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花の香りが、重たく空気を満たしていた。
白と黒の衣に包まれた人々の中で、私はただひとり、色を持たない存在としてそこに立っている。
――駒井絵恋(コマイエレン)。
十七歳。
そして、今日、私は“死んだ”。
けれど不思議なことに、涙も、痛みも、ここにはない。
あるのは、私を見送る人々の姿と、棺に眠る自分の顔。
母の初華(イチカ)は静かに手を合わせ、父の煌介(コウスケ)は唇を固く結んでいる。
妹の紅愛(クレア)は赤い目をして、今にも泣き崩れそうだった。
友人の椎名瑞葉(シイナミズハ)は真っ直ぐに棺を見つめ、なにか言葉を飲み込んでいる。
だけど――。
そこにいるはずの人が、いなかった。
永井佑絃(ナガイユイト)。
私の恋人。
駒井 絵恋
声は誰にも届かない。
胸の奥に生まれた疑問だけが、葬式の静けさを切り裂いて広がっていった。