ツヨシ
ちょ、ちょっと状況を整理するか。

しかし、帰りの車の中に、途中で駆けつけたはずのイチカの姿はなかった。
もっとも、明らかに何者かに殺されたであろう、遺体としてだが。
ヒメ
や、やっぱり警察に通報したほうがいいんじゃない?

マドカ
状況を考えなさい、状況を。

マドカ
あそこに入るためには表向きじゃ鍵が必要で、それはイチカが持ってきた。

マドカ
で、私達はあの場所にイチカと一緒にいたのよ?

マドカ
仮に警察に通報したとして、私達が疑われないわけがない。

ツヨシ
まぁ、疑いはいずれ晴れるだろうが、その間俺達が拘束されるわけにはいかない。

カシン
えぇ、31人目の3年D組が誰なのかを突き止めないと。

カシン
彼は例の学校で【革命軍】とやり合っているわけだから、そこまで手が回らないでしょう。

カシン
器用な人間ではなかったと思いますし。

ツヨシ
とにかく、あいつ……イチカは何者かに殺されたって考えていいんだよな?

カシン
おそらく。

マドカ
でも誰が?

マドカ
私達は学校にいる間、ずっと一緒にいたのよ?

マドカ
イチカを殺すなんてできないわよ。

カシン
順当に考えれば【ナポレオン】なんでしょう。

カシン
私とツヨシが体育館に入り込んだ時、間違いなく先客がいて、待ち伏せされましたから。

ツヨシ
確かに、いつの間にかハリボテになってたけど、間違いなく銃撃を受けたからな。

校内に入るためにダストシュートからの潜入を試みたツヨシとカシン。
思惑通り体育館の中に入り込むことはできたが、そこで謎の人物からの待ち伏せを受けてしまう。
結果、いつの間にか等身大のハリボテとなっていたが、あの時、ツヨシ達以外の第三者がいたことは間違いない。
ヒメ
それで、これからどうするの?

マドカ
――私的にどうも引っかかるのよね。

マドカ
イチカのことを悪く言うつもりはないけどさ、あの子……この状況で駆けつけるようなタイプだと思う?

マドカ
しかも、わざわざ親から鍵を借りてまで。

カシン
高校時代のイメージしかありませんが、彼女らしからぬ行動ではありますよね。

カシン
グループメールでも、特に発言をしたり、みんなとコミニケーションを取っている様子もなかったようですから。

ツヨシ
それはお前も同じだろう?

カシン
私はロム専ってやつです。発言はしませんが、逐一チェックだけはしています。

マドカ
なんか言葉にされると……やっぱ引くわ。

ヒメ
と、とにかく。イチカの行動については私も同感かな。

ヒメ
あの子、なんらかの理由をつけて他人を攻撃したがるし、根っからのいじめっ子だから、私としても彼女が他人のために動くなんて思えない。

ツヨシ
でも、本人いわく大人になったって――。

マドカ
人間、そんな簡単に変わると思う?

カシン
思いませんね。ましてや、あの性悪女に限っては。

ツヨシ
でも、だったらあいつはどうしてここに駆けつけてくれたんだ?

カシン
――もしかすると、彼女はあっち側が用意したイベントプレイヤーだったのかもしれません。

ヒメ
イベントプレイヤー?

カシン
えぇ、さっきのゲームを成立させるためには、誰かが時間内に元3年D組の教室に向かわねばならなかった。

カシン
でも、舞台となった場所はすでに廃校になっていて、おそらくは市が管理していたのでしょう。

カシン
当然、鍵がなければ中には入れないし、誰も元3年D組の教室に向かえなければ、ゲームが成立しません。

マドカ
それを成立させるために、イチカはここに来た?

カシン
はい、しかも彼女の意思ではなく、何者かの意図によって、ここに来た可能性が高いでしょうね。

カシン
もし、彼女が自らの意思で学校に来るつもりだったのであれば、さすがにグループメールで事前にアクションを起こしませんか?

カシン
目立ちたがりだった彼女なら、なおさらです。

カシン
でも、実際には何も発言せず、この場へとやってきた。

カシン
まぁ、あくまでも当時の彼女の性格を考えると――という話なんですが。

ツヨシ
で、俺達はこれからどうするべきなんだ?

カシン
私達――元3年D組の中にいると思われる【ナポレオン】を探し出すしかないでしょうね。

カシン
そのためには、可能な限り元3年D組のみんなと連絡を取る必要があります。

カシン
今現在、どこで何をやっているのか。

カシン
主に今日のアリバイも確認したいですね。

ヒメ
でも、グループメールだけじゃ連絡できない人もいるよね?

マドカ
ナンバーズなんて、誰も反応した試しがないしね。

ツヨシ
そういうやつのところには、こっちから直接会いに行くしかねぇだろ。

ツヨシ
もちろん、今も近場が生活圏内ってやつに限定されるけど。

マドカ
とにかく、グループメールでも呼びかけてみて、連絡が取れない連中は――そうね、とりあえず実家に押しかけてみるか。

ヒメ
あ、確か卒アルにみんなの連絡先と住所、載ってるよね。

カシン
では、とりあえず卒アルを取りに向かいましょう。
ここからはヒメのお宅が一番近い。

カシン
ヒメ、確か卒アルはご自宅の自室、本棚の三段目にありましたね?

マドカ
――なんで知ってるのよ、怖っ。

ツヨシ
お、おう。

ツヨシ
カシンさすがにそれは引く。

ツヨシ
本人に確認する辺り。

ヒメ
マドカちゃん、ちょっと考えておくね。

ヒメ
警察の件――。

カシン
ふふっ、こういうの悪くありませんねぇ。

カシン
ひどく興奮します。

ツヨシは喉から出かかった言葉を、辛うじて飲み込んだのだった。