【序章】―誘引― から読み進めることをおすすめします
渡り鳥が曇がかった空を駆けていく
理彩
しばらく リサに引かれるがまま歩いていたが、突然リサが立ち止まり体勢が崩れかける
志織
まだ店に着くには早すぎる
不思議に思い彼女の背中から ちらと前を覗く
ベンチが置いてあった
おしゃれな庭園でよく見かける、くるくるとしたかわいいデザインのベンチだ
ただひとつ違うのは、その洋風ベンチが真っ黒だったこと
この砂漠と同じ黒色で今まで気づかなかったのだろう
理彩
志織
私の声は届かず、彼女は何のためらいもなくベンチにダイブする
が……
理彩
黒色だから熱くなってることぐらいわかるでしょう……
リサはどこへも もたれかかることができないまま、痛みに震えている
志織
コントのようなやり取りに思わず苦笑がもれる
リサは苦笑の私をばつが悪そうにみつめていた
志織
理彩
疑問半分、不機嫌半分で話題を変える
理彩
リサがそう言った途端、びゅうと海風が私たちの横を過ぎ去り、思わず目を瞑る
志織
目を開けるとベンチに大きな傘のようなものが置かれていた
柄にはタグのようなものがついている
『パラソルをご用意しました。どうぞお使いください』
あの看板と同じ黒字の特徴的な字体でメッセージが書かれていた
おかしい……
さっきまでこんなものなかったはずなのに…
理彩
がさごそと物音が私を現実へと引き戻す
目の前には何の疑いもなくパラソルを開くリサがいた
志織
理彩
理彩
理彩
志織
正直言えば…………座りたい
紫外線が降り注ぐなか、足場の悪い砂漠を延々と歩き続けてきたのだ
座りたくないわけがない
だけど…
理彩
パラソルの影で熱を冷ましていたベンチにリサは腰掛ける
志織
間髪いれず リサがバックから何やら取り出しはじめている
理彩
志織
理彩
志織
理彩
理彩
ベンチの上にはメイク道具一式が並べられ、バックの中身は空に近かった
志織
やけに重たそうな鞄だったが、まさか化粧品100%だったとは…
志織
無言で ベンチを占領しかけている化粧品を寄せて自分のスペースを確保する
理彩
志織
理彩
呆けた顔の友人を無視して、同じように腰掛ける
さっきの看板も、このパラソルも、きっと見間違えだ
私も暑さにやられておかしくなっているんだろう
メイクの修復作業は難航を極めていた
その主な要因は、完璧主義すぎる彼女にあるのだが…
一方の私はスマホゲームで暇をつぶしていた
リサのメイクが長いことは実証済み
おかげで伊豆大島行きのフェリーに乗り損こねるところだった
しかし、さすがのリサも そろそろ終わる頃だろう
理彩
理彩
不穏な言葉に、ひやりとして顔をあげると――
志織
地面にのびる大きな影に気づいてしまった
パラソルをも覆う巨大な影―
それには動物の耳のようなものがついていた
ゆっくりと振り返る
そこには…
理彩
DESERT RESTAURANT 海猫軒
私たちの後ろにいたのは、猫を模したような奇妙な形の、あの店だった
理彩
メイクに満足したのか、散らかした道具を片付けはじめる
志織
志織
理彩
リサは何事もなかったかのようにドアへと向かう
志織
志織
志織
あまりの状況に混乱した言葉は 自分でも何を言ってるのかわからない
しかし目の前の店のドアは いかにもな風貌のぼろぼろなドアだった
理彩
志織
理彩
理彩
志織
理彩
志織
そんな"楽だから"という理由で私を危険にさらさないでほしい
口を開こうとしたとき、リサから ふわりと甘い香りが鼻を掠めた
手にひんやりとした感覚がある
手元に目をやると…
いつの間にか、私はドアに手を掛けていた
第一章 了
コメント
2件
なんとも言えない不気味さと、手のひらで踊らされているのに抜け出せそうにない感覚、癖になりそうです こちらのシリーズは連載に纏めたりはなさらないのでしょうか? 続きも心待ちに致しております