【第五章】その背に手を伸ばして

衝撃とも呼べる謎の悪寒が、

私の背をつたった。

平気な降りで、ティアに本を渡す。

ゆっくりと受け取り、

微笑む。

ティアの柔らかな笑顔を見て、 思う。

幸せになってはならない人なんて

いないんだ、と。

小さく笑うスーツ姿の細身の男性。

そう。彼がスマイルだ。

って、あれ？

慌ててティアを振り向く。

しかし、 ティアは手元の本に目を落としている。

気付いていないらしい。

スマイルさんは口下手だ。 だから、少し説明が分かりづらい。

でも、少しわかった。

この空間は、科学では説明できない 何かが起こっている。

本に夢中なティアと、 スマイルさんに目を向ける。

WTの目的は、 私たちを"救済"すること。

私の前にWTが現れたということは、

私は…救う側にはなれないのだ。

思わず、私は頭を下げていた。

急な行動に驚くスマイルさんに、

私は言葉を重ねる。

WTの"空間"の特徴 人間の強い意志で空間は動く。

私は、 ティアが悲しそうにスマイルさんのもとへ歩いていくのを、

他人事のように見ていた。

その言葉が聞こえた瞬間、

ティアの肩がびくっと震えた。

何も言わずに出ていく。

その後ろ姿は、

…とても哀に沁みていた。

力無く顔をあげる。

思い出したように振り向く。

そして投げられる本。

受け止めようとして手を伸ばして…

本を胸に抱いた時にはもう、

スマイルさんはいなかった。

……To be continued