理彩
理彩
志織
理彩
スマホのマップは相変わらず何の反応も示さない
志織
照りつける紫外線に、代わり映えのない漆黒の砂漠-
はりきって持ってきていた麦わら帽子でさえ、熱を溜め込み始めていた
理彩
理彩
志織
理彩
恨み言をまた唱え始める友人を無視して、足早に歩を進める
シミという大きな代償と引き換えに、私たちが歩き続けているここは 東京-
と いっても海の上の伊豆大島だ
理彩
志織
今はリサの愚痴よりも、スマホの充電方法が気になっているのだが…
理彩
志織
理彩
志織
辺りを見回してもどこにも店影は見当たらない
幻覚を探そうとしている自分もやはり、熱にやられているのだろう
理彩
理彩
リサの白い手が指す方向へ目を凝らす
……?
軽い蜃気楼で歪む地平線の手前に、何か…ある
志織
さらに目を細めると、頭がゆっくりとその輪郭を捉えていく
志織
理彩
どこからか双眼鏡を取り出したリサは目にあて確かめる
理彩
理彩
志織
だが、その店は黒ずんでいて綺麗とは言い難い
この距離で隠しきれない汚さは相当なものではないだろうか
志織
理彩
志織
志織
海風がどう と吹きつけ、遠い砂浜から砂をぶつけてきた
ふらつく足でリサを追いかける
が-
ずしゃっ
リサの姿が一瞬 視界から消えた
はっと目をやると、リサは壮大に転けた後の体勢になっていた
志織
砂漠といえど、黒い火山岩でできた小石だ
顔から倒れるのは 正直言って…やばい
おぼつかない足取りで駆け寄り、彼女を助け起こす
理彩
志織
理彩
理彩
私の反射神経なめんじゃないわよ、と誰に対してなのか 彼女は怒りながら砂をはたく
志織
志織
曖昧な言葉でリサをなだめながら、ふと足元に木の板が落ちているのが目に入った
理彩
志織
見たことのある形に その板を立てる
看板だ
おもむろに看板に付いた砂を払うと黒字が出てきた
500cat先↑ DESERT RESTAURANT 海猫軒
500cat先↑ DESERT RESTAURANT 海猫軒
理彩
自分を地面へとダイブさせた張本人(張本物?)である看板に敵意があるのか、
リサは文字をじぃーーと睨みつける
が、文章を読み終えると、彼女の目の色がキラリと変わった
理彩
その言葉に食い付くのね………
あまりの甘党ぶりに少し呆れていると、不意に私の首に手が伸ばされる
喜びが消化不良らしく、首もとを掴まれた体をぶんぶんと揺すられる
理彩
志織
さすがに目がくらついてきたので 友人の手をほどき、消火を試みる
志織
志織
DESERT RESTAURANT
デザート レストラン
"砂漠"の料理店
理彩
ふたつのくっきりとした目がゆらりと揺らぐ
理彩
吐き出された言葉とともに その目から興味がみるみるうちに失せていく
へたりこむ友人を傍目に看板に視線を戻す
志織
志織
『もちろん デザートもご用意しております』
黒字の下に小さく書き足されていた
こんなものさっきまであっただろうか
そして ふとこの文章に漠然とした違和感を覚える
理彩
理彩
彼女はバシバシと看板を叩く
看板だから答えられるわけないんだけど…
志織
はた とその違和感に気づく
もう一度看板に顔を近づけてみる
『もちろんデザートもご用意しております』
「もちろん」とはどういうことか
まるでリサの言葉に答えているような…
理彩
ぐいっと腕を引かれ体が前によろける
理彩
私の小さな疑問はあっさりとリサの食欲にかき消されてしまった
志織
手を引かれ、仕方なく黒い石粒の砂漠を歩きはじめる
私たちはこのとき、引き寄せられるように"あの店"へと向かっていた
遥か前方に猫のようなシルエットの店が口を開けて待っている
どこか遠くで、猫の鳴く声がした
序章 了
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