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噂の花屋

噂の花屋

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噂の花屋 4

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2020年06月26日

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時代は明治から昭和

裕福でも貧乏でもないそこそこの家に生まれた

男の名を颯(はやて)という。

母様。今日の算術の勉学は終わりました。

そう。ならこっちを手伝ってもらえる?

はい。母様。

悪い生活ではない

5つの時から両親が勉強をさせていた。しかも今で言う小学1年生くらいの問題から。

颯は5のうちに文字を覚え、書き、読むようになった。

が、颯が1番好きなのは今で言う生物。つまり植物や動物なのだ。

あ、この花。見たことがあるぞ。

父が買ってくれた植物図鑑で調べてみる。

あ、これだ!

昔はカメラなどがなく、ほとんど絵であったのだ。

それでも颯は外に出かけて自然に触れることが大好きであった。

数年後

颯が21になる頃にはもうとっくに大正時代は終わっていた。

昭和初期

父が亡くなる

颯が20の時だった

急死。原因は不明。ただ、死んだ。それだけである。

あなた…

母親は三日三晩泣き続けた。

傍から見ても両親は相思相愛だった颯には母の気持ちが痛いほどわかった。

そんな母を苦労させないために颯は働き始めた。

最初は古本屋。

次に居酒屋。

その次はうどん屋と、

色んな店を転々とし、最終的には本屋に務めていた。

颯が25の時である。

1人の少女が何気ないある日、その本屋を訪ねてきた。

少女

ごめんください。

はい。

雨の日だった。

外はザーザーと雨が降っていてその少女はびしょ濡れだった。

少女

すみません。少し雨宿りをさせていただきます。

あ、いえいえお構いなく。

手ぬぐいか何か持ってきましょうか?

少女

では、お言葉に甘えて。

ふっ、と少女が笑う。

肩まである黒く美しい髪が揺れて雫が落ちる。

颯は一瞬のうちに恋をした。

何日かが経ったある日。

颯は仕事の合間に店の周辺の小さな林をいつものように散歩していた。

すると目の前からあの少女が。

少女

あ、本屋の。

ど、どうも。

少女

その節はどうもありがとうございました。

少女

貴方様のお陰で風邪をひかずに住みました。

今度はうえでお団子にしていた。

その横から出る髪が揺れてより一層儚げに見える。

あの、失礼ですがお名前は…

美亜

美亜(みあ)と申します。

美亜さん…

美亜

おかしな名前でしょう?

美亜

父がつけてくれたんです。母は本当は美亜子にしたかったらしいんですけど、美亜の方がいいと。

美亜

そちらは?

颯です。

美亜

颯さん。よろしくお願いいたします。

よろしくお願いします。

これをきっかけに美亜は度々本屋に顔を出すようになり、ついには付き合い始めたのである。

それから、結婚まで半年ほど。

颯が26歳。美亜が23歳の時だった。

颯の母は大喜び。

が、世界中が戦争の中。式をするのはどうかと議論した結果、式はしない事に

美亜。ごめん。

美亜

いいのよ。こんな中、式なんて方が無礼な気がするもの。

自分より3つ下だとは思えないほどしっかりしていた美亜。

けれどきっとどこかで悲しんでいるだろう。

人生で1回着るか着ないかぐらいの特別な服。

悲しいはずなのに堪えて、

それがより一層儚げに見えて、

颯は美亜を抱きしめた。

数年後

颯宛に赤紙が届いた

颯が35歳、美亜が32歳の時であった

その頃、第二次世界大戦は過激化しており、赤紙が来ればほぼ死ぬと言うくらいであった。

その時、家族は4人に増えていた。

颯の母、美亜、颯。そして娘の颯美(はやみ)。

颯美はもう7つになっていて、さほど世話はかからなかった。

が、やはり問題なのは食事。

大きくなるにつれて食欲が増していくのは当たり前の事だった。

が、配給の分が少なくなって来た今、美亜と颯はやつれ始めていた。

颯美

お父さん、どこに行くの?

美亜

お父さんはね、日本を救いに行くのよ?

美亜

だから、私たちは待っていようね。

そうよ。おばあちゃんと一緒にお父さんを待ちましょうね。

颯美

…うん。

美亜、苦労かけて悪いな。

美亜

全然。颯さんの方が大変だもの。

美亜ちゃんは私が見ておくわ。

母さんが見られるほうだろ。

颯美。いい子で待ってろよ。父さん絶対帰ってくるから。

颯美

うん!約束ね!

颯美は小指を差し出す。

颯は胸が苦しくなる思いで、小指を重ねた。

1945年。8月15日。終戦。

美亜は、他2人と一緒に玉音放送を聞いていた。

美亜

お義母さん、颯さんは帰ってきますよね。

当たり前よ。自慢の息子だもの。

颯美

お母さん!早く行こう!

美亜

うん。

颯美

お父さんいつ帰ってくるかな?

美亜

…。いつだろうね。でもきっと帰ってくるよ。

美亜

それまで待っていようね。

何日待っても颯は帰ってこなかった

颯はもう…

現代。颯は颯として生まれ変わり、花屋を営んでいた。

が、愛する妻と娘。そして母に最期のお別れを言えなかったこと、

お礼を言えなかったことを悔やんでいた。

はぁ、美亜に会いたいな。

そんなある日、ある少女が花屋を訪ねてきた。

少女

あの、

その少女の背格好は美亜と瓜二つ。

年の瀬は高校生くらいに見えた。

颯より、若かったのと、颯より、遅く死んだからだろう。

…美亜…

愛する妻は颯事を覚えていない。

ならば花を通して思い出してもらおう。

黄色の水仙の花言葉

「もう一度愛して欲しい」

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