第9話
一服の煙、二人の沈黙
あの夜から、ひと月が経った。
裏社会の大通りの一角。 互いの縄張りの境界線にある、古びたバー。 カウンター席には、滅多に顔を合わせないはずの男が二人、静かにグラスを傾けていた。
玲央
……気まずいな
玲央が口を開く。
蒼太は応えず、ただ煙草に火をつける。 その仕草さえ、いつもよりどこか落ち着いて見えた。
玲央
まさか、またこうして向かい合うとは思わなかったよ。
奈々が“和解しろ”なんて言い出さなければな
奈々が“和解しろ”なんて言い出さなければな
蒼太
……あいつが言ったから来た。それだけだ
蒼太の声は冷たい。けれど、もう剣呑ではない。
玲央は苦笑するようにグラスを揺らす。
玲央
……俺さ、最初から“奪ってやろう”なんてつもりじゃなかったんだよ。あいつに再会して、ただ……また“選んで”ほしかっただけ
蒼太
……選ばれたかったのは、俺も同じだ
ぽつりと蒼太が言った。 そして、自嘲気味に煙を吐いた。
蒼太
でも……お前がキスしてるとこ見たとき、
本気で“殺してやろう”と思った。……それくらい、本気だった
本気で“殺してやろう”と思った。……それくらい、本気だった
玲央は一瞬だけ目を伏せる。 そしてグラスを飲み干し、ため息をついた。
玲央
なぁ、蒼太。もしさ、奈々が“どっちも選ばない”って言ってたら、どうしてた?
蒼太
……無理矢理でも隣に置いた
玲央
やっぱお前、最強にクズだな
蒼太
うるせぇ。お前よりマシだ
二人は、同時にふっと笑った。
それはほんのわずかな、しかし確かに“和解”の兆しだった。
玲央
……俺もさ、もう追うのはやめた
蒼太
それは……諦めたってことか?
玲央
違うよ。“奪う”って恋じゃない。気づいたんだ、奈々の心はもう、とっくにお前に向いてたって
蒼太の手がわずかに止まる。けれど、顔は向けない。 照れ隠しのようにまた煙草をくわえる。
蒼太
……お前も、やればできんじゃん
玲央
そっちこそ、ちゃんと幸せにしろよ。奈々の笑顔だけは、俺も好きだからさ
玲央は立ち上がると、スーツの裾を整えた
玲央
じゃあな、蒼太。……今度は、仕事で殺し合う時まで会わないといいな
蒼太
……二度と会いたくねぇよ
そう返す蒼太の口元に、わずかな笑み。
バーのドアが開き、玲央が去っていく。
そして蒼太はひとり、残されたグラスを見つめながら呟いた
蒼太
……ありがとう、玲央
誰にも聞かれないように、小さく。
その言葉は、煙とともに静かに空へと消えていった。
奈々
……で、話って何?
奈々がカップを手に、首を傾げる。 蒼太はソファに座って、 妙にそわそわと脚を組み替えている。
蒼太
別に……報告ってほどでもねーけど……
蒼太がぼそっと呟いた。
蒼太
玲央と和解してきた…
何故か照れくさそうに言っている蒼太
奈々
?!?!
絶対に和解しないと思ってた奈々
和解した結果、奈々は蒼太にすごく褒めていたのだった。
どうだったでしょうか?
無事仲直りして良かったです笑
次回:〇〇からのプロポーズ
お楽しみに
バイバイ