自分
体調をくずしやすいという説明に、風奈ははっと口をつぐんだ。
風奈
(あたしの勝手にしていいわけじゃないんだ……)
自分
風奈は自分の気持ちをおさえて、
風奈
うん
自分
と小さくうなずいた。
自分
結局、その日風奈がしたのは、お母さんが用意したエサをエサ箱にそっと入れることと、呼びやすい名前を考えて「ルル」と名づけたことだった。
自分
翌朝、風奈がケージをのぞくと、ルルはケージのすみの方でじっとしていた。エサも減っていないように見える。
風奈
ねえ、お母さん。ルル、ご飯食べてないみたい
自分
お母さんはエサ箱を見て、お店にメールを出した。しばらくして、返事が届く。
自分
お母さんと風奈はルルの様子を観察して、返事を送った。
自分
風奈は
風奈
そっかあ
自分
とうなづいた
風奈
(あたしも小学校に入学したばかりのころは緊張したなあ。まわりは知らない子ばっかりだったし……)
自分
そこで、ふとひらめく。
風奈
小鳥は群れでいるから、そばに小鳥がいると安心するって、お店の人が言ってたよね。だったら、小鳥の声を聞かせてあげればいいんじゃない?
自分
風奈はお母さんのスマホを借りて、動画を検索した。インコがさえずる動画を見つけて、音量をあげる。
動画の小鳥
チュチュチュチュッ、チチチチッ、ジュジュッ
自分
さえずりが聞こえたとたん、ケージのすみにいたルルがひょこっと首をのばした。顔をかたむけるようにして、耳をすましているようだ。
風奈
そう。ルル、小鳥の声だよ
自分
しばらくして、ルルはそろそろとエサ箱に近づき、エサを食べはじめた。
風奈
わ、食べた。よかったあー
自分
風奈はほっと胸をなでおろした。
風奈
これからは、あたしたちが仲間になるから安心してね
自分
そうして風奈がケージの外から声をかけ続けて1週間ほどたったころ、お母さんが言った。
風奈のお母さん
ルル、だいぶうちになれたみたいね。そろそろ、手のりの練習をはじめてみようか
風奈
練習ってどうやるの?
自分
風奈の質問にお母さんはお店の人に教わったという方法を教えてくれた。
風奈のお母さん
最初のうちは、これを使うの!
自分
お母さんが出したのは、おやつ用のあわ穂。これをケージの外から差し入れて、ルルが寄ってくるのを待つという。さっそく風奈があわ穂を差し入れると、ルルはびくっと後ずさった。
風奈
大丈夫、こわくないよ
自分
しばらくそのまま待ってみたが、近づいてくる様子はない。
自分
風奈ははあーとため息をつき、お母さんは肩をすくめた。
風奈のお母さん
ルルはこわがりさんなんだよ。ゆっくり、ならしていくしかないね
風奈
ルルー、あたしたちは優しい人なんだよ。仲よくしてよー
自分
次の日も、その次の日も、風奈はそうっと、あわ穂をケージの外から差し入れてみた。
自分
そうして1週間がたったころ、ルルがあわ穂に近づいてきた。
風奈
そうそう、おいしいよ。食べてごらん
自分
風奈のかける言葉に応じるように、プチッと、あわ穂をついばむ。
自分
おいしかったとみえて、続けてプチプチ音を立ててついばみはじめた。
風奈
やった
自分
風奈がふり返ると、お母さんがうん、とうなずいた。
風奈のお母さん
次は、あわ穂を手にのせて、ケージの入り口にそっと入れてごらん
自分
風奈が言われたとおりにすると、ルルはちょっと警戒するように立ちすくんだが、すぐに顔を近づけてあわ穂をついばんだ。
風奈
(もう一歩、近づけた!)