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翌朝。 教室に入り自分の席に座ると、予習をしていた二葉が声をかけてきたが、
二葉桐男
俺の顔を一目見るなり、怪訝な表情を浮かべた。
一條恭平
二葉桐男
一條恭平
二葉桐男
一條恭平
二葉桐男
二葉は予習の手を止めて、こちらに身を乗り出す。
シャーペンを机に置き、代わりにボールペンを手に取ったものの、『……っと、ごめん、新聞部時代の癖が』とすぐに置いた。
一條恭平
内心で軽くディスりつつ、俺は昨日の出来事を二葉に話す。
二葉桐男
一條恭平
二葉桐男
二葉桐男
二葉桐男
一條恭平
二葉桐男
二葉が言いづらそうに口ごもる。
おおよそ彼の頭にも浮かんでいるであろう疑問を、俺は自分から口にした。
一條恭平
一條恭平
二葉桐男
長い沈黙の末に、二葉はゆっくりと頷いた。
二葉桐男
二葉桐男
二葉桐男
二葉桐男
二葉桐男
二葉桐男
一條恭平
脳裏に焼き付いた、あの恐ろしげな姿を思い返す。つまり今の奴は、あの上級生たちを品定めしている段階ということなのだろう。
にわかには信じがたい話だ。しかし、あの三国とかいう女子生徒も、俺と同じ男を見て……いや、『視て』いたことは間違いない。
一條恭平
昼休みになり、俺は二葉と一緒に足早に教室を出る。
向かう先は明学の第二図書館。昨夜の女子生徒が去り際に告げた場所だ。
一條恭平
二葉桐男
一條恭平
昼飯のケバブ(←学校の敷地にキッチンカーがたくさん来てる)を無理やり飲み込んでから、俺は改めて口を開く。
一條恭平
二葉桐男
俺は案内する二葉の横を歩きながら、オリエンテーションで渡された図書館のパンフレットを開く。
明学の敷地内にある図書館は、様々な本を総合的に取り扱う第一図書館、文系科目の参考書籍や歴史資料などを取り扱う第二図書館、理系科目の参考書籍や図鑑などを取り扱う第三図書館の3つだ。
中でも第二図書館は、この地域一帯の歴史を取り扱う郷土資料館としての側面もあり、地域住民たちに一般開放されている。
民俗学的価値……?とか言うやつが高い史料もあるらしく、一般客も含めればダントツで訪れる人が多い。
まあ、どちらにせよどの図書館も俺には縁がなさそうだが。
ふと、二葉が携帯を取り出し、画面をまじまじと眺める。
二葉桐男
一條恭平
二葉桐男
一條恭平
思いもよらなかった返事に、俺は素っ頓狂な声が出る。
大病や事故でもしない限り、この大事な時期に一度も教室に来ないなんて、普通は考えられない。
二葉桐男
二葉桐男
一條恭平
昨夕見たあの女子生徒は、まさか……。
二葉とともに第二図書館にたどり着いた俺が、妙な胸騒ぎを抱えながら、自動ドアを通った、その時だった。
『いいから寄越せっつってんでしょうがああああ!!』
一條恭平
二葉桐男
俺と二葉は、ほとんど同時に叫ぶ。耳をつんざくような怒号が、カウンターの方から鼓膜を殴ってきたのだ。
怒号の主はすぐに分かった。カウンターから大きく身を乗り出し、慌てふためく司書たちに詰め寄っているのは──
三国綾乃
司書
司書
三国綾乃
一條恭平
二葉桐男
その辺のゴミでも見るような目つきを向ける二葉。
当然、あのカウンターで騒ぎ立てる彼女こそ、俺が昨夕会った謎の女だとは気づいていない。
胸騒ぎと共に、少しだけ抱いていた彼女へのミステリアスな魅力が、まあ〜綺麗さっぱりと分解消滅した。
一條恭平
二葉桐男
止める二葉をよそに、俺は仕方なくカウンターへと向かう。
本当は無関係を装いたいが、彼女に会いに来た以上話しかけない訳にはいかない。
青筋を立てて司書たちに詰め寄っていた彼女……三国綾乃は、俺に気付くなり、顔をぱあっと明るくさせる。
三国綾乃
一條恭平
意味不明な申し出を秒で拒否る。
一條恭平
三国綾乃
司書
三国綾乃
司書
三国綾乃
一條恭平
昨日の妖しい雰囲気はどこへ行ったのか、迷惑そうな表情を隠さない司書達に、三国はぐだぐだと食い下がる。
館内の人達の目線が厳しくなっていく中、俺は仕方なく、自分の学生証を取り出す。
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
二葉桐男
一條恭平
三国綾乃
呆れながら話し合う俺と二葉をよそに、三国は手持ちの資料と俺が借りてきた古新聞の記事を、食い入るように見比べている。
新聞を借りた後、司書たちに図書館から追い出された俺たちは、中庭のベンチで彼女の気が済むのを待ち続けていた。
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
ようやく我に返ったようで、三国は資料からふっと顔を上げて、軽くほほえむ。
その儚くも妖しげな美貌は、昨日の夕方、校舎裏でみたあの顔に間違いない。ついさっきまで、これでもかとばかりに歪ませて怒鳴り散らしていたけどな……。
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
なぜかプロフィールを熟知している三国に、二葉は嫌そうな顔を隠そうともせず彼女に向ける。
二葉桐男
三国綾乃
三国はドヤ顔で鼻を鳴らす。美女とはいえこんな変人に目をつけられてしまっては、今の二葉の心境はお察しである。
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
微笑む瞳に、胸の奥がきゅっと冷えた。彼女の笑顔は心臓に悪い。
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
二葉桐男
突拍子もない三国の言葉に、俺はもちろん、二葉も笑い飛ばすことはしない。
三国綾乃
一條恭平
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
三国はそう言いながら、俺達に携帯の画面を差し出した。
今から1年半ほど前の、どこかのニュースサイトの記事だ。内容には少しだけ覚えがある。
東原市内のアパートで、男子高校生が意識不明の状態で倒れているのを、部屋を訪れた友人が発見した。
警察は殺人未遂の疑いで、隣の部屋に住む会社員の男性を逮捕。
容疑者と男子高生が、前日の夜に部屋の前で酷い諍いを起こしているのを複数の住民が目撃している。
警察はトラブルのもつれから男が犯行に及んだと推測。
容疑者は諍いを起こした事は認めているものの、犯行自体は否認している……。
二葉桐男
記事を読み終えた二葉が、少し苦々しい表情を浮かべる。
二葉桐男
二葉桐男
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
補足の情報を告げてから、三国は携帯を懐に戻す。
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国は今度は、傍らに置いていた自分の鞄から、一冊のノートを取り出し、とあるページを広げて俺達に見せてきた。
俺は二葉と共にページを覗き込む。週刊誌の特集記事のコピーが何枚か貼り付けてあった。
今度は数十年以上前の事件の記事のようだ。
『明生高校』という学校の男子生徒が、体育倉庫の裏でトラブルの末に女子生徒を首を絞めて殺害した。
関係者の証言では、2人は恋人の関係だったが、事件の数日前から口喧嘩が絶えなかったという。
その後男子生徒は、女子生徒の遺体をバラバラに解体。その時、巡回に来た用務員『鎌田裕太(かまだゆうた)』に発見される。
男子生徒は口封じのために、鎌田の首の骨を金属バットでへし折って殺害。その後、女子生徒のバラバラ遺体を周辺の地域に埋めた後に逃走した。
遺体の多くは発覚後に警察が掘り起こしたものの、男子生徒の行方は、今もなお不明のままとなっている……。
読むに堪えないような凄惨な事件が、ショッキングな文体で報じられていた。
二葉桐男
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
三国の説明を聞いて、俺は衝撃が走る。
昨日の夕方、俺が目にした異形の男……折れ曲がった首にばかり目を取られていたが、あの男は作業着のようなものを着ていた。
二葉桐男
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
三国の言葉を聞いて、俺はかまくびさんの習性を思い返す。
告げられた名前の人物を無制限に傷つけるのではなく、その人物が罰を受けるに値する悪人かを見極める……。
一概に悪と断じることはできない。恐らく生前も、男子生徒の凶行を止めようとして、返り討ちに遭ったのではないだろうか。
二葉桐男
俺が心の片隅で思っていた疑問を、二葉が口に出してしまう。
二葉桐男
三国綾乃
三国綾乃
二葉桐男
理路整然と反論する三国に、二葉は返す言葉もない。俺も口を挟むことはしなかった。
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国は俺が持っていたノートに手を伸ばし、次のページをめくった。先程の記事の続きのようだ。
拡大コピーされた、明生高校と周辺地域の地図に、バラバラにされた女子生徒の遺体が埋められた場所が、赤丸で示されている。
右腕、左腿、右胸、頭……。赤丸の脇には埋められていた体の部位が付記されていたが、下腹部だけがどこにも見当たらなかった。
記事によると、警察の捜査によって、男子生徒が埋めたと思われる遺体のほとんどは発見できたものの、下腹部だけが見つからなかったらしい。
二葉桐男
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
そこまで言うと三国はすっと立ち上がり、俺と二葉の前に向き直る。
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
俺は少し考え込む。
ここまでの話を聞いて、三国は悪い奴ではないとは分かったが……。
下手をすれば自分が、これまでの事件の被害者たちのような目に遭うかも知れないのだ。
おいそれと手を貸す気にはなれない。俺は二葉に視線を向ける。
一條恭平
二葉桐男
三国綾乃
二葉桐男
俺の声真似で勝手に答える三国に、二葉は冷たいツッコミを浴びせる。
一條恭平
流れるようなボケとツッコミに、俺は思わず失笑してしまう。
心の中で張り詰めていたものがふっと緩み、思考が前向きになる。
一條恭平
一條恭平
三国綾乃
俺が軽く頷くと、三国はにっこりと微笑んだ。一方で二葉はやや不満そうにため息をつく。
二葉桐男
三国綾乃
二葉桐男
一條恭平