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🍬🌧
────白く、何もない空間に声が響く
「異世界」
あなたは、その存在を信じるだろうか。
もし、存在していたら?
その世界がまるで鏡合わせのような世界だったとしたら?
……信じるのなら、気をつけた方がいい。
その世界の住民は何時だって、
「あなた」という存在の椅子を狙っているのだから────。
──まだ、空が薄暗い季節の朝。
「亜矢乃 寧々」は、そのパンにバターを塗りながらテレビを眺めていた。
──「『異世界は存在する?!』現代の噂」
「皆さんは、『異世界』を信じますか?」
「非科学的な事は、ロマンがありますよね」
「何と、異世界が存在する証拠と思われるものが幾つか見つかっているのです」
寧々
寧々
「まず1つ目は──────」
寧々
寧々
半ば強引に残りのパンを口に入れ、
寧々は彼女を呼ぶ声の元へ向かっていった。
声の主が居る部屋に入ると、
少し変わった内装が現れる。
広い部屋の半分には本とベッドなどの生活スペースになっているが、
ガラス扉を隔てたもう半分は、
綺麗に透き通ったガラスの芸術作品で埋められていた。
寧々
その声掛けに、寧々の父である「亜矢乃 秀汰」は口を開く。
寧々の父
寧々
寧々
寧々の父
寧々の父
寧々
寧々
寧々の父
寧々
寧々の父
寧々
私の父さんは、硝子を使って作品を作っている。
芸術作品だけでなく、お皿やコップなど、多くの商品も作成しているので、
知名度は高い方だと思う。
今日はその作品を個人展で展示する準備をするようだ。
寧々
寧々の父
寧々の父
寧々
私の母さん…「亜矢乃 紗夜」はメイク関係の仕事をしている。
つい最近まで専属として遠方まで出張していたらしい。
寧々の父
寧々
こうして、針に糸を通す時のように集中して、
何とか、全ての作品を移動させることができた。
重い物を持ったからだろうか、
ビルの並ぶ大通りを歩く寧々の顔は、心做しか暗く見えた。
寧々
寧々
私がそんなことを考えていると、
柔らかく、それでいて芯のある声で名前を呼ばれた。
寧々
鮎
鮎
鮎
「網玉 鮎」、私の数少ない友達だ。
同じ芸術科に所属する私たちは同じクラスであり、何だかんだ言って仲が良いのだ。
寧々
寧々
鮎
鮎
鮎
寧々
鮎
寧々
鮎
寧々
鮎
そんな話をしていると、バスがやって来る。
私たちが通う、「冬華宮高等学校」行きへのバスだ。
鮎
鮎
寧々
寧々
鮎
鮎
寧々
寧々
鮎
寧々
鮎
鮎は、学校で配られた部活動について書いてあるプリントを見ながらそう言った。
寧々
寧々
鮎
鮎
寧々
私はその時、朝家で見たニュースを思い出した。
寧々
鮎
寧々
鮎
鮎
寧々
寧々
「──次はー、欅二丁目ー、欅二丁目ー」
寧々
鮎
寧々
鮎
鮎
寧々
冬華宮高等学校
鮎
鮎は、大きな校門にある学校名を見てそう言った。
寧々
寧々
綺麗に整えられた草木の並ぶ学校前には、
学科ごとに色の違う制服を着た生徒たちが、昇降口に向かって行っている。
私と鮎は「芸術科」なので、紫色が使われた制服だ。
寧々
鮎
寧々
寧々
鮎
寧々
そんな事を話しながら、芸術科の教室へ向かう。
芸術科 「1-A」
まだ肌寒い春の、新しさを感じる教室だ。
他にチラホラとクラスメイトが居るが、
まだ恥ずかしいのか、一人でいる生徒が多かった。
寧々
寧々
鮎
寧々
鮎
鮎
寧々
寧々
鮎
鮎
寧々
その時、音もしないスライドドアを開けて、担任の先生が入ってきた。
その声で、クラスメイトは行動する必要が無かった。
何故なら、もう大半の生徒は座っていたからである。
鮎
寧々
のんびりと話すこの先生は、「日笠木先生」である。
聞くところによると、教科担当は体育らしい。
寧々
日笠木先生
日笠木先生
SHRが終わってしばらく経った後、
廊下が異様に騒がしくなった。
鮎
寧々
その声の正体を確かめるために、私たちは廊下へ出た。
「─────か…ーっ!!」
寧々
「────入り………っかー!!」
「──入りま……んかーー!!!」
「──入りませんかーーっっ!!!」
寧々
鮎
寧々
教室ごとに、2年生、3年生が部活動勧誘を行っている。
広い廊下の端に位置する1-Aの教室まで聞こえているところを見ると、
運動部だろうか。
その覇気有り余る軍団は私たちの教室にも進軍してきているようで、
私たちは反射的に教室へ身を引っ込めてしまった。
「───失礼しますっ!!!」
怒鳴り声ではなく、何処までも響く声で部長と考えられる人物がピシッと礼をした。
バスケットボール部長
バスケットボール部長
バスケットボール部長
寧々
寧々
女子バスケットボール部も同じような勧誘をしている時、私は一人の生徒に目が止まった。
軍団の中でも、一際目立つ少年だ。
寧々
聞くところによると、この高校は校則は無いに等しいのだが、
1年生だとしたら、ピアスを開けているのは本人に相当度胸があるからだと見えた。
そして軍団が教室から出ていく時に、
その少年と一瞬目が合ったのだ。
寧々
鮎
寧々
鮎
寧々
鮎
鮎
鮎
寧々
鮎
鮎
鮎
寧々
ロングの髪を耳に掛けながら、鮎はスタスタと教室から去っていった。
寧々
寧々
私も遅れて教室を後にした。
廊下に出て、宛もなく歩いていると、
先程の少年を見かける。
寧々
寧々
寧々
思わず、盗み聞きする体制を取ってしまった。
少年と誰かの対話が聞こえてくる。
「先輩」と呼ばれた人物は高身長で、
儚く、それでいて凛とした印象だった。
寧々
寧々
そこで、「先輩」と呼ばれた人物はふと私の方を見る。
寧々
寧々
その声がした次の瞬間、「先輩」はまるで肉食獣の如く素早く距離を縮めていた。
寧々
これも部の存続のための執念なのだろうか、
だとしたら、とても恐怖を感じる。
寧々
寧々
寧々
その途端、彼はあからさまに嬉しそうな顔をして、
と、大袈裟に手を広げて反応したのだった。
そして、そのまま後方へ向き直り、
と少年に追い打ちをかけていく。
同じ境遇の人間だ。
私は密かに同情の目を送った。
そんな雰囲気の中で笑っているのは、
「先輩」だけだった。
寧々
寧々
寧々
寧々
寧々
珀
珀
そう言って、彼はニッと笑った。