四ツ谷
時間?
っていうか、もう0時過ぎてるじゃん。
七星
あぁ、あのまま0時を過ぎてしまっていたら、おそらく私達は負けていただろう。
七星
つまり0時がキーポイントだったんだ。
一宮
だから、俺達を0時までにここに呼びつける必要があったのか。
七星
あぁ、ただあまりにも早く到着されても困るからな。
七星
だから、ギリギリの時間で一宮達を誘い出したんだ。
三富
(この女、まるで全て見てきたかのように……こっちの考えを読みきってる)
三富
(絶対に気づかれないはずだったのに)
三富
(絶対に勝てるはずだったのに!)
七星
策略としては悪くなかったが、少しばかり時計を気にしすぎていたな。
七星
まぁ、勝てる策があったがゆえの余裕だったのかもしれないが、それが仇になった。
七星
とにかく、これらのことから、正解はおそらく時間が関与しているものだと、私は推察した。
三富
(この女、そんな細かいところまで見てたの?)
七星
さて、ここで問題となるのは、果たして対象となる物語――すなわち、六冥さんだったか。彼女の物語がなんなのかということだ。
七星
ここで思い出して欲しい。
七星
三富はセットしたストーリーを踏んだら勝ち……と、言いかけてから、途中で当てたら勝ちという形に言い直した。
七星
それが、どうにも引っかかったんだ。
七星
この言い直しが何を意味していたのか。
七星
考えられる可能性は大きく絞って2つ。
七星
ひとつは、現実的に行動として実現することが不可能なストーリーがセットされていた。
七星
だから、ストーリーを踏むのではなく、当てるというルールにしなければならなかったというもの。
七星
もうひとつの可能性は、三富にだけ実行可能だったが、その他の人間には実行できない行動が、ストーリーとしてセットされていた。
七星
ゆえに、公平性を保つために、ストーリーを当てるというルールせざるを得なかったというもの。
七星
もし、私が三富の立場で、確実に勝ちに行くのであれば、後者を選ぶ。
三富
(どうして……どうしてこっちの考えていたことが分かるの?)
三富
(確実に勝とうとすることの、どこが悪い!)
四ツ谷
まぁ、そうだろうな。
四ツ谷
確実に勝てる手段があるなら、それを使わない手はない。
七星
ここで、六冥さんの物語が果たしてなんだったのかを考えてみる。
七星
まず0時と聞いて真っ先に思いつくのは……。
一宮
シンデレラだ。
一宮
0時になると魔法が解ける。
七星
その通り。
七星
だが、仮にストーリーを【0時を過ぎる】にセットしたとしよう。
七星
これ、三富にしか踏めないと思うか?
一宮
いや、時間は平等に流れるから、俺達も同時にストーリーを踏むことになる。
七星
そう、だからシンデレラは強力なカードにはならない。
七星
そこで、思い出して欲しいんだ。
七星
先日、私が確認できているホルダーが数名いるという話をした時のことを。
四ツ谷
あ、確か近くで確認できてる人間がいるって言ってたな。所持している絵本は白雪姫と……。
七星
浦島太郎だ。
三富
(妙な連中がアタシ達のことを嗅ぎ回っていたことは知ってるし、大方この女の差金であろうことも分かっていた)
三富
(でも、それがなに?)
三富
(だからって六冥のストーリーを看破するのは難しいはずよ)
三富
(仮に六冥の絵本が浦島太郎だって分かってもよ)
七星
時間は私達の間で平等に流れる。
七星
ただ、毎日0時を迎える度に、ある変化が起きる人間が、この世の中には何人も存在している。
七星
今日に限ったことじゃない。
七星
365日、毎日だ。
七星
ただし、その変化が起きるのは、日は違えども1年で一度きり。
七星
つまり、三富は年に一度しか訪れない変化を利用して、この勝負に勝とうとしたんだ。
拘束から解放された七星は、その長い髪に手ぐしを通しつつ呟いた。
七星
誕生日おめでとう、三富。
三富
ど、どぉしてぇぇぇぇぇぇ!
三富
どうして、たったこれだけの情報で、そこまで分かるのよぉぉぉ!
四ツ谷
浦島太郎は最後の場面で玉手箱を開けてしまい、急速に歳をとる。
一宮
なるほど、確かに【歳をとる】をストーリーに設定しておけば、日付が変わった瞬間に誕生日を迎える人間は、自動的にストーリーを踏めるというわけか。
七星
そうだ。
七星
逆に誕生日を迎える人間以外は、ストーリーを踏めないわけだ。
七星
だからこそ、公平性を保つため、ストーリーを当てるというルールにせざるを得なかったというわけなんだよ。
三富
そうよ!
三富
時間にさえなれば、アタシが絶対に勝てるはずだったのに!
三富
アタシだって馬鹿じゃないから、細心の注意を払ったはずよ!
三富
どこが悪かったの!
七星
教えてやろうか。
ふと、見上げた先には、まるで七星を中心とするかのごとく、一宮と四ツ谷の姿があった。
七星
強いて言うなら、相手が悪かったな……。
七星
私達の勝ちだ。
ステージからの逆光が、まるで後光のごとく差し込み、三富はうなだれつつ、思わず目を閉じたのであった。