間違ってはいない。

今のあおい――つまり、『望岡きなこのなりすましをしているあおい』を応援するという事は、間接的に望岡きなこ本人である、黄実花を応援する事になる。

そして何より、あおいの味方でありたいのに、あおい本人に騙(だま)されている。 美紅にとってはあおいに裏切られたも同然、到底許せる話ではない。

美紅

私に、何をさせる気なの

黄実花

貴方にもアカウントを作って欲しいのよ

黄実花

立花さんがアカウントを作ったサイトでね

美紅

なるほど?スパイになれってことね

美紅

確かに私なら、あおちゃんに警戒されないもの

黄実花

いいえ、そうじゃなくて

黄実花

貴方が演じてもらうのは、クラスメイトの1人よ

黄実花

貴方だっていうのを押し出すと、コメント欄でコメントのやり取りをしてくれなくなるかも

美紅

あー、なるほどね?

美紅

私相手なら、あおちゃんはピクスタグラムでやり取りするな

美紅

セラーノベルでわざわざ、話なんてしないだろうし

美紅

だから、クラスの誰だか分かりにくいアカウントを作る……と

黄実花

そう

黄実花

そして、なるべくクラスの子しか分からないような話をして欲しいの

美紅

プライベートな話……あるかなあ

黄実花

なんでもいいのよ、宿題の話とか、昨日の話でも

黄実花

立花さんなら、すぐに食いついてくれるはずよ

黄実花

見たところ、似たような賞賛(しょうさん)コメントばかりで、どこか飽(あ)きているみたいだったし

美紅

まあ、知っている子かもって思ったら、食いついてくるだろうね……

黄実花

だから、お願い

黄実花は手を合わせて、頭を下げた。

黄実花

立花さんを止めるには、もう貴方しかいないの!

美紅

吉岡さん……

黄実花

ごめんなさい、貴方と立花さん、親友同士なんでしょ?

黄実花

なのに、その仲を割くようなことを……

美紅

美紅

いいよ、そんな謝らないで

美紅

まあ、元々は望岡きなこのなりすましをした、あおちゃんが悪いんだし

美紅

協力する

黄実花

ありがとう、竹林さん

美紅

いいっていいって

黄実花

ふふ……なぁんだ

黄実花

こんなに話しやすい人だったのね、竹林さんって

黄実花

もっと早くに、友達になっておけばよかったって思っちゃった

美紅

あはは、私もだよ

美紅

ずっとあおちゃんと一緒だったから、こうして他の子としっかり話すの、なんか新鮮だし

黄実花

……ねえ、竹林さん?

美紅

何?

黄実花

今からでも、遅くないんじゃないかしら

黄実花

お友達になりましょ、私達!

美紅

そうだね!今日からよろしく、吉岡さん!

美紅

美紅

いや、黄実花!

黄実花

黄実花

それなら私も、竹林さんって呼ばないで、美紅ちゃんって呼ぼうかしら?

美紅

もちろん大歓迎だよ!

美紅

美紅

あ、でも1個先に謝らないと

美紅

私達が友達になったって知ったら、きっとあおちゃんは私の事も警戒すると思う

美紅

そうなったら、スパイにはなれない

美紅

だからあおちゃんの期限を損ねないように……ひどい事、いろいろするかも

黄実花

元々、承知の上よ

黄実花

私は貴方の暴言を『演技の都合』として許すし、貴方と私が関与している事を大っぴらにはしない

黄実花

その代わり、貴方も私の計画に協力してね

美紅

当然!

こうして2人は固く握手を交わし、あおいのなりすましを止めるべく、手を取り合ったのである。

こうして美紅は、『クラスメイトの1人』としてアカウントを作り、あおいの行動を監視し始めた。

勿論ただ監視しているだけ、ではない。黄実花が望むように、『クラスでしか知らない話題』もそれとなく出した。

美紅

初手で『ここでもよろしく』って書いといたし

美紅

アイコンも文化祭の時に撮った、クラスの出店の写真にした

美紅

あおちゃんならすぐ、このアカウントがクラスメイトのものだって、分かるはず

美紅

でもこれだけじゃ、証拠としては薄いかな?

黄実花

美紅ちゃん

美紅

あっ、黄実花!

黄実花

どうかしら、首尾(しゅび)は?

美紅

いい感じ!あおちゃん、このアカウントが私だって気付いてない!

黄実花

これだけでも、このなりすましアカウントが私達と同じくクラスの子だって分かるわ

黄実花

流石!すごいわね、美紅ちゃん!

黄実花

でも……これだけじゃ、足りなくなりそうなの

美紅

え、マジ?

黄実花

あまり、褒められたことではないけれど……お願い、聞いてくれる?

美紅

それは内容によるところが大きいけど、話してみてくれる?

黄実花

立花さんのメールアドレス、知っていたら教えて欲しいの

美紅

えっ

美紅

それはさすがにマズくない?

美紅

一体何に使う気?

黄実花

あのアカウントが本当に、立花さんのものだって証明するのに必要なの

黄実花

美紅ちゃんが今してもらってる事も確かに、証拠としては使える

美紅

だったらさ!

黄実花

でも、やろうと思えば言い逃れができちゃうのよ

黄実花

あれを見て、他の人が分かることは、『なりすまし犯が、このコメント欄にいるユーザーと同じクラスにいる』って事だけ

黄実花

今立花さんの周りにいる子と、口裏を合わされたら……

美紅

私が作った証拠が、意味なくなっちゃうって事?

黄実花

だから、このなりすましが本当に、立花さんが作ったアカウントなんだって証拠が必要なのよ

黄実花

美紅ちゃんなら、分かるでしょ?そして想像つかない?

黄実花

私の出した証拠を『論破』した立花さんが、次に何をするか

美紅

……うん、本格的に黄実花をクラスから排除(はいじょ)しに行くだろうね

美紅

あおちゃん、キッパリはっきりした性格してるからさ……やるだろうなって思っちゃう

美紅

念の為聞くけど、本当に親友同士よね?貴方達

美紅

そうだよ?私達、お互いの事大好きだし

美紅

でも、あおちゃんの『自分の仲間にならないなら排除する』癖(くせ)は、好きじゃないかな

美紅

それはいいんだよ

美紅

美紅

とりあえず、これでどう?

黄実花

あら、こんなあっさり教えてくれるの?

美紅

くれぐれも、変なサイトとかに登録しないでよ!?

黄実花

そんな事しないに決まってるでしょ!

黄実花

私はなりすましを止めさせたいだけ

黄実花

別に立花さんの筆を折りたい訳じゃないわ

黄実花

黄実花

まあ、なりすましの事実を突き付けられて、立花さん自信がどう動くかは、知らないけど

美紅

それは……分かってる

黄実花

これで証拠は十分

黄実花

後は、立花さんの出方を待つだけね

ズキズキと痛み出す腹を軽く押さえて、美紅は静かに頷(うなず)いた。

そして、今に至る。

あおいは黄実花の後を追うように転校し、その後どうなったかが分からなくなった。

黄実花の時のようなお別れ会もなく、ただ転校したという事実だけ、山口先生から告げられたのだ。

美紅

あおちゃん、本当にどうなっちゃったんだろう

美紅

皆は全然気にもしてなかったけど、私は心配だな……

美紅の友人

おーい美紅、どうかしたー?

美紅の友人

今日はなんか、考え事多めだね

美紅

うん、まあ、ちょっとね

美紅の友人

考えすぎも身体に毒だよ?

美紅

それはわかるんだけど、でも……

美紅の友人

また中学時代の友達の事?

美紅の友人

そんなに気になるなら、連絡とってみたら?

美紅の友人

それかもう、家に行っちゃうか!

美紅

家、かあ

???

ひまり……!

美紅の友人

……あ

美紅

ひまちゃん、この子知り合い?

美紅の友人

美紅の友人

いや?知らない子

美紅

いやいやいや!そんな訳なくない?

美紅

今この子、思いっきり名前呼んだけど?

美紅の友人

あ〜っもう、事情は後で話すから!

美紅の友人

とっとと行くよ!

???

ひま……

美紅の友人

話しかけないでよ、この泥棒!

美紅の友人

私まで犯罪者だと思われるじゃん!

美紅の友人

誰かの絵をパクって平然としてる奴なんて、友達でもなんでもない!

美紅の友人

金輪際!私を見かけても話しかけてこないで!

美紅

ありゃりゃ、もう全部言ったねえ

美紅

そりゃあ縁切って正解だよ

その言葉を紡いだ瞬間、美紅の心の中のモヤが晴れた気がした。

そうじゃん。この子みたいに、人のものを勝手に使って、いつも通りでいる方がおかしいじゃん。

何より、泥棒は犯罪だし。 あおちゃんはもしかしたら、どこかで罪を償っているのかも。

それはあまりにも自分勝手な解釈(かいしゃく)だが、美紅はそうだと疑わない。

いや、疑えないのだ。 自分が昔から仲良くしていた子が、盗みを働いても平気な、救いようのない精神の持ち主だと思いたくないのだ。

美紅の友人

ごめん、あいつ……無断転載して、問題起こしててさ

美紅

そっか……

美紅の友人

いくら友達でも、悪い事してるのに何事もないですって顔してるの、ほんと無理!

美紅の友人

ほんっとごめん!もうこのルートで帰るの止めるから!

美紅

よかった、あおちゃんがそんな子じゃなくて……

美紅の友人

美紅?

美紅

あっ!ごめん、なんでもない!

美紅

あんな子が出るなら、明日からの帰り道はちょっと考えないとね……って思ってさ

美紅の友人

嫌なもの見せて、本当にごめんね……

美紅

いいよ、気にしないで!

美紅

むしろなんか気分いいし!

美紅の友人

お、おお?美紅が大丈夫なら、良いんだけど……

美紅の友人

じゃ、美紅が回復したところで、改めて考えますか!

美紅の友人

再来週の予定!クライムロックのイベントだよ!!

美紅

楽しみ!何時集合にするよ!?

美紅の友人

あれ、何時開場だっけ?ちょっと待ってて

友人がスマートフォンのブラウザとにらめっこをしている間、美紅はふと思い立って、あおいとのチャットへと視線を向けた。

美紅

既読は……付いてる

美紅

良かった、見てはいるんだ

美紅

美紅

あおちゃん、私は味方でい続けるから

美紅

ちゃんと罪を償った、その後で

美紅

また一緒にいようね

美紅

だから今は……

またね、あおちゃん

―[番外 完]―

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