三富
(0時まであとわずか。もうアタシの勝ちは決まったわね)
三富
(この勝負、一見してフェアに見えるけど、アタシが保険もなしに勝負をするとでも思ったのかしらね)
三富
(本当、頭の中はお花畑ね)
三富
(顔は好みなんだけど、アタシ馬鹿な男は嫌いなの)
三富
(さようなら、一宮君、四ツ谷君)
三富
(馬鹿に用はないわ)
三富
(このまま七星のお嬢ちゃんから順番がアタシに回る。そうなったら、考えているフリをしながら時間になるのを待てばいいわ)
三富
(一宮君、あなた達はなにも分からないまま負けることになる)
内心で笑みを浮かべつつ、しかし悟られないように七星に声をかける。
三富
さぁ、姫様。
三富
答えを正解に導き出す出すためのヒントをちょうだい。
七星
あまり私をみくびらないほうがいい……。
そこに追い討ちをかけるかのごとく、信じられない一言が飛び出した。
七星
【歳をとる】……だ。
三富
え?
四ツ谷
姐さん?
一宮
人魚姫の物語に、そんな展開はなかったはず……。
なぜならそれこそが、三富が導き出すことになるはずだった答えなのだから。
三富
なんで……。
三富
どうしてそれを答えられるのよぉぉぉぉ!
絵本は具現化されていないが、どこかで自分の絵本に鎖が巻き付き、ロックがかかる音がした。
四ツ谷
な……正解?
四ツ谷
姐さんの人魚姫とは全く無関係なストーリーが?
四ツ谷
いや、そもそもゲーム自体、姐さんがセットしたストーリーを当てるというものだ。
一宮
あぁ、なぜ七星が答えたものが正解になる?
一宮
大体、人魚姫と【歳をとる】は結びつかないだろ?
七星
そもそも、前提が間違っているんだよ。
七星
私がセットしたストーリーを当てる……という前提がな。
七星
思い返して欲しい。
七星
三富はこのゲーム……誰がセットした物語を当てるものだと言っていた?
七星
具体的に私の名前を出したか?
四ツ谷
あ――言ってないんじゃないか?
一宮
彼女のセットしたストーリー……という言い回しをしていたな。
七星
そうなんだ。
七星
三富は【彼女がセットしたストーリーを当てる】という言い回しをしていただけで、私がセットしたストーリーを当てるとは、一言も言っていないんだ。
七星
つまり、当てなければならないストーリーは私の人魚姫ではない。
七星
もうネタはバレているんだ。
七星
出てきたらどうだ?
七星の言葉を受けて、先ほどの覆面3人組のうちの1人が姿を現した。
七星
私をさらった時、覆面の連中は3人いた。
七星
後部座席に私を引きずり込んだ奴らが2人、そして運転手をしていた奴が1人。
七星
このうち、運転手を除く2人は、その声から男性だということが分かっている。
七星
ただ、君だけは声を一言も発していない。
七星
それはなぜか……。
七星
私にバレると不都合だったんじゃないか?
七星
女性であるということを。
????
駄目だ、三富。
????
この人のほうが私達より何枚も上手だわ。
三富
六冥(むめい)、あなたは黙ってなさい!
六冥
三富、だから言ったじゃん。
現実世界で勝負するのは、絶対に不自然になるって。
七星
やはり――な。
一宮
どういう……ことだ?
六冥
あ、私は六冥。
六冥
あなた達と同じ絵本の所有者。
七星
つまり、この勝負は彼女……私ではなく、そこにいる六冥と名乗った者がセットしたストーリーを当てるものだったんだ。
七星
そして、彼女の存在を消すため、あえて異空間に飛ばず、こうして現実世界での勝負を行うことにした。
四ツ谷
あ、そっか……。
あっちに飛ぶと、主従関係にある人間も飛んできてしまうから、彼女の存在がバレるってことか。
四ツ谷
仮に主従関係になくとも、勝負は同じ空間に存在しなければならないから、あっちでやるとすると、必ず彼女の存在はバレてしまう。
一宮
だから、こっちでやったのか。
いくら環境をいじれても、前提まではいじれないだろうからな。
七星
その通り。
七星
あえて覆面3人組で私を拉致したのも、彼女の存在を消すための策略だったんだ。
七星
ああして乱暴に私を拉致すれば、まさか拉致したメンバーの中に女性が混じっているとは思わない。
七星
ましてや、その人物がホルダーだなんて、思いもしないだろう。
七星
その状況で【彼女】という呼び方をすれば、それはこの中で唯一の女性である私だと思わざるを得ない。
一宮
でも実際には、六冥という女性が舞台裏にいて、物語をセットしていたわけか。
四ツ谷
この大音量の音楽は、裏で物語をセットしたりする六冥の声をかき消すためだったってことか。
七星
あぁ、それと現実世界で勝負をしなければならなかった理由がもうひとつ。
七星
どうやら、現実世界だと、絵本が具現化されないようだ。
七星
絵本が具現化されると、公平に勝負をするために、互いの物語が情報として一気に入ってくるだろ?
七星
それに加えて、相手の持っている絵本がなんなのかも明らかになってしまう。
七星
もしかすると、三富がもっとも避けたかったのは、これだったのかもな。
一宮
まぁ、明らかに物語の数がひとつ多くなるからな。
七星
現実世界で勝負をすることで、六冥の存在を隠し、その六冥のセットしたストーリーを当てるというルールにすることで、三富はアドバンテージを得ようとした。
四ツ谷
俺達は絶対に当たりもしないストーリーを当てようとしていたわけね。
七星
あぁ、残念だが人魚姫のどの場面を切り取っても、決して正解にはならない。
七星
なぜなら、セットされたストーリーは人魚姫のものではなかったからだ。
七星
この辺りも、自然に私を勝負に織り交ぜることで、狡猾にやってくれたと思う。
七星
私の立場は、正解となるストーリーをセットし、それぞれが答え終えた後に【正解ではないストーリー】を宣言するという、言わば出題者のようなものだった。
七星
しかし、実際のところ私のセットしたストーリーは無効となっていた。
七星
では私の立場はなんだったのか。
七星
表向きは出題者でありながら、しかし三富の定義の中ではきっと――君達と同じ解答者だったんだ。
七星
だからこそ、私は順番が来たら【外れのストーリーを宣言する】というルールに従って、解答する必要があったんだ。
四ツ谷
なるほど、解答権はあるけど、姐さんは【外れのストーリーを宣言する】という名目で答えなきゃならないから、絶対に正解を導き出すことはない――って算段か。
七星
あぁ、私を参加させる以上、そのような立場に設定しておかねばならなかったんだろうな。
七星
そのシステムを利用させてもらって、私が正答を答えさせてもらったんだよ。
七星
勝負は決した。
ロープを解いてもらえないだろうか?
四ツ谷
あ、あぁ……。
三富
どうして……どうしてよっ!
三富
六冥の存在は完全に隠していた。
三富
それなのに、六冥が所持している絵本がなんなのかさえ知らないあなたが、どうしてピンポイントでストーリーを当てれたの!?
七星
言っただろ?
七星
私をみくびらないほうがいいと。
六冥
三富、この人達――多分、強い。
三富
教えてもらおうじゃないの!
三富
どうして六冥のストーリーをピンポイントで当てることができたのよ?
七星
ヒントになったのは――やたらと三富が時間を気にしていたことなんだ。