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見知らぬ本屋と12冊の呪われた絵本

第4話 - バトル１　桃太郎ＶＳ北風と太陽【終】

2024年11月30日

#ミステリー

#心理戦

#デスゲーム

#推理

鬼霧宗作

八橋

……どういうこと？

八橋

私があんたのストーリーを踏んだってこと？

一宮

俺にストーリーを踏ませようとして必死だったみたいだな。

一宮

俺がこの勝負、初めてだってことを利用させてもらって、ストーリーを組ませてもらったよ。

八橋の絵本は鎖にがんじがらめにされており、苦しそうに鎖の塊が右往左往している。

一宮

北風と太陽、この話自体はシンプルだから、仕掛けてくるのであれば、多分【上着を脱ぐ】か【上着を脱がす】――もしくは、【上着を脱ぐことに抗う】のいずれかだと思った。

八橋

(……こいつ、本当に初めて勝負をしたの？)

八橋

(どうして、そこまで冷静に対処できたの？)

八橋

(しかも、こちらのストーリーを的確に見抜いてきた)

八橋

(確かに、北風と太陽はシンプルな話だから、手数が少ないことは私自身分かっていたけど)

一宮

もし、勝負した場がここじゃなかったから、俺は他のストーリーを疑ったかもしれない。

一宮

でも、さも上着を脱いで下さいと言わんばかりの環境にくわえて、追い討ちをかけるように、そっちが誘ってきたことを考慮して、俺はそっちのストーリーを絞り込むことができたんだ。

一宮

ただ、そこから先はなかなか絞り込むことができなかった。

一宮

だから、先に俺のストーリーを踏ませるようにしたのさ。

一宮

何度も言うが、俺はこの勝負が初めてだった。

一宮

そして、そっちはそれを知っていた。

一宮

しかも、開口一番に服従することを俺に勧めてきたんだ。

一宮

その話を聞いた時点で、このストーリーは使えると思ったんだよ。

八橋

まさか……そんな。

ここまでくれば、さすがに八橋にも理解できていた。

すなわち、一宮が仕掛けたストーリーは……。

一宮

桃太郎には３匹のお供がいる。

一宮

そのお供達は【きびだんご】という対価の代わりに、桃太郎に仕えたんだよな？

一宮

言い換えれば、桃太郎に服従したんだ。

一宮

ここまで言えば分かるよな？

一宮

俺は【あんたとの性交渉】を対価として【服従】したんだ。

一宮

お供達がそうだったように、見返りと等価交換で服従をした。

八橋

つまり、そっちのストーリーは【なにかを対価として、相手を服従させる】だったってことね。

八橋

そして、私はまんまとそれに引っかかった。

八橋

最悪だわ。

八橋

ちょっと欲を出した結果、こんなところで終わるなんて。

一宮

桃太郎、いるんだろ？
ちょっと確認したいことがある。

すでに勝負は決しているため、絵本が口を挟んでも問題はない。

妙なところで絵本はフェアだ。

一宮

一応、勝負には勝てたんだが、ここからどうすればいい？

きっと、桃太郎と話しているのだろう。もちろん、八橋に内容は聞こえないが。

一宮

その願いってのは、なんでもいいんだよな？

一宮

分かった。
別に俺は八橋の魂を喰いたいなんて思わないし、願いを対価に捕縛する形にしたい。

一宮

ちなみに、この捕縛ってのに期限みたいなものはあるのか？

どんな話をしているのかは分からないが、一宮の態度からして、どうやら最悪の状況は避けることができるようだ。

一宮

そうか……。

八橋

ねぇ、その前にここから外の世界に戻らない？

八橋

さすがに暑いわ。

八橋

策も裏目に出ちゃったし、こんなところで死ぬのだけは嫌だから。

一宮

北風と太陽が封じられている状態だから、桃太郎が代わりに元の場所に戻すってさ……。

一宮が言うと、辺りが真っ白になった。

一宮

さて、八橋。
色々と聞きたいことがあるんだ。

八橋

……なに？

八橋

どうせ死ぬんだから、答えられることには答えてあげるわよ。

一宮

……なにか勘違いしていないか？

一宮

俺はお前を殺したって一文の得にもならないし、これから一生縛り付けるつもりもない。

一宮

だから、とりあえず魂を桃太郎が喰わないように、願い事をひとつ叶えてもらおう。

八橋

……願い事ね。これのために絵本を欲しがる人間がいるくらいだからね。まぁ、命は何物にも代え難い。好きにしなさいよ。

一宮

俺と共に戦うことを誓ってくれ。それだけでいい。

八橋

はぁ？

八橋

あんた馬鹿なの？

八橋

やろうと思えば、私を一生従えることだってできるのよ？

八橋

私の財産を奪うことだってできるし、それこそ風俗で働かせて、その稼ぎを……。

一宮

あの悪いけど、それ俺の趣味じゃないんだよ。

一宮

それに、桃太郎の話だと、同じような絵本を持っている奴が、世の中にはまだいるんだろう？

一宮

もし、この先も同じような目に遭うとしたら、桃太郎のストーリーだけじゃ、絶対に頭打ちになる。

一宮

それに、実質的に欲望をなんでも叶えることができる上に、絵本は金にもなるんだろ？

八橋

ま、まぁ……そうだけど。

一宮

そんなもん、放っておいたら大変なことになる。

一宮

こうして、たまたま絵本を手に取ったのも、なにかの縁だ。

一宮

絵本のせいで誰かの人生が狂う。それを止めたいと思うの――傲慢かな？

八橋

傲慢。

八橋

凄い傲慢。

八橋

それこそ、吐き気がするわ。

八橋

でも、あんたみたいな馬鹿は初めて。

八橋

その安っぽい正義感がどこまで通用するか、見届けてあげるわ。

八橋

だから、共に戦うことを誓う。

一宮

ありがとう……。

一宮

えっと、これで魂は一時的に捕縛状態になった。

一宮

で、俺の意思で解放もできるんだよな？

八橋

ま、まぁ……できるけど。
桃太郎に聞いたでしょう？

一宮

じゃあ、今この時をもって解放する。

八橋

はぁ？
本当に頭大丈夫なの？

八橋

解放するってことは、私があんたの願いを反故にしても問題なくなるのよ？

一宮

いや、もう願いは叶えてもらっただろう？

一宮

俺と共に戦うって誓ってもらったし。

八橋は大きくため息を漏らした。

八橋

あんたお人好しもいいところじゃない？

八橋

私が簡単に裏切るかもしれない……とか、考えないわけ？

一宮

その時はその時だけど、他人の魂を捕縛したままってのは――なんというか。

八橋

趣味じゃない――でしょ？

一宮

あぁ、そうだ。

八橋

いや、あんた本当に馬鹿だわ。

八橋

馬鹿だけど、嫌いになれない馬鹿って奴？

八橋

案外、あんたみたいな考え方が、この戦いじゃ大事になってくるのかも。

八橋

いいわ、私の興味本位で付き合ってあげる。

一宮

ありがとう。
それじゃ、早速だけど絵本について色々と聞かせて欲しいんだ。

八橋

ここで立ち話というのも味気ないから、どこかお店に入りましょうよ。

八橋

あんたの馬鹿正直さに免じて、奢ってあげるから。

一宮

あんたじゃない、一宮だ。

八橋

分かったわよ。
よろしくね、一宮君。

ふと見知らぬ古本屋で手に取った絵本。

そこから奇妙なことに巻き込まれてしまった一宮。

この後、一宮は思い知らされることになる。

絵本同士はなぜか巡り合わされるようになっている……そんな桃太郎の言葉を。

四ツ谷

……で、桃太郎は北風と太陽を退治しましたとさ。
めでたしめでたし。

七星

彼女、私達が思ったよりも早く動いたな。

七星

こちらがマークしているとも知らずに。

四ツ谷

まぁ、情報は絵本から入ってくるけどな。

四ツ谷

俺達の動きだって、あっちに筒抜けになるもの時間の問題だ。

七星

たまたま絵本を手に取ることになった幸運の男。

七星

馬鹿正直で、人を疑うことを知らない。

四ツ谷

プラス、金にがめつい女のコンビか。

四ツ谷

俺らのほうが良いコンビかもね。

七星

ふん、貴様にそのように言われたくない。

四ツ谷

相変わらず手厳しいねぇ。

四ツ谷

なんにせよ、ちゃっちゃとやっちゃいますかぁ。

四ツ谷

面白くなりそうだなぁ。

一宮達の知らぬところで暗躍する黒い影。

呪いの絵本　残り　10冊

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