何時から此処に居るのだろう。
何時まで此処に居るのだろう。
つい最近来たような、
随分と長い間此処にいるような、
時間の感覚がひどく曖昧になっている気がする。
見上げた空は濃い灰色の雲が覆いかぶさり、
冷たい風が頬を撫でる。
自分が今、いる場所。
それは、
古びた遊園地。
店員のいないお店が
メインストリートに建ち並び、
店の割れた窓から中を覗き込めば
床に散乱するのは
薄汚れた水色のウサギのぬいぐるみ。
真っ黒な瞳がじっとこちらを見つめている。
遊園地のほぼ真ん中にあるのは、
錆び付いたメリーゴーラウンド。
色が剥げ落ちた白馬たち。
時折、突然、乗客もいないのに
ブザーを鳴り響かせて
軋みながら動き出す。
音程のズレたオルゴール調の音楽。
嫌な音を立てて上下する白馬たち。
程なくしてその動きは止まり、
音楽も止む。
そして、
”ゴ利用ありガトうござイまシタ。”
機械的な声が響き、
辺りに再び静寂が訪れる。
そのほかのアトラクションと言えば、
幽霊船みたいなバイキング、
一つしかカップのないコーヒーカップ、
線路が途中で途切れたジェットコースター、
鏡がほとんど割れて足元に散らばるミラーハウス、
カートが一つも見当たらないゴーカート、
錆びた鎖の空中ブランコ、
回ることの無い観覧車、
そして、
時々誰もいないのに勝手に回り出す
メリーゴーラウンド。
ろくな遊園地じゃない。
どれもこれも色あせて古ぼけていて、
動いたとしても
まともに動きそうな気配が無かった。
飲食店もあるが、
店員はいないうえに
店は薄暗く陰湿。
厨房に入って冷蔵庫をあけたが、
そこには何も入っていなかった。
不気味。
その一言だ。
遊園地の四方は高い壁に囲まれ
外に出られないようになっていて
閉じ込められているようだった。
遊園地の奥に進めば
立派な門(ゲート)があり、
その向こうにRPGで見るような
異国情緒溢れる街並みが広がっていたが、
門には無数の南京錠がかけられ
簡単には開けられないようになっていた。
出入口が見当たらない。
どこから入って来たのか、
記憶に無い。
気が付いたら此処にいて、
出られずにいる。
自分以外の存在といえば、
色褪せた
半透明の人たち。
ぼんやりとした顔をしていて、
あっちへフラフラ
こっちへフラフラと
当ても無く彷徨っているようだった。
話しかけても反応は無い。
もちろん、触れることも出来ない。
また彼らも自分の存在に
気付いていないようだった。
彼らはまるで、
幽霊のようだった。
此処は
不気味で
居心地が悪かった。
……。
どうして僕は此処にいるんだろう。
何時まで此処にいるんだろう。
何時か、出られる日が来るのだろうか…。
それは、
何時になるのだろうか……。
そんなことを考えて、
一人、短針しかない時計を見上げる。
・
・
”ザッ…ザッザーー…”
スピーカーから雑音が聞こえる。
僕は色褪せたベンチに腰掛け、
欠けたスピーカーを見上げる。
”ハ、ハヤシ…マコ、トさん”
”ハヤ、シ…マ…コトさん”
”ナカ、ムラ…ヒト、シさん”
”ナ、ナカム、ラ…ヒトシさん”
”開かずの門…へ”
”来て…下、サイ”
途切れ途切れの
聞き取りにくい放送がかかる。
不定期で流れる放送だ。
名前を呼ばれ、
開かずの門へと招集される。
一度、
呼ばれてないけれど放送を聞いて
開かずの門へ行ったことがある。
門の前には二人の幽霊と、
そして、
薄汚れた水色のウサギの着ぐるみ。
一応、ここのマスコットキャラクターで
名前を”ディビット”と言うらしい。
その着ぐるみが門を軽く叩くと、
門についていた鍵が消え、
ゆっくりと開いた。
着ぐるみを先頭に、
幽霊も中に入って行く。
急いで駆け寄っても、
門はあっという間に閉じてしまい、
無数の鍵が再び姿を現した。
視線を門の奥に向けると、
三人はちょうど建物を角を曲がるところだった。
ピグニー
声が聞こえて振り返ると、
そこには
四角い箱を被ったヒトが。
箱の正面に書かれた〇と×は目を表していると考えると、
その下に書かれたギザギザは口、だろうか。
身体は至って普通?の人間で、
服装は真っ黒な燕尾服。
真っ赤なネクタイを締め、
手にはステッキを持っている。
彼の名前はピグニー。
ここの園長だという。
ピグニー
ピグニー
そう言って彼はステッキをクルリと回す。
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
それだけ言うとステッキを振るい、
その姿を消した。
ピグニーはいつもあんな調子だ。
突然現れて、勝手に消える。
それは、
同じことの繰り返しだった此処での生活の中で、
唯一の救いとなった。
・
・
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
ピグニー
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