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昭和末期――。
その小さく古い病院には、昔からとある【いわく】がある。
少し前の時代には、個人医院にて少数の入院病棟がある病院も珍しくはなかった。
病床数も10にも満たず、もちろんスタッフの数も最小限。
設備だって、決して充実しているわけではない。
看護師
看護師
夜間見回りの看護師は、自分に言い聞かせるかのごとく、懐中電灯片手に病棟を回る。
小さな病院である上、前時代のごとく消灯時間後は廊下まで消灯してしまうのだから堪らない。
看護師
看護師
自分に言い聞かせながら病棟を足早に進み、部屋をさっさと見て回る。
ふと、とある部屋の前で立ち止まった。
その部屋の扉には【使用禁止】の貼り紙。
看護師
そこは、ずっと前から使用が禁止されており、先輩達の話だと――どうやら、出るらしいのだ。
何が出るのか――まではみなまで言うまい。
普通、緊急時のために病室には鍵をかけないのであるが、この開かずの間だけは例外だった。
看護師
看護師
足早にその場を立ち去ると、残りの病室も見て回る。
なぜ、この時代に個人医院の小さな入院病棟が満床なのか。
誰か教えて欲しいものだ。
看護師
ナースステーション……と呼ぶにはあまりにもみずほらしい、いわゆる昔ながらの詰め所に戻る。
この日の勤務体制は、医師が1人と看護師が2人。
いや、当時はまだ看護師ではなく、看護婦と呼ばれていたか。
看護師
この病院の夜間体制では、緊急時ではない限り、看護師が交代で仮眠をとる。
後少しで交代の時間だった。
看護師
彼女が安堵した矢先のことだった。
詰め所にあるナースコールが鳴る。
その発信源を見て、彼女はぞっとした。
看護師
開かずの間には、当然だけど誰も入院していない。
それに、鍵もかかっているから、そもそもナースコールのボタンを押せるわけがない。
看護師
看護師
まだ交代時間には早かったが、奥の仮眠室で休んでいる先輩の元へ向かう。
医師
医師
騒ぎを聞いて、詰め所の手前にあるドクターの詰め所から医師が顔を出した。
看護師
医師
医師
そう言いつつ、やや不機嫌な様子でナースコールの受話器を取る。
医師
恐る恐ると医師がナースコールを取る。
医師
問いかけてみるが、舌打ちをしてナースコールの受話器を置く。
医師
看護師
交代時の不備がばれてしまう――そんなことをふと考えた彼女であったが、医師は随分と慌てた様子だった。
医師
医師はそう言うと、詰め所を飛び出して行った。
看護師
看護師
彼女は慌てて仮眠室へと飛び込み、先輩看護師を起こしたのであった。
未明――開かずの病室から、その病院の医院長の他殺体が発見された。