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百合子
百合子は溜息を漏らした。
航空会社でパイロットの勤務管理を担当するようになって2年。 月末はいつも深夜までの残業だ。
パイロット達の勤務スケジュールが整うまでは家に帰れない。
今月は順調に進んでいると思っていたけど、一昨日台風があった。 スケジュール作成は全部、やり直しだ。
池田
百合子
池田は百合子がスケジュール作成を担当している副操縦士のひとりで、 今年36歳になる。
いよいよ結婚相手を見つけたいそうで百合子はずっとデートに誘われている。
池田
百合子
百合子は心底池田のことが嫌いだった。大体顔面が生理的に受け入れられないし、フライトの技量もない。
百合子はとにかく真面目で一生懸命。パイロットたちがスムーズにフライトできるよう、心を尽くしてきた。
そしてまた百合子は本人はそんな自覚はさらさらなさそうではあったが、 容姿端麗だった。 だから控えめに言っても、彼女はパイロット達のアイドルだったのだ。
だけど、百合子には彼氏はいなかった。 周りの女友達からは、パイロットと付き合えばいいのに、と言われていたが、みんなのアイドルだからなのか、彼女に真剣に向き合って、交際を申し込んでくるパイロットはいなかった。
池田
百合子
池田
池田はLINEIDを百合子のデスクに置いて、恥ずかしそうに去っていった。
百合子
百合子はそのメモをそのまま滑らせてゴミ箱に捨てた。
下条
百合子
険しかった百合子の表情が、柔らかく崩れる。
百合子
下条
機長
下条
下条は百合子にかすかに微笑みを送ると、会議室に消えていった。
下条は先程の池田と同期の副操縦士だ。 だが池田と違って、この会社が始まって以来の最年少で、機長に昇格しようとしている。
機長昇格、は、すべての副操縦士たちの目標だ。そして会社としても、機長資格を持った操縦士が増えると、助かる。そういった意味で、下条が1年かけて挑んでいるこの最年少での機長昇格訓練は、全社的に注目されていた。
百合子
自分もとことん真面目で一生懸命な百合子は、うわついたパイロットたちは好きじゃ無かった。
でも前代未聞の挑戦に、底知れないプレッシャーを抱えながらも挑む下条のことは、尊敬していた。
百合子
百合子はまたパソコンとの睨めっこに戻った。