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テラーノベル(Teller Novel)

りりり 、り───ん

りりり、り───ん

りりり 、り───ん

りりり、り───ん

りりり、り───ん

りりり、り───ん

りりり、り───ん

「はい もしもし」

プチッ

ツ─ツ─ツ─

       

りりり、り───ん

りりり、り───ん

「はい もしもし」

プチッ

ツ─ツ─ツ─

私は受話器を置いた。

真夜中になると黒電話が鳴る。     

ここへ越してきた夜に

押し入れに放置されていたのを見つけた。

もちろんコードは繋がっていない。

だから、とても気味が悪かった……

やはり不動産屋に連絡しなきゃダメだ。

私はそう考えた。

翌日になって──

不動産屋からの返事はこうだ。

【お問い合わせの件ですが──結果から申し上げますと、現状、誰のものか判らないです】

【担当者の話によると電話は前の住民のものでもないし、大屋さんのものでもないとか】

【──ですから電話機は、処分なさるなり、御使いただくなり、どうぞご自由になさって下さい】

はっ!

なんとも雑な対応だ。

真夜中

ふたたび電話が鳴った。

その瞬間

私は電話を捨てようと心に誓った。

翌日

この日は月に一度の小型ゴミの日だった。

電話機を紙袋に入れ、ゴミステーションに置いた。

やった!

これで気味の悪い電話ともおさらばできる。

私は初の独り暮らしを満喫するべく

下北沢にある雑貨屋めぐりをすることにした。

夕方

自分のアパート帰ってみると

ドアノブに見覚えのある紙袋が下がっているではないか。

袋の中身は

黒電話

なぜ?

小型ゴミで処分できるはずなのに……

それより

なによりも

この電話機がとうして

ここの物って分かったんだ?

私は背筋がゾクッと寒くなるのを感じた。

怖い!

いやだ!

どうしても電話機が家の中にあるのが嫌で

いけないと分かって、燃えるゴミの袋に紙袋ごと入れて

ふたたびゴミステーションに放置した。

真夜中

微かに電話の音が聞こえてきた。

怖くなった私は枕をすっぽり被り

眠れぬ夜を過ごした。

よく朝──

玄関前に昨日、私が出したゴミ袋が置かれていた。

縛った縁にメモが貼り付けてあった。

走り書きで

“201”

と、だけ──。

201とは私の部屋番号だ。

誰かが私の出したゴミだと分かっていて玄関前に置いたのだ。

誰の仕業?

私の行動を見張っているのかもしれない。

それもこれも

この黒電話のせい。

ともかく一刻も早く手放したい。

ふと脳裏を横切った言葉は

「不法投棄」

いやダメだろう。

いくらなんでも、さすがにこれは出来ない。

頭を悩ませたあげく、

私の考えはリサイクルショップにいきついた。

朝食もそこそこに

電車に乗って調べた店に出向いた。

開店と同時に電話機をカウンターへ置いた。

見るからに困り顔の店員──

「あいにく、うちではお引き取りできません」

他にも数件、同じようなリサイクル店当たってみたが

引き取ってもらえるところは、どこもなかった。

電話は古すぎた──

これにつきる。

あっ

そうだ。

私は下北沢にあるひっそりとした、たたずまいを思い出した。

アンティークを取り扱うところならあるいは──

私はその足で下北沢に出向いた。

古道具屋の店主が言った。

「そう古くもない……」

ダイヤルを回してみたり、ひっくり返したりと

黒電話を査定した。

「通話できますよね?」

──もちろん出来ますとも。

繋がっていなくとも真夜中にかかってきますとは、口が裂けても言えなかった。

「まぁ100円かな」

電話を引き取ってもらえるなら

値段などどうでも良かった。

私は二つ返事で、電話機を引き取ってもらうことにした。

ようやく気味の悪い黒電話が、私の手から離れた。

これからは夜中悩まされることも、ゴミ捨てで悩まされることもない。

昼をワンプレートのカレー屋で済ませ、

私は意気揚々と自宅アパートへと戻った。

満腹な上に夕べの寝不足も手伝って

テレビをつけっぱなしでうたた寝をしてしまった。

どのくらい経ったろう……

玄関の呼び鈴で目を覚ました。

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン

と、つづけて三回も鳴る。

大学に通うために越してきたばかり。

知り合いはまだいない。

「新聞の勧誘だろうか?」

テレビ

あ……

音洩れ

今さらながらに慌ててテレビを消した。

少しして

玄関前の気配が消えた。

ほっとし、

ベットから滑り落ちるようにして、ぺったりと床に座りこんだ。

5時か・・・

外は日が暮れて薄暗くなっていた。

そろそろ電気を点けよと、テーブルの上のリモコンに手を伸ばした。

何気なく視線を上げる。

ベランダ越しに

人影が立っていた。

向かいのマンションの踊場と、私の部屋のベランダがちょうど同じ高さにある。

そこから、男がじっとこちらを見ていたのだ。

私は電気を点けるどころか、

身動きを止め

息すらも止めた。

じっと見つめる男。

緊張でどうかなりそうだ。

さっきの呼び鈴と同一人物だろうか?

外にいる男から、室内にいる私が見えるだろか?

私と男を隔てるものは、ガラス一枚とレースのカーテンのみ。

正直、ガラス窓がこれほど頼りないものとは思わなかった。

男はややしばらくすると、あきらめたのか、階段を降りていっていまった。

ふう

私は長い息をは吐き出した。

この日

私は初めて電話機のない夜を迎えた。

二日後

昼頃に

宅配が届いた。

実家からかと思いきや

送り主は下北沢にある

電話機を売った古道具屋からだった。

段ボール箱を開ける。

中身を見て

私は

絶句した。

売ったはずの電話機が返されたのだ。

一緒に手紙までそえられている。

便箋を取り出すのと同時に、何かがポロリと落ちてきた。

床に円を描くように100円玉が転がった。

私は100円を拾い上げ、便箋を広げた。

中身は───

【先日お持ち込みいただいた電話機。当店におきまして】

【お引き取り拒否いたしたく、返品させて頂きました】

【お取り引きの際に、重要かつ深刻な虚偽の申告がございましたゆえ】

【売買契約は無効とさせていただきます】

【なお、この件につきまして、一切の問い合わせはご遠慮願います】

【何卒ご理解、ご了承いただきますようお願い申し上げます】

何てこと!

手元からやっと離れたと思ったのに、すぐに戻ってきてしまっただなんて。

理由は聞くまでもない……。

真夜中に

電話が鳴ったに違いなかった。

不気味に思った店主が返してよこしたのだ。

私は悔しさのあまり涙を流した。

残された道は──

もはや棄てるしかない。

自分の意に反して

私は不法行為を犯そうとしていた。

そこに──

ぶぶー  

   ぶぶー

と、スマホのバイブ音がなった。

親友からの電話だった。

ワカ子

ワカ子

けーちゃん元気にしてた?

いきなりの電話どうしたん?

ワカ子

そろそろホームシックしてるかなと思って

ワカ子

電話したんよ

相変わらず

鋭い

ワカ子

で、どうなん

ワカ子

少しは慣れた?

どうって……

ワカ子

いつもの金縛りは?

そう言えばないかも

今のところ

一度もない

ワカ子

ほんなら

ワカ子

良かったね

そうでもないねん

実はね

私は黒電話のことを一通り話した。

どお思う?

ワカ子

う─ん……

ワカ子

捨てるか迷うところやね

まともに処分しようとすると

戻ってきてしまう

もう

うち

気持ち悪いし

怖い

ワカ子どないしよう?

ワカ子

ならさぁ

ワカ子

いっそうのこと

ワカ子

使っちゃえばええやん

それ……

本気でゆうとる?

結局

私はワカ子の提案を受け入れた。

運良く父親が電話の権利を二つ所有していた。

なので電話機の線をジャックにポチッと入れるだけで

すぐに使うことが出来た。

不思議なことに

その日以来

黒電話はごく普通の電話機となった。

これ以降

ただの一度も真夜中に電話が鳴ることはなくなった。

大学を卒業し

地元に戻った私は

一緒に黒電話も持って帰った。

今も実家の固定電話として

使っている。

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コメント

1

ユーザー

一人暮しした時の心細さを書きました実際は鶯色みたいな電話が押し入れにあったんです。前の人の置き土産。怖いでしょう?

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