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あーもんど
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及川くんがお店に来た日から一晩経った
〇〇は仕事へ向かうため
迎えの車に乗り込んだ
いつものように銀座に向かう
窓の外をぼんやりと眺めていた
昨日の事が、頭の隅に残っている
ーー明日の1時、新宿の駅前
〇〇
何を考えているんだろう
しばらくして〇〇は前を向いた
〇〇
運転手
〇〇は少しだけ止まる
〇〇
運転手は一瞬だけバックミラーを見る
運転手
自分でも
どうしてそんなことを言ったのか分からない
会ってどうするつもりなのか
話すつもりなんてない
声をかけるつもりもない
ただ
少しだけ
一目でも、彼を見たかったのかもしれない
新宿に着く
運転手が駅前の端に車を停めた
〇〇は窓の外の人達を見た
人が多い
待ち合わせをしている人
急いで歩いている人
その中にーー
いた
〇〇
すぐに分かった
はじめくん
3年前とは、少し違っていた
少し大人っぽくなっている
体も大きくなって、肩幅も広くなっていた
制服じゃない服を着ているせいか
昔よりずっと男らしく見える
〇〇は窓にそっと手を置いた
近づくことはできない
ガラスを1枚隔てて、距離は遠い
しばらくすると
及川くんがやってきた
なにか話している
及川くんが笑う
そしてーー
はじめくんが、及川くんの頭を軽く叩いた
ふふっと〇〇は笑う
きっとまた
余計なことでも言ったんだろう
変わってない。
そう思った
面白い。
面白いはずなのに
〇〇
気づけば、涙が頬を伝っていた
〇〇
1度拭う
けれど、止まらない
次から次へと溢れていく
〇〇は慌てて窓から目を逸らした
顔を俯ける
それでも、涙は止まらなかった
声だけは何とか抑えた
運転手はバックミラー越しに〇〇を見る
なにか言おうとして
やめる
少し気まずそうにしながらも
しばらくしてから静かに声をかけた
運転手
〇〇
運転手
〇〇
そう答えた声は
全然大丈夫そうではなかった
運転手はそれ以上、何も聞かなかった
ただ車を走らせる前
〇〇が落ち着くのを少しだけ待っていた
その日の帰り
〇〇は閉店間際の本屋に足を運んだ
向かったのは、文房具のコーナー
しばらく棚を眺めてから、原稿用紙に手を伸ばす
指先が触れたところで
1度手を引っ込めた
〇〇
馬鹿げてる
今更
そう思った
けれど、しばらくして
〇〇はもう一度手を伸ばしていた
原稿用紙を1冊、手に取る
そのまま会計を済ませた
家に帰る
デスクに座り、久しぶりにペンを取った
そしてあの原稿を開く
1ページ目
2ページ目
昔の自分が書いた文章を
ゆっくりと見直していく
〇〇
思わず呟いた
直したいところは沢山あった
言葉の選び方も、文章の流れも
今の自分なら、もっと上手く書き直せる
けれど
ページをめくる度に思った
やっぱりこれは
自分の人生をかけて書いた小説だった
だから、もう一度だけ
ちゃんと最後まで書いてみようと思った
それから、1ヶ月がたっただろうか
〇〇は完成した原稿を封筒に入れた
宛先は、内藤桃子
近くにあったポストに投函する
それだけだった
それだけなのに、少しだけ手が震えた
そして三日後
仕事中の〇〇の携帯がなった
画面を見る
内藤桃子
〇〇
電話に出る
すると
内藤桃子
内藤桃子
〇〇
〇〇
運転手
運転手
電話越しでも分かるくらい
桃子は興奮していた
内藤桃子
内藤桃子
〇〇
内藤桃子
〇〇はしばらく黙った
〇〇
内藤桃子
〇〇
気づけば半ば強引に話は進んでいた
でも
嫌ではなかった
今は正直、お金には余裕がある
これを今更やったところで
生活が変わる訳でもない
仕事をしながら書くなら
結局は内職のようなものだ
だから、〇〇は頷いた
電話の向こう側で内藤さんが嬉しそうに笑っている
内藤桃子
〇〇
内藤桃子
内藤桃子
内藤桃子
〇〇
内藤桃子
内藤桃子
そう言って電話が切れた
静かになった部屋で、〇〇は携帯を机に置いた
〇〇
それから
〇〇
ペンネームは適当に決めた
それほど思い入れも要らなかった
ただ
ふと頭に浮かんだ漢字を選んだ
ーー綴
綴る
言葉を繋ぎ合わせる
離れていたものを、つなぎ合わせる
そんな意味がある
〇〇
悪くない
〇〇は紙にその文字を書いた
そして、その下を空ける
ーー題名
〇〇
ペンを持ったまま考える
けれど、なかなか浮かばない
時計をみる
いつの間にか、夜は深くなっている
気がつくとみんなの声は聞こえない
〇〇はもう一度、紙に目をおとした
題名はまだ、空白のままだった
新宿で会った日の夜
2人は駅から少し離れた静かな居酒屋にいた
昔のようにくだらない話をして
酒を飲む
そんな時間がしばらく続いた
及川
岩泉一
及川
及川がグラスを置いた
及川
岩泉の手が止まる
岩泉一
及川
少しだけ間を置いて、及川は続ける
及川
及川
岩泉一
声が低くなる
岩泉一
及川
岩泉一
及川は黙って岩泉を見る
及川
それから
少しだけ視線を落とした
及川
及川
及川
岩泉は何も言わなかった
及川
及川はグラスを持ち上げる
及川
及川
岩泉一
岩泉はしばらく黙っていた
そして、小さくため息をついた
岩泉一
岩泉一
及川
岩泉一
いつもの様に返す
けれど、すぐに表情が戻った
岩泉一
遠くを見るように言う
岩泉一
岩泉一
3年前
〇〇が何を抱えていたのか
どれだけ追い詰められていたのか
岩泉一
岩泉一
及川
岩泉一
岩泉はグラスを見つめる
岩泉一
岩泉一
少しだけ笑う
岩泉一
岩泉一
及川
岩泉一
岩泉一
母親からの重圧
自分の人生を自分で決められない苦しさ
その全部を抱えていた〇〇に
岩泉一
岩泉一
及川は首を振った
及川
岩泉一
岩泉は即答した
岩泉一
岩泉一
及川
及川は少し考えてから言った
及川
及川
岩泉は答えない
及川
及川
岩泉一
及川
及川
及川
及川
しばらく沈黙が続く
やがて岩泉がぽつりという
岩泉一
岩泉一
岩泉一
及川が顔をあげる
岩泉一
岩泉一
岩泉一
岩泉一
岩泉は少しだけ笑った
岩泉一
及川
岩泉一
及川はそれ以上何も言わなかった
しばらくして、グラスを置く
及川
岩泉一
及川
珍しく真面目な顔をしている
及川
及川
岩泉一
及川
岩泉は黙って聞いている
及川
岩泉一
及川は少しだけ笑う
及川
及川
及川
岩泉は答えなかった
ただ、しばらくしてから
岩泉一
及川
岩泉一
その顔にはほんの少しだけ
3年前にはなかったものがあった
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