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翌日 15時30分
渋谷大
悟、悟
渋谷大
そろそろ起きとけ
渋谷大
終業チャイム鳴った
久留間悟
んぁ
久留間悟
悪い、寝てた
渋谷大
そーな
渋谷大
まぁ昨日は遅くまで調べ物してたし
渋谷大
朝も早めに起きて札作ったりしてたから
渋谷大
昼飯食ってぽかぽか陽気に当たってりゃ
渋谷大
眠くはなるだろ
渋谷大
むしろ本番前に回復してくれてよかった
久留間悟
理解があって助かります
渋谷大
しかしここの怪異さぁ
渋谷大
ビックリするほど俺らに興味ないな
久留間悟
七不思議の一つ、旧校舎の姿見
久留間悟
昔自殺した女子生徒の霊が取り憑いていて
久留間悟
夕方これを覗くと魅入られてしまう
久留間悟
……まぁ、俺らが見たのは夕方じゃないけど
渋谷大
夜中の散歩がてら見に行ったけど
渋谷大
気配だけはダダ漏れなのになんの反応もなし
渋谷大
憑かれてる子が接触してるときじゃなきゃ
渋谷大
進展しそうにないもんな
久留間悟
もともと学校関係の怪異って
久留間悟
大人には無反応なことが多いしね
久留間悟
昨日渋の字も言ってたけどさ
久留間悟
刺激しないに越したことはないんだし
久留間悟
そのお陰で色々仕込みはできたから
久留間悟
結果オーライでしょ
渋谷大
そだな
渋谷大
っ！
久留間悟
……汚臭が倍増
久留間悟
彼女、来たね
渋谷大
まずは様子見だろ？
久留間悟
そゆことー
久留間悟
朝仕掛けた小型カメラと集音マイクで
久留間悟
二人の会話、聞かせてもらっちゃいましょう
結花
来たよ！
結花
ごめんね、遅くなっちゃった
息せき切らせた様子で、階段を少女が駆け上がってくる
彼女は当然のように姿見の前で立ち止まると
その中を覗き込むようにして笑いかけた
途端、鏡に映った少女の姿が
彼女とは全く違う意思で話し始める
鏡
遅くなんてないよ
鏡
それより、毎日ここに来て大丈夫？
結花
大丈夫だよ
結花
私ほら、友達もいないし
結花
私が毎日なにをしてるかなんて
結花
気にしてる人は誰も
鏡
そんなこと言っちゃダメだよ
鏡
少なくとも僕は友達だろ
鏡
ここから動くことはできないけど
鏡
いつも結花を見てるよ
結花
ありがと
結花
私、ここに来て本当に良かったと思ってる
結花
最初はとっても怖かったけど……
結花
友達ができたし
結花
ずっと気になってた、のしかかるような重さも消えた
結花
少し古いけど、私の隠れ家だよね
鏡
事実だけど、古いは余計だなぁ
鏡
……ところで結花、気になるんだけど
結花
なに？
鏡
ここ、取り壊される予定とかある？
結花
え!?
結花
なにそれ、知らない！
鏡
昨日から、大人ふたりがウロウロしててさ
鏡
僕をじっと見てきたりしたんだ
鏡
ホームレスとかでもなさそうだし
鏡
もちろん先生とかでもなくて
鏡
ちょっと心配なんだよね
結花
……やだ、そんなの
結花
ねぇ、怖いこと言わないで！
結花
ここが壊されたりしたら、私
久留間悟
……この怪異
久留間悟
口八丁で相手に同調を促して
久留間悟
引きずり込むタイプじゃないか？
渋谷大
だな
渋谷大
今回は依頼者と被害者が別
渋谷大
しかも被害者は被害の自覚がない
渋谷大
下手に介入したら揉めると思うけど――
渋谷大
どうする？
久留間悟
現場付近で待機
久留間悟
なにかやらかしそうになったら
久留間悟
お前の判断で動いていい
久留間悟
俺は各階のカメラで周囲の警戒
久留間悟
お前のことも見てるから
渋谷大
はいよ
渋谷大
あとでな
久留間悟
はいな、そっちも気ぃつけて
鏡
分かるよ
鏡
僕だって結花を一人にしたくない
結花
じゃあもし本当に工事なんて始まったら
結花
私はどうすればいい？
結花
あなたみたいに大きな鏡
結花
私一人じゃ運べないし
結花
置ける場所だって
鏡
結花
鏡
大丈夫、どこにも行く必要なんてない
鏡
僕と一緒になればいい
結花
……え？
結花
そんなこと、できるの？
鏡
できるよ
鏡
でもそれをやると、もう二度と
鏡
家族や友達には会えなくなってしまう
結花
そんなの全然平気！
結花
私、なにをしたらいい？
結花
ずっとあなたと一緒にいられるなら
結花
こんなに嬉しいことないわ！
鏡
そう
鏡
そう言ってくれるなら――
鏡
僕も心が軽いよ
鏡像がひどく邪悪に笑ったのを、彼女は気付かない
まるで噴出するようにあふれ始めた黒いものを目に留めて
久留間はヘッドセットのマイクに口を寄せた
久留間悟
怪異、動くぞ
久留間悟
もうちょっとで着けるか？
渋谷大
あっちに気付かれねぇように動いてるけど
渋谷大
あと教室二つ分だ
渋谷大
この距離ならいつでもいける
久留間悟
おっけ、菜穂ちゃんも入ってきた
久留間悟
俺もそろそろ移動する
久留間悟
ちょっと分断状態になるけど
久留間悟
問題ないな？
渋谷大
あるわけあるか
渋谷大
こっちは平気
渋谷大
お前こそ大丈夫だよな
久留間悟
霊的な意味でなら、お前より強いよ
久留間悟
そっち頼むぞ
久留間悟
お互いに足引っぱるのはごめんだ
鏡
今の孤独や苦しみは全部忘れられる
鏡
ここに入るとき、気分が悪くなるかもしれないけど
鏡
気をしっかり持って
鏡
ここに入るんだって、強く念じて
結花
分かった
鏡
口に出して言うんだ
鏡
鏡に入りたいって
結花
……うん
結花
私、鏡に
結花
入りた――
その瞬間、強く床を蹴りつける音が聞こえたかと思うと
言葉を終えることなく、結花の体が崩れ落ちる
頸動脈を強く叩きつけた手を握り
白い髪が揺れた
渋谷大
初対面なのにごめんな、結花ちゃん
渋谷大
それ、言わせるわけにはいかねーんだわ
床に倒れた体をそっと抱え、鏡から距離を置かせる
鏡に映り込まない角度からの強襲
それを、鏡像は唖然とした表情で見下ろした
鏡
……あ、れ
鏡
結花……？
渋谷大
やっと顔出してくれたな、鏡の怪異
渋谷大
昨日からお邪魔させてもらってるけど
渋谷大
今日は本格的なお邪魔虫だ
渋谷大
三十路間近のオッサンが相手で悪いけど
渋谷大
ちょっと付き合ってもらえっかな
電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
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