一宮
(シンデレラはある意味では王道なストーリーだ)

一宮
(父が連れてきた継母や姉達にいじめられていたシンデレラ)

一宮
(ある日、王子様が舞踏会を開く)

一宮
(姉達は小綺麗な格好をして舞踏会に出かけたが、シンデレラは家に取り残された)

一宮
(それを不憫(ふびん)に思った魔法使いが、魔法でシンデレラにドレスとかぼちゃの馬車を与える)

一宮
(ただし、魔法は0時を過ぎると解けてしまう。それまでには帰らねばならない)

一宮
(0時が近づき、王子様に見初められたにも関わらず、帰らなければならなくなったシンデレラ)

一宮
(帰りの道中で慌てたせいで、履いていたガラスの靴が脱げてしまう)

一宮
(そのガラスの靴を頼りに王子様はシンデレラのことを見つけ、妃として迎えたのでした)

九条
本当に動きがありませんねぇ。

九条
また、僕のほうからダウトしましょうか?

一宮
(シンデレラは広く伝わっている物語であるがゆえに、様々な派生パターンが存在する)

一宮
(例えば、継母を含む姉達が残酷な死に方をする――なんて展開もあったりする)

一宮
(ただ、俺が九条から読み取ったシンデレラの物語は、王道中の王道だ)

一宮
(そして、わざと踏めないストーリーに絞ってダウトを仕掛ける)

九条
無視……ですか?

一宮
いいや、ちょっと考えごとをね。

一宮
俺の心が読めるなら、別にそのことを伝える必要もないだろ?

九条
言ってくれますねぇ。

九条
では、ダウトです。

九条
【敵から金銀財宝を奪う】です。

一宮
ふふっ……そんなところをストーリーとしてセットするわけないだろう?

一宮
ダウト失敗だ。

九条
……あの、僕も分かってやってますからね。

九条
そんなに勝ち誇った顔をされても困ります。

一宮
(今のダウトで確信した。この男の目的は別のところにある。そして、俺の心なんて読んでいない。言わば、こいつにとってのダウトは確率問題。運良く当たればラッキー。仮に全て外しても、問題ないような状態になっている)

一宮
(ただ……それが分かっても、ダウトが成功しなければ意味がない)

一宮
(残りの権利は2回。この2回で決めることができなければ、かなり厳しい戦いを強いられることになる)

もはや、一宮の中では、九条のストーリーは決して踏めないものだと定義されていた。
一宮
悪いが、俺も君の心が読めるんだよ。

一宮
君は俺が絶対に踏めないストーリーをセットしている。

一宮
そうだよね?

九条
なぜ?

九条
どうして僕がそんなことをしなければいけないんです?

九条
絶対に踏めないストーリーをセットしたら、絶対に勝てないじゃないですか。

少し揺さぶりをかけてみるが、しかし九条は顔色ひとつ変えない。
一宮
(間違いない。九条の目的は別のところにある。だから、俺の考え方は間違っていない)

一宮
(残りの2回を行使して、まず俺が踏めなさそうなストーリーを探るんだ)

一宮
じゃあ、こっちもダウトさせてもらうぞ。

九条
あ、はい。

九条
どうぞ。

九条
貴重な権利ですけど、そんなにポンポン使っていいんですか?

九条
もっとじっくり吟味すべきでは?

一宮
いいや、いいんだ。

一宮
ダウトができなくなっても、負けるわけじゃないから。

一宮
(難しく考える必要はない。俺が踏めないストーリーを考えた時、真っ先に出てくるものでいい。それがきっと答えのはず)

一宮
(となると、これくらいしかない)

一宮
(ここで当たってくれ――)

九条が設定しているストーリーは、決して一宮には踏めないものになっている。