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桔平と真由美に拒絶(きょぜつ)されてから、数ヶ月後。

カエデは無事に、中学生になっていた。

――いや、無事 ではない。

不良男

ギャッハッハッハ!

不良男

でさあ、もっくんがさあ!

先生

こら!静かにしなさい!

不良男

うっせえんだよババア!

不良男

お前の方が静かにしてくださ〜い

不良男

なー、やっぱフケてカラオケ行こうぜー

不良男

賛成〜

カエデ

……信じられない

中学校での生活は、カエデが期待していたものではなかった。

個人情報が流出したカエデは、小学校卒業と同時に、遠く離れた県に引っ越した。

しかし、それでもカエデに執着(しゅうちゃく)する人が、絶えることは無い。

今はSNS上だけでなく、現実でも追い回される日々が続いていた。

中学校の受験は、セラーノベルでの所業が知らされて、どの県のどの学校も不合格。

結果、唯一カエデの仕出かした事を把握していなかった、地元の公立中学へ入学する事になったのだが……

カエデ

流石、受験もなんも無いド底辺校

カエデ

ガラが悪すぎる……

不良男

じゃ〜センセ、オレら早退しま〜す!

不良男

あとは適当にヨロで〜す

先生

ちょっと、どこに行くの!?

カエデ

なに、これ?ほんとうに私と同じ人間なの?

カエデ

教室でじっとしていられない、周りのことも気にせず大声で喋りまくる

カエデ

そういうヤツに限って、何故か煙草(たばこ)クサい

カエデ

私以外、全員サルなんじゃないの?

カエデ

これじゃあ勉強どころか、授業に集中する事すらままならないじゃない

カエデ

こんなところに入れられたのも全部、全部桔平のクソのせいだ……!

カエデ

アイツさえいなければ、今頃は一流校で充実した中学生活を送れていたはずなのに……!

カエデ

なんで私がこんな目に遭わないといけないの!?

カエデ

カエデ

ハァ、もうなんだか真面目に授業を受けるのもバカバカしくなってきたわ……

カエデ

推しの動画、上がってないか見ちゃお

カエデ

授業中に推しの配信を見ても怒られないって、こういう所だけは不良校様様だね

カエデ

カエデ

それ以外は、全部動物園の檻(おり)の中にいるみたいで、しんどいけど

カエデ

卒業までの辛抱(しんぼう)だから、頑張れ!私!!

カエデ

いい高校に入れば、楽しい事が待ってるんだから!

カエデ

それまで頑張って耐えるんだ……!

カエデ

あーあ、早くこんなサル共から離れたいなあ

カエデ

無事に卒業したら、高校で勉強を頑張りつつ、部活も楽しむの!

カエデ

そうして頭の良さが評価された私が行くのは、一流大学!

カエデ

大学でいい人を見つけられたら、私はその人と結婚するんだ!

カエデ

そうだ!結婚式には、アイツらも呼んでやろうかな?

カエデ

私の晴れ姿を見せて、一生モノのトラウマ、植え付けてやるんだ!

カエデ

あーあ!ほんっとに楽しみだなあ!

カエデ

だから今は我慢して……

カエデ

カエデ

ああもう!スマホ見てないと落ち着かない!

カエデ

教科書と先生の話だけじゃ、集中できない!

カエデ

授業なんてもう、受験勉強で先取りしてて知ってる話でつまんない!

カエデ

誰かが騒いでばっかりで、内容が入ってこない!!

カエデ

この時間、意味あるの!?

カエデ

ほんっと、最悪なクラス!

スマートフォンにのめり込むようにして、机の上に突っ伏すカエデ。

それでも、耳障(みみざ)りな声は止まない。

それどころか、別の雑音まで混ざり出す始末だ。

不良女

てか、マジでアイツキモくね?

不良女

わかるぅ!なんであんな陰キャがこのクラスにいんのって感じぃ〜

不良女

ね、真面目ちゃん気取ってさ

不良女

行く学校間違えてんだろ、アレ

不良女

どーしたんだろうね?お受験全滅とかしたのかな!?

不良女

それはダサイって!アハハ!

不良女

え、2人共知らねーの?

不良女

アイツ、ネットでヤベー事やってたらしいよ?

不良女

あれっしょ?有名人のなりすましやって、本人からガチギレされたってヤツ

不良女

マジ!?だとしたらアイツ超やべえじゃん!?

不良女

いやー、怖いしキショい

不良女

略してコワキショ

不良女

頼まれたって関わり合いたくねえわ〜

不良女

アタシも同感〜

カエデ

カエデ

……うるさい

カエデ

うるさいうるさいうるさい!

カエデ

なんで?

カエデ

なんで達がセラーノベルの事、知ってんの……!?

カエデ

私はアンタ達みたいな猿とは違う!

カエデ

私はコイツらより上の存在なの!

カエデ

それなのに……なんでこんな目に遭わなきゃいけないの!?

カエデ

もうやだ、こんなのやだ!

カエデ

早く終わってよ!

カエデ

授業も、このクラスも、中学生活も!

カエデ

早く終わってってばぁ!

そんな中でも、信じていた。

時が経てば、自分の境遇(きょうぐう)も少しは良くなるはずだと。

信じていた。

今は底に落ちた自分でも、人並みの幸せを手に入れ、夢のひとつでも実現できるのだと。

信じていた。

母は桔平達と戦い続けて、必ずや、カエデを苦しめる人々から解放してくれると。

しかし……

あの事件から、約10年後。

男達

へへ、またねいろはちゃん

???

うん!また来てね〜!

カエデはいろはと名前を変え、夜の世界で生きていた。

男達

次は指名しちゃおっかな〜なんて!

カエデ

ありがとぉ!気を付けてね〜!

カエデ

カエデ

あー……かったるい

カエデ

ここしか行き場がないから、続けてるけどさあ

カエデ

もう辞めたいわー

カエデ

お酒で声はガラガラだし、昼夜逆転生活で疲れが取れないし

カエデ

なんでこんなこと、してんだろ……

10年という時の中で、カエデの夢見た『人並みの幸せ』は、音を立てて崩れていった。

カエデ

高校も、大学も、セラーノベルでの事が何故か知られていて……不合格にされた

カエデ

『この事件は昔の話だけど、貴方の人間性を表している』だって?

カエデ

『こういう事が出来てしまう人は、恐ろしくて学校に入れられない』って!

カエデ

『我社に不利益をもたらしかねないから、採用を見送る』って、どういう事!?

カエデ

マジでふざけんなし!

カエデ

高々数分で、私の人間性の何を知ったつもりでいるワケ!?

カエデ

私を貶(おとし)めた奴らの方が、よっぽど腐ってるじゃない!

街の大通り、ビルの壁面(へきめん)に映る男を、カエデはじろりと睨(にら)みつける。

カエデ

私の邪魔をしたアイツらは、のうのうと過ごしているのに……!

アナウンサー

本日は今話題の恋愛物語、『私と海と君』の作者、江田桔平さんに来ていただきました!

アナウンサー

よろしくお願いします!

桔平

はい、よろしくお願いします

カエデ

……え?嘘でしょ、ほんとに?

しかし、声は間違いなくあの男のものだ。 あの雨の日に会った時よりも、少し老けたようだが、声は変わっていない。

彼の変わりように、心の中で舌を出して、作り物めいた女の顔が笑う。

カエデ

ふふ、ざまぁみろ!

カエデ

こーんなみっともない、醜(みにく)い姿になってさあ!

カエデ

その点、私はキレイだから!誰からも愛されるんだから!

カエデ

今の私は美人キャバ嬢、いろはちゃん!

カエデ

ホントはもっと稼げるんだけど……ねえ?

カエデ

私は下の方で留(とど)まってあげてるの!

カエデ

私が本気なんて出したら、美人すぎて、みんな私の取り合いになるから!

カエデ

全部、私への嫉妬(しっと)を防ぐためだからね!

カエデ

それにしても、本当に可哀想!

カエデ

アイツは冴えないおっさんになった!

カエデ

それに比べて私は、綺麗なまま、夢のある世界で生きてる!

カエデ

どっちが勝者か、明らかよね!

カエデ

ふふふ!ハハハハ!

アナウンサー

さて、今では女子高生を中心に爆発的ヒットしている『私と海と君』ですが

アナウンサー

これだけ人気が出た理由について、どうお考えですか?

桔平

理由ですか!そうですね……

カエデ

カエデ

ちょっと、待って……

カエデ

アイツが……桔平が?

カエデ

それも大ヒットって、なんなわけ……!?

カエデ

カエデ

ありえない!きっと人気を金で買ったんだ、コイツは!

カエデ

だって、私を嵌(は)めた極悪人だよ!?

カエデ

こういう汚い事、してるに決まってる!

カエデ

なのに、こんなに人気になってるの!?

カエデ

まぁだアイツを応援しているヤツがいるっての!?

カエデ

おかしいでしょ!

カエデ

そんなにアイツを支持してどうしたいの!?

カエデ

何が面白いの!?何が楽しいの!?

カエデ

あんなくたびれた小説家なんかを追いかけて、何になるの!?

カエデ

私の固定客なった方が、よっぽど良いでしょ!?

カエデ

あんなヤツのファンになんてなるくらいなら、私に貢(みつ)ぎなさいよ!!

カエデ

何でみんな……私を見てくれないの!!

カエデ

私の事、そんなに嫌いなの!?

舌を出していた心の内は、いつの間にかどす黒い殺意に満ち満ちていた。

カエデ

なんでよぉ……

カエデ

私の方がずっと可愛くて、スタイルも良くて……

カエデ

お酒も上手に作れるし、接客だってできる

カエデ

男受けのいい趣味を持ってるし、お洒落(しゃれ)だって欠かさない!

カエデ

努力を怠(おこた)らないからこそ、私はこんなにもキレイになったのに

カエデ

どうして私の事を愛してくれないの!?

カエデ

なんで桔平ばっかりチヤホヤされるの!?

カエデ

不公平だよ!ズルいよ!

カエデ

みんな私のこと好きになってよ!

カエデ

お願いだからぁ……!

タバコの吸殻や、かつて人の腹に収まっていた物が撒(ま)かれたアスファルトに、カエデは両手と両膝をつく。

ぼろっ、と零(こぼ)れた涙を拭う手は、白く若々しくあるはずなのに……

カエデの目には、どこまでも汚れているように見えた。

終(つい)ぞ自分の過ちを認めなかった彼女は、過去の自分の罪に囚われるのだ。

それも、 この先何年と、何十年と。

それだけ、彼女が傷付けた人は多かった。

しかしカエデは知らない。 自分があの時傷付けた人達が、今も尚、怒りを燃やしていることを。

彼女に『復讐』としての制裁を与える事が、人生の一部になってしまっている事を。

名前と名誉を、一時とはいえ奪われた『被害者』は忘れない。 被害者の大切なものを踏み躙(にじ)った、悪意を持った『加害者』を。

それでも、カエデに救いの手など、もう差し伸べられはしない。 あの日の冷たい雨の中に、彼女とその母が拒んでしまったから。

全ては自分自身が蒔(ま)いた種が、数多の恨みという雨水を受けて、花開いただけの事。

その結果として、カエデはもう、輝(かがや)ける1番にはなり得ない。

『1番』どん底に落ちた者として、バカにしてきた人達を、見上げるしかできないのだ。

カエデ

『偽りの自分』が作った過(あやま)ちなんだから、『偽りの自分』が精算(せいさん)しろって?

カエデ

巫山戯(ふざけ)んじゃないわよ……!

こうして恥知らずな言葉を吐く限り、カエデが自らの望む形の幸せを掴む事は、永遠にできないのだ。

そして今日も……

雨は、止まない。

至高 [完]

今回の表紙は、Ilia Bronskiy様よりお借りした著作権フリー素材を、私の方で加工いたしました。

Ilia Bronskiy氏 @idbronskiy https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/%E9%AB%98%E5%B1%A4%E3%83%93%E3%83%AB%E3%81%AE%E7%99%BD%E9%BB%92%E5%86%99%E7%9C%9F-XZQD38y3Xy4

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