人間の一生はあまりにも儚い
――ハロー、バイバイ
我々の感覚ではこれくらいだと神様は言った
佐竹美香
小林
小林
幸福が何なのかを知らずに一生を終える者もいる それを教え与えるのが天使の仕事だ
悔いのない幸福な人生だったと言って終えることで その幸福の連鎖は周囲の者へも広がる
佐竹美香
アマノ
アマノ
一ヶ月後
ピロン
美香
美香
アマノ
アマノ
アマノ
アマノ
美香
昼休み
アマノ
佐竹美香
隣で優しく微笑む彼女こそが オレのターゲットである佐竹美香だ
彼女は2年前に恋人を事故で亡くしている 暴走した車から彼女を守ってのことだった
佐竹美香
アマノ
言葉の出ない口元に伸ばす左手の薬指には 彼女の心を占めているのは死んだ彼だという証である 傷だらけの婚約指輪が今でもしっかり嵌っている
佐竹美香
死者への強い思いは時として、重い足枷になる 生者にとっては、死を引き寄せる足枷に 死者にとっては、生前の未練を引きずる足枷に
佐竹美香
佐竹美香
彼女にはもうすっかりその足枷が馴染んでいる 新しい一歩を踏み出せないほどに重い足枷が
アマノ
佐竹美香
アマノ
佐竹美香
佐竹美香
アマノ
佐竹美香
アマノ
アマノ
3時間後
小林
オフィスの入り口からひとりの若い男が手を振っている
小林
小林がこうしてオレの元へやってくることも計算済みだ
小林
小林
小林
耳まで真っ赤にした小林が自分の手で顔を隠す
アマノ
アマノ
小林
小林
アマノ
アマノ
小林
小林は美香の恋人だった男の高校時代からの後輩で 自分に何かあったら美香を頼むとその男から言われていたらしい
小林
これはオレの憶測にしか過ぎないが…… 死んだ恋人は小林が美香に惚れていることに気づいていた 死者の言葉は生者を縛り付けるから厄介だ
アマノ
小林
小林
アマノ
小林
数週間後
地上での仕事も残り一ヶ月を切る中、 彼女と小林は少しずつ距離を詰めていった 成功へ向かっていることに喜ぶべきなのに……
アマノ
ピロン
美香
アマノ
昼休み
佐竹美香
アマノ
佐竹美香
アマノ
佐竹美香
佐竹美香
佐竹美香
アマノ
佐竹美香
アマノ
アマノ
佐竹美香
彼女が傷だらけの指輪を無意識に撫でた瞬間、何かが弾けた
アマノ
アマノ
アマノ
佐竹美香
アマノ
彼女の姿がドアの向こうに消えていく
アマノ
アマノ
先輩天使
振り返ると屋上のフェンスに先輩天使が腰かけていた
先輩天使
先輩天使
アマノ
再び問いかけても、そこにはもう誰もいなかった
数日後
結局オレは彼女に謝る勇気も出ず 天使の姿に戻り彼女を見守っている
アマノ
ピロン
美香
美香
アマノ
美香
美香
美香
アマノ
美香
美香
地上を見下ろすと、彼女が今まさにマンションから飛び出し 小林の元へ向かおうとしているところだった
一台のトラックが走り抜けようとしているのが視界に入り 嫌な予感に背中の羽根が毛羽立つ
アマノ
佐竹美香
急カーブでバランスを失ったトラックが彼女へと――
彼女へと手を伸ばした瞬間、足元からガチャンと音がした
アマノ
足元が軽くなると同時に全身を襲う強い衝撃
アマノ
――そしてオレはすべてを思い出した
小林
騒ぎを聞きつけたのか、顔を真っ青にした小林が走ってくる
小林
オレが天使になった理由を知っているか?
オレのいない世界で生きていく強さを与え お前を幸せにしてやりたかったんだ
オレはお前を幸せに出来ただろうか
佐竹美香
小林
佐竹美香
小林
佐竹美香
小林
小林
最後の力を振り絞り、関わった人々から記憶を そして彼女の指から傷だらけの指輪を消す
アマノ
今なら言える――悔いのない人生だった、と
一年後
佐竹美香
小林
佐竹美香
アマノ
佐竹美香
小林
佐竹美香
アマノ
バサッ
アマノ
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