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雪月湖~Setsugetsuko~

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雪月湖~Setsugetsuko~

2 - 雪月湖~Setsugetsuko~【ep.02】

♥

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2020年05月12日

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中学3年の夏。

男子生徒A

いっけぇぇぇぇ!!

女子生徒A

キャアアアアーーー!!
名護(なご)くーーん!!!

あたしが恋をした彼は、 あの夏一番キラキラと輝いていた。

男子生徒B

迅(はやて)、
抜かせーー!!

水泳部の県大会で優勝した彼は、 案の定のこと、校内でも 注目の的となった。

みんなに優しくて、 女の子にも人気があって。

でも、あたしが彼を好きになったのはもっと前のこと。

それは──中学3年の春だった。

春なのに、 季節外れの雪が降ったあの日。

よりにもよって寝坊。 でも、急がなきゃ。

外は既に積もるほどの雪の中。 転ばないように、でもなるべく 早歩きで学校へ向かう。

やっと校門が見えてきて、なんとか間に合いそうだとホッとした。

その時。

最後の最後に気を抜いたせいか、 ズルッ!と滑って、あたしは 尻餅をついてしまった。

ジンジンと痛む手やお尻。

雪を払って起き上がろうとしたところで、やっと周囲に気づく。

女子生徒B

何あれ。可哀想~

男子生徒C

うわ、大丈夫かあれ

クスクスと笑って、 通り過ぎてく生徒たちの姿。

あたしは今すぐこの場から消えちゃいたいほど恥ずかしくて、俯いた。

そんな時──。

──立てる?

俯くあたしの目の前に 差し伸べられた、大きな手の平。

目で声の主を辿ると、そこには端正な顔立ちをした黒髪の男の子が立っていた。

真冬(中学3年)

ぁ…大丈夫…です

羞恥心のあまり、あたしは 消え入るような小さな声で、 それしか答えられなかった。

それでもあたしを立たせるため、 彼は無言で引き寄せた。

……が。

真冬(中学3年)

ひゃあっ!?

っ、わっ!!

唐突だったため、立ち上がるどころか今度は彼の方に向かって倒れ込んでしまった。

しかも、彼を巻き込んで…。

真冬(中学3年)

ご、ご、ごめんなさい!!

──キーンコーンカーンコーン…

終わった。いろんな意味で。

遅刻と同時に、彼にまで 迷惑をかけてしまうなんて。

でも、ガックシと 肩を落とすあたしとは違い。

…ぷ。あははははっ!!

真冬(中学3年)

!?

彼は大声で笑い出した。

どうしてか、わかんないけど 釣られてあたしも笑った。

それだけで、あなたのお陰で 救われたってこと、 彼は知っていただろうか。

男性教員A

お前ら、遊んでないで
早く教室入れー

遠くから先生の声が聞こえた。

思えば、あたしはこの頃から 彼を目で追うようになってた。

優しくて、無邪気な笑顔で 笑う彼のことを、 あたしは 【名護 迅(なご はやて)】を、

好きになっていたんだ。

真冬

(紗耶に教えてもらって来たけど、ここ…だよね?)

スマートフォンの地図を頼りに、 キョロキョロと辺りを見回した。

ド田舎だけに明かりも少ない。

山道は雨でも降ったら、土砂が崩れてきそうなくらい、足場も悪い。

真冬

本当にこの奥にあるのかな…

半信半疑、といったところ。 暗いし怖いし何か出そうだし…

それでもあたしは、歩みを進めた。

真冬

時は同じくして。 イルミネーションの下、恋人と腕を組む紗耶のもとに電話が鳴る。

紗耶

(…えっ?)

《📞着信:名護 迅》

あまりに珍しい人物からの着信に、 紗耶は思わず二度見した。

紗耶

もしもし…?

名護 迅

《──吉沢?》

紗耶

名護?珍しいね、どうしたの?

懐かしい声が耳を掠めた。 この心地良い声は本当にあいつだ。

名護 迅

《良かった…番号変わってなくて》

紗耶からしてみれば彼氏以外は 褒めたくない。 まあ、心の中だけだし、 こいつに限っては仕方ないのだ。

LINEじゃないところも名護らしい。

紗耶

(てか、LINE知らなかったわ…)

LINEが主流になる前に、 名護は引っ越したからだ。

紗耶

で、久々に声聞いたと思えば何──

名護 迅

《吉沢、頼みがある》

被せた彼の声からして、 真剣な話だとはわかった。

紗耶

今デート中なんだけど後でいい?

名護 迅

《ごめん、時間がない。
なるべく早く頼む…っ》

紗耶

(いきなり電話してきて
“早く頼む"って?)

無意識に、はあーっ、と 溜め息を漏らしたら。

名護は察したのか、 「ごめん」と謝って、言った。

名護 迅

《 教えてほしいんだ、》

名護 迅

名護 迅

《──雪月湖のジンクスを》

紗耶

……え?

なぜ、その名前が出てくるのか。

思い当たるのはたった一人、 教えたのは真冬だけ。

しかも私が知ってること自体、 どうして名護は知ってる?

だからと言って、真冬が名護に 連絡するはずないのに…。

紗耶

…てか、名護は今どこ?

なんだか、説明のつかない 胸騒ぎがした。

名護 迅

《今日、こっちに戻って来てる。》

真冬

ひっ!痛たたっ!!

もうすぐ着きそうなのに、 木の枝に髪が引っかかったり、 石につまずいたり。

相変わらず険しい道が続いた。

真冬

もうっ…まだかなぁ

ヤケになりながらも、 木々をかき分けて進む。

なんとかジャングルのような 道から抜け出せた。

──その時だった。

真冬

(……!!)

視界いっぱいに広がる、 湖を見つけた。

真冬

(綺麗…だけど、
なんかちょっと怖いかも)

一人で来たことに少し後悔する。

だけど、大きな満月が映る湖は とても幻想的で、神秘的で… あたしは一瞬にして虜になった。

そっと湖畔まで近づく。

そして見下ろすと、 揺れる月とあたしの顔。 後者はいらないんだけど…。

真冬

うぅ、寒い

ブルっと肩を震わせたけど、 真冬の湖だ。 想像以上に寒い。

ふっ──…と、

真冬

ぁ……雪だ

本当に降ってきちゃった。

満月と、湖と、雪。 あまりにも美しい景色に心を奪われて、頭がぼぅ…っとする。

真冬

(ほんとに、綺麗…)

だから、あたしは気づかなかった。

真冬

…え?

滑って、地面から自分の足が 離れていくことに。

“──立てる?”

屈託のない笑顔。 手を差し伸べてくれた、 彼を思い出しながら。

真冬

きゃ、きゃあああああ──!!!

落ちる、 堕ちる、 沈んでく──…

真冬

(あたし、死ぬの…?)

息ができなくて、苦しくて。 手を伸ばしても空気には触れられなくて、朦朧とする意識の中。

透き通る“青"が 深い“黒"に変わってく。

それが、 あたしが見た最後の景色──…。

episode.03…聖夜に舞い落ちた奇跡

雪月湖~Setsugetsuko~

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