丸い泡がぶくぶくと上へ上っていく。
揺れ出す視界に映るのはそれだけ。
でも何故か"苦しい"とは思わない。
藻掻く事無くただ沈んで行く。
もう光なんて見えない。
その時にはもう意識なんて無く 真っ暗な場所にただ独り残された感覚。
悲しいとも辛いとも思わない 何も考えなくて良い"楽園"に来た感覚。
ずっとここに居たいって思った。
少し走った。
でも何も無い。
無音で暗い、少し怖いな。
そこで俺の記憶が蘇ってきた。
殴られ蹴られ、
終いには溺れ死ぬ、
俺の一生。
でも何でかな。
俺の事を殴って蹴ってきた人の
顔が思い出せない。
そんな不思議な感覚に陥ってる時、
小さな光が俺を呑み込んだ。
次は寝てる感覚。
腕に何か貼られて、
機械音の様な音も聞こえる。
ピッピッピ、と規則正しく鳴る音。
それしか耳に入って来ない。
少し経つと、
がらがら、とドアの開いた音がした。
俺にはうるさく聞こえる。
だから頭の中で顔をしかめた。
少し無音の時間が経った。
俺が眼を開けないからだろうか。
『早く目を覚まして。』
そんな言葉があちらこちらから 聞こえる。
その時、手をぎゅっと 握られた様な気がした。
その反動で指が動く。
俺はゆっくりと眼を開けた。
眩しい光が眼を刺激する。
「ん、」と声を漏らしながら 顔をしかめる。
その瞬間、周りが ざわついたのが分かった。
『ナースコール』
この一言で理解する。
俺は生きてる。
病院に居る。
俺にとっては最悪だった。
死ぬ為に溺れたのに。
俺の努力は無駄だったんだ。
でも "助けてくれた" それが嬉しくて。
矛盾してる思いを 払い除けて辺りを見渡す。
見た事ある様な無いような顔。
聞いた事ある様な無いような声。
気持ち悪いむずむずした感覚。
どっと疲れが背中にのしかかって 来た様な気がした。
紫、青、黄、桃、橙、
色とりどりな髪色が印象付けられた。
みんな泣いてる。
泣きながら口を開く。
『良かった。』
って、
『安心した。』
って。
良い人なんだろうけど何故か苛立った。
頭の何処かでこの人達を 否定してる自分が居る。
そんな自分にも苛立った。
だから俺は
海へ走った。
コメント
8件
最高じゃん
リープすか