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テラーノベル(Teller Novel)

タクさん

ご主人

タクさん

熱カン一本と…さきイカの天ぷら一皿ちょうだい

店主

タクさん、ずいぶんご無沙汰ちゃいます?

店主

喪服ということは…どなたさんかご不幸に?

タクさん

四十九日の帰りですわぁ

タクさん

人生いろいろありますなぁ、今日はつくづく考えさせられましたわぁ

店主

そらぁ生きてましたら、いろいろありますがな

タクさん

死んでもいろいろあります

店主

ほんまですわ笑

店主

死んだといえば、横田の婆さんの話聞きはった?

タクさん

イケズなうえにドケチで評判の?

店主

この間、とうとう亡くなりましてな

店主

あんましイケズしはったら、あきまへんわ。葬式だーれもこうへんのやと

タクさん

そらぁまた、香典も集まりまへんな

店主

それでね、この間の台風ありましたでしょ

タクさん

うちはあれで瓦が飛びましてなぁ

店主

うちもやられました⤵

店主

で、空き家になった婆さんちが水に浸かりましてね

タクさん

あっこらへんは窪地やから被害が大きかったんちゃいます?

店主

近所の用水路があふれましてな、ガレージと一階が浸かりはったらしいんですわ

店主

水がひいたころに、長男の嫁さんが様子を見に行ったら

店主

そしたらタクさん、なんとね

店主

ガレージに聖徳太子がぷかりぷかり浮いていたんですと

タクさん

はぁ!?

タクさん

聖徳太子ということは

タクさん

旧一万円札?

店主

そうです。ケチケチ貯めたお金がなんと一億円!

タクさん

はぁ一億円ってそないぎょうさん──

タクさん

それ、宝くじですやん

タクさん

それで?

店主

さぁさぁそれからが大変や

店主

息子が三人おりますやろ。それぞれに嫁さん。
長男におめかけさんが一人

店主

兄弟三等分で落ち着くかとおもいきや、長男の嫁と、めかけでもめましてな

店主

そこに、じい様の隠し子が二人ほど名乗り出てきたんやと

タクさん

知らん身内が現れる。ようよう聞く話ですなぁ

店主

そんなこんなで横田家、たいした家柄でもないのに泥沼の裁判沙汰ですわ

タクさん

さすがドケチなだけありますな──

タクさん

そないに貯めてもね、あの世に持っていけまへんのに…

タクさん

金はあったらあったでもめる。無くとももめる

タクさん

借金はもっともめる

店主

ほんまにね──
金ほど厄介な代物はないですわ

タクさん

熱カンもう一本とタコわさ一皿もらえまっか

店主

ところでタクさん

店主

四十九日ってどなたさんが亡くなりはった?

タクさん

私です

店主

はぁ?

店主

私って、オタク生きてますがな

タクさん

今はね

店主

と言うと?

タクさん

ひょんなことから、マンホールに落ちましてな

店主

そら痛かった

タクさん

痛いどころか、
死にましたんや

店主

えっ

店主

死んだ?

店主

・・・

店主

またまた年寄りからかったらバチ当たりまっせ

タクさん

からかってませんって

タクさん

ほんまの話ですわ

店主

ほんなら三途の川は?

タクさん

もちろんありましたがな

店主

向こう岸に亡くなったお父ちゃんなんかいはりました?

タクさん

それがね三途の川を渡ろうとしたら

タクさん

顔に何か冷たいものがペッタリ張り付きましてね

タクさん

引き剥がそうとしても吸盤がくっついて離れまへんのや

タクさん

思いきり引き剥がしたら

タクさん

勢い余って三途の川に落ちましてね

店主

はぁ

店主

それで?

タクさん

気いついたら

タクさん

自分、冬眠中のヤモリになってました

店主

ぷっ

店主

ハハハハハハ

店主

そんなアホなイモリやなんて

タクさん

い、イモリちゃいます!

タクさん

ヤモリでっせ!

店主

そ、そないにむきにならんでも
(((*≧艸≦)ププッ

タクさん

ご主人ちゃいます

タクさん

イモリは両生類

タクさん

ヤモリは爬虫類

タクさん

生物学的に両者はまったくの別物ですわ

店主

わ、わかりました……

店主

あああ━ッ!

店主

それ、今流行りの転生や!!

店主

それでタクさん、ヤモリになってどないしはった?

タクさん

それがね、どうやら夏の猛暑と台風のせいなんでしょうかね

タクさん

冬眠するには餌が足りひんかったみたいで

タクさん

どうにもこうにも腹が減って、目を覚ましたんですわ

店主

ほんならタクさんは、腹をすかせたヤモリに転生?

タクさん

まあ…いえば…飢え死に寸前のヤモリです

タクさん

私もね、せっかくもらったチャンスですからね

タクさん

腹が減ったくらいでは死ねまへんわ

タクさん

軒下から這いだして、窓にひっつきました

タクさん

そしたら、そこが我が家の窓でね──

店主

そないな偶然もあるんですなぁ

タクさん

なんや我が家だと思うとね……うっッ……

タクさん

子供らが見えましてね…父ちゃんはここやーって合図送ったんですわ

タクさん

なんせ、向こう側からは、私の腹しか見えへんでしょう

タクさん

せやからね……

タクさん

気づくどころか
ゲームに夢中でね

店主

なんや、タクさん泣きますかいな

店主

ひゃひゃひゃっ

店主

ほれ、ハンカチ

タクさん

すんません…

店主

で、あんたの本当の体はどないなりました?

タクさん

実は、うちの嫁も横田の婆さんに敗けへんほどの筋金入りのドケチでしてね

タクさん

おそらく、病院に出入りしとる葬儀屋を断りよったんです

タクさん

遺体になった私をせんべい布団にくるんで、弟と一緒に家まで運びよったんですわ

店主

死体を布団にくるんで
自分で運んだ!

店主

そらたしかに節約や笑

タクさん

笑ってる場合ちゃいます

タクさん

遺体の私を床の間に寝かせたまま片っ端から、葬儀屋に電話して、見積出させたんですわ

店主

嫁さんずいぶん気丈なお人や

タクさん

気丈どころか、悪態つきながらの値切り交渉ですよ

店主

ほんまに?

タクさん

“たいした稼ぎもないからそれなりしか出来ませんよ!”

タクさん

“お父ちゃんがこないに早よう死ぬとわかっとったら、もうちっと高い保険、かけときゃよかったわいな”

タクさん

“ああ~
悔しや~
悔しや~”

タクさん

ずっとこれ

タクさん

惚れた腫れたも三年まで

タクさん

三年たった翌日から、そら喪が明けたようにピシャリとね、鉄のカーテン

タクさん

私を透明人間みたいに扱いしおる

店主

まぁどこの夫婦も似たり寄ったりや

店主

あんたに限ったことではおまへん

店主

で、葬儀屋はどないになりました?

タクさん

若い兄ちゃんが来はりましてね

タクさん

寝てる私の横で嫁と頭つき合わせて、電卓をパチパチって弾きだして

タクさん

こう言ったんですわ

タクさん

お友だち料金って

タクさん

棺桶代30000
車10000
火葬料13000
骨壺10000
その他もろもろ入れて
86400円でどうですかと

店主

なら葬儀なしで火葬場に直納?

タクさん

葬儀は後日、四十九日と納骨もろもろ一緒にするんですと

タクさん

坊さんのお布施もケチるらしいんですわ

店主

嫁さんたいしたもんや

タクさん

結婚式はごっつい豪華絢爛でした

タクさん

やのに私の葬儀ときたら……

店主

で、ヤモリになったタクさんは?

タクさん

嫁の行動の一部始終を目撃しましてね

タクさん

生きる気力もなくなりましてな

タクさん

せめて、自分で自分を弔うため家に入り込んだんですわ

店主

ほほ

店主

それで

タクさん

棺桶に入りましてなぁ

タクさん

自分の顔にひっつきました

タクさん

自分がね愛しゅうて愛しゅうて

タクさん

そしたらね、ようよう見たら

タクさん

皮膚いっぱいに顔ダニがついているじゃないですか

タクさん

腹が減っていましたからね、夢中になって食しましてん──

タクさん

そのうち腹一杯になったと思うたら、今度は睡魔が襲ってきましてね

店主

それで?

タクさん

棺桶の中で自分の顔に張りついたまま寝てしまいましたのや

店主

そらまたけったいな話や

タクさん

もともとヤモリは夜行性やないですか

タクさん

夜中に目が覚めましてな

タクさん

自分の顔にペッタリした感覚が──

タクさん

起き上がったら何かにぶち当たりまして

店主

あんた、それ、まさか!

タクさん

はい。そのまさかです

タクさん

本来の元の自分に転生返りしたんです

タクさん

薄い薄いペラペラの死装束や、だから寒くて寒くて

タクさん

棺桶から飛び出しましてこたつに潜りこみました

店主

嫁さんも子供さんも父ちゃん生き返ったから驚きはったやろ?

タクさん

いやいやそれがね……

タクさん

こたつにすっぽり包まれていたんで、私に気づかず火葬場に行ってしもうたんです

店主

ほんならカラの棺桶を火葬場に?

タクさん

ちゃいます

タクさん

私だったヤモリが中におりますがな

タクさん

もしかしたら生きてるかもしれまへん

タクさん

慌てて家を飛び出しましてね

タクさん

着物をたくしあげて、激走ですわ

店主

死装束で町を走るって

店主

まるで八つ墓村

タクさん

ちょうど客待ちのタクシーがおりましてな

タクさん

飛び乗ったら、運転手が車外に飛び出して腰抜かしましてね

店主

そら、しゃあない。頭に三角頭巾まいた八つ墓村が乗ってみなさいよ

店主

きっとその運転手、自分殺されると思いはったでしょうな

タクさん

で、あらゆる事情説明しましてね

タクさん

なんとか車、動かしてもろうたんです

店主

間に合いはった?

タクさん

いいえ……火葬場に着いたときには時すでに遅し

タクさん

こんがり焼き上がって出てきたところに到着したんですわ

店主

今度こそお亡くなりになったわけや

タクさん

私は夢中になって灰の中から遺灰を探しましてね

タクさん

嫁は引っくり返る

タクさん

子供らは腹かかえて笑いよる

タクさん

火葬場の職員はわめいていて

タクさん

そら、てんやわんやで

店主

それで

タクさん

私だったヤモリは見事に焼きつくされてましてね、探せませんでした

タクさん

しかたなしに

タクさん

骨壺にそれらしき灰を納めまして

タクさん

それで

タクさん

今日我が家の先祖代々の墓に埋葬してきたんです

店主

ほんなら今日は

店主

あんたの納骨じゃなしに

店主

ヤモリの───

タクさん

いやいやご主人

タクさん

どっちらも自分ですがな

この作品はいかがでしたか?

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コメント

10

ユーザー
ユーザー

Hotaruさん ありがとうございます‼ そうなんです。言葉として関西は弁は味がありますよね。

ユーザー

めっちゃ面白い!www 関西弁だと、リズムがあって読みやすいです!

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